その変わり目 4 ~その変わり目 第四話
「はっきり言うから、聴いてもらっていい?」
「あ、はい」
「さっきの続き」
「先輩の件と、相崎部長の件の間で、言いかけてたことね」
「えーと・・・あ、」
カラフルなお弁当、花畑に負けてないかも。
おあずけ、ってわけじゃなく、・・・取り分け始めてくれてるね。
そのまんまで、いいからさ。・・・話、聞いててほしいな。
「前から、機会を伺ってたんだ。個人的に話ができて、こうやって、会ったりできないかって。もう、岩崎ビルには、俺、三年通ってて、・・・長かったなあ」
「・・・そうですね。貞躬さん、営業担当、長いですよね。ずっと、来られてて、はい、どうぞ」
美味そうだな、肉巻きお握り。
・・・って、聞いてる?はっきりしてないのか?これじゃ。
どこかをスルーしちゃう癖があるのかな?
でも、サットンの親爺の弄りも、結局、解ってたし。
「んー、ありがとう。あー、食う前に、言わせて」
「・・・はい」
「つまり、三年越しなんだよ」
「担当さんで」
「あああ、それもそうだけど、ずっとね、卯月さん、誘いたくて」
あ、解ったみたい。・・・手、ちょっと、震えてるよね?
「え、それって」
「解った?」
「・・・」
紙皿置いて、口に両手、当ててるね。またあ・・・泣かないでよ。
「間違ってなければ・・・」
「多分、間違ってないと思うけど・・・俺とつきあってほしいんだけど」
「・・・嘘」
「なんで、この期に及んで、嘘つくの?休みの日まで会って。先輩にも誤解ではなくしたら、いいかなと。いい案だと思うんだけど」
「・・・わあ」
「どうかな?」
「・・・はい」
「それ、いいってこと?」
小さく、頷いてくれた。
「ありがとう。じゃあ、今日から、そういうことで、このまま