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御相伴衆~Escorts 第一章 第三回 数馬編③「深窓の姫君」

「お前たち、命拾いしたな。三の姫様に、感謝するんだな」

 来る時に、中庭で見た女の子、お姫様だったんだな。
 ニッコリされた。俺は、軽く会釈で返した。本当は流儀とかあるんだろうが。そんなの知らないからな。

「・・・桐藤きりと、また、怖い顔して。女美架めみかの悪口を言った子が、学校を退学になって、お家は断絶になったって、本当なの?桐藤が、お母様に言いつけたから、と、聞きました」
「誰が、そんな事を?僕たちは、姫様の学校の送り迎えをして、ご一緒にお勉強をしたり、市井に遊びに行く時のボディーガードをしているだけです。桐藤は、姫様を一番大切に思っているから、たまには、そのようなこともあるかもしれませんが」
「三の姫様、全て、姫様の御為おんためなのですよ」

 酷ぇ話、聞こえたけど・・・悲しそうな顔になった。優しいんだ、この子。

「・・・桐藤は、私には、とても、優しいのに。他の者には、厳しすぎるのが、怖いです。・・・あの、慈朗、もう、頭を上げて。いいですよ。いつも、疲れたお母様の、お話相手をありがとう。慈朗と会うと、頭の痛いのも取れて、よく眠れるのだそうですよ」

 成程、姫は、毒されてない感じだ。これは、皇宮の方針なんだな。

 お話相手ね。・・・お妃の頭痛を取る為に、慈朗は、咬み痕をつけられてるんだろうから。

「そんな、勿体ないお言葉、ありがとうございます」
「お姉様も、お話を聞いてほしいんだ、って、仰ってました」
「・・・それは、二の姫様ですか?」
「一の姫様に限って、そんなことは・・・?」

 なんか、丸解りだ。大変だな、この二人も。

 公の役目として、昼間は、三番目のこの子と、ハイスクールに行き、夜は夜で、上二人の姉姫の・・・慈朗のいう所の××処理、というわけか・・・、あああ、また、慈朗、虐められそうだな。

「私、数馬と、お話がしたいです」
「え?」

 桐藤、柚葉、そして、慈朗までもが固まった。皆、俺の顔見てる。なんだこりゃ。

 勿論、彼女の場合、文字通りのお話で、無邪気な申し出なんだろうけど。あああ、余計なこと言わないでほしかったよ、お姫様。俺も虐められる。まあ、そうでなくても。

「それは、また今度で、いいのだけど。ここの皆様は、お友達だと聞きましたから。どうか、仲良くしてくださいね。桐藤、厳しいだけでは、下の人達は、可哀想です」
「大丈夫ですよ。ご心配に及びません。それより、お勉強の方は?宿題は、スメラギ史と、国語だったような、柚葉、頼む。お部屋へ、姫をお連れして、宿題を見て差し上げてくれ」
「わかりました。じゃあ、女美架姫様、まいりましょう」
「ちょっと、待って」

 あ、また、ニッコリされたけど・・・。

「あの、一つだけ、数馬、貴方は、学校のお勉強は、何が、得意なの?」
「女美架姫様、」
「俺は、学校は小学校までしか出てないんですが・・・。しいて言えば、体育かな。後は、音楽ぐらいで・・・」
「・・・そうなのね、慈朗は?」
「・・・いえ、僕は、学校には、行ってませんから」
「でも、絵が得意よね、それと写真、知っているわ」

 イライラした、桐藤が、お姫様を遮る。

「姫、いい加減に、来週の市井へのお買い物を中止しますよ。このままでは」
「・・・ごめんなさい・・・じゃ、行きます。またね、慈朗、数馬」

 姫は、こちらに手を振りながら、柚葉に連れられて、部屋を出ていった。

 さてさて、桐藤たちに、また、色々言われたり、されたりするんだろうな・・・。あ、来たぞ。

「まあ、ここでのお前らの序列ポジションが、これで、解っただろう?俺たちにいじられてる内は、まだいいがな。上に目を付けられたら、こんなことじゃ、済まされない。慈朗、お前が粗相したら、お前の命だけじゃ足りないんだぜ。せっかくの爵位を頂いたお家は、どうなる?まあ、そもそもが、格のないしずの者たちが、貴族の仲間入りしたって、肩身が狭いだけだろうけど」
「・・・」
「数馬、お前、流石、二の妃様に認められただけのものがある。お前とは、今後も色々と、ありそうだな。だが、これだけは言っておく。くれぐれも、姫様たちには、近寄るな」

 桐藤は、更に、俺に近づいてきて、ダメ押しの様に詰めよった。

「その機転と、度胸の良さは、俺としても、誇らしく思う。その派手な芸とやらは、恐らく、この皇宮では、重宝されるだろうな。皆、暇を持て余しているから・・・。だがな、これだけの務めではないこと、解ってるだろうな・・・、そこは、慈朗の得意分野だから、よく教わっとけ。・・・ああ、そうか、そこは、言うまでもなかったな。頼もしいことだ」

 なんだ、ちょっと、態度が軟化したぞ。そうか、つまりは、俺のスペックというか、それを見て、味方にしようとしてるとか?

「俺たち四人は、密かに『御相伴衆エスコーツ』と呼ばれることになった。ひょっとすると、また、メンバーが増えるかもしれないが・・・。このスメラギの為に、この皇宮での裏の働きをすること。それが、俺たちのお役目だ。二の妃様の直属として、仕え、尽くすこと。お前のその力、きっと、役立つに違いない。俺が、その中の纏め役を仰せ使っている。せいぜい、尽くし、役立つことだ。・・・慈朗、良かったな。こいつは、お前を護るんだろうから、繋ぎ止めておくことだ」

 そう言うと、桐藤は、部屋を出ていった。
 まあ、色々とあった。良かったのか、悪かったのか・・・。

「大丈夫か?お前」
「うん・・・、まあ、こんなのしょっちゅうだけど・・・君が来て、規模が大きくなったみたいだな」
「だったら、すまん」
「・・・まあ、いっか。話できる相手ができたから・・・あ、いや、そういう意味じゃないから・・・」
「ああ、笑ったな。あの『お話』ってさ。・・・三番目のお姫様?あの子だけが、純粋培養で優しいんだな」
「そうかも、お姫様は皆、優しいみたいだよ。あれに『情深さ』が付け加えられるんだって。それが、桐藤と、柚葉のお役目みたいね」
「『情深さ』って・・・はあ、成程ねえ、・・・あのさ、どうして、ここ、窓も、ドアも開いたままなの?」
「俺たちが、妙な気起こして、逆らわないよう・・・あああ、また、潜る?」
「今は、近くに、誰もいないみたいだけどな」
「夜には、閉まるけどね」

「失礼します」

 その時、ルナという、俺をここへつれてきた召使いが、何か、荷物を持った男たちと現れた。男たちは、荷物を置くと、すぐ部屋を出て行った。

「ようございましたね。見事、第二皇妃様のお心を得たようで、私どもにも、褒美が出ました。ありがとうございます。数馬、これが、貴方のお荷物と、他の者たちの持ち物です」
「・・・あ・・・・親爺たちの・・だ・・・ありがとう」
「・・・」
「・・・親爺たちは?」
「・・・存じません」
「・・・これ、髪の毛だ。・・・結い髪してた。兄者や、皆の」
「ご自覚して頂く為だと思いますよ。お辛いとは思いますが、もう、祖国をお忘れになり、ここで、お妃様にお仕えすることに、専念なさってください」

 そう言って、月は、頭を下げ、部屋から出ていった。

「・・・そうだったね、・・・仲間がいたんだったね」
「うん、でも、血の繋がりはないんだ。俺、捨て子だったから。旅の小さな芸人の一座に拾われて。親爺や、兄者、皆、一族ではなかったけれど、本当の家族以上の家族だったよ・・・」

 涙が出た。ここまで、色々、あり過ぎて、そんなことを考えてる暇はなかった。何か、全身の力が抜けた。もう、皆、いないんだ・・・。

「数馬・・・」
「大丈夫だ、・・・なんだよ、今頃になって、お前が泣くなって」

 慈朗は、俺を抱き締めた。習い性なのか、俺の涙の後を唇ですすってる。

「よせって。俺はまともだから、そんなこと、商売の時しかしない」
「ごめん、つい・・・、なんか、慰め方、解んなくて・・・でも、でも、数馬の辛いの、解るから」

 最初は、随分、ドライに構えていたなあと思ってたけど、実は、ちょっと、安心した。慈朗は、毒され切ってはいないんだな。

「いいか、慈朗、どんなに辛くても、自分をおとしめるなよ。・・・俺も、頑張る。賑やかし、が俺の得意だから、これまでも、さっきみたいに、皆を惹きつけて、色んな技を見せてきたんだ。親爺たちが教えてくれた、この芸を忘れずに、精進して。さっき、桐藤が、ここの人達は暇だと言ったろう?だから、芸を見せて、愉しませようと思う」
「数馬・・・」
「よかったら、手伝ってくれ」

 俺も、泣いてる暇はねえな。

                             ~つづく~


みとぎやの小説・数馬編③ 御相伴衆~Escorts 第一章 第三回

 お読み頂きまして、ありがとうございます。

皇国第三皇女 女美架

 「ひめさまのおでかけ」の女美架姫が出てきました。
 今、しばらく、イラストが鉛筆画ですみません。既出のものも、カラーにてアップデートしたいと思ってはいるのですが・・・。今、しばらく、お時間を頂きたいと思います。

 三人姉妹の姫たちのうちで、特に父皇帝に可愛がられている末っ子の姫です。陰謀渦巻く、暗雲垂れ込める皇宮すめらみやの中で、唯一清らかな、心優しいお姫様です。母、第二皇妃のスペックは「堪えぬ渇望、男勝りの豊艶な側室」に描かれていますが、そこから見たら、考えられないほどの、穏やかで優しい性質、恐らく、穏やかな父、不羅仁帝に似たのでしょう。
 今後、このお姫様が、数馬たちと、どのように関わってくるのか、お楽しみになさってください。

 ちなみに、こちらが姫様のおでかけです👆
 この後の女美架自身の人生を、絵本のお話のように擬えていました。
(発表当時は、この伏線の仕掛けを説明してはいませんでした。気になる方は、本編と照らし合わせてみてください)

 こちらが第二皇妃の若かりし頃の話です👆
 良かったら、お読みください。

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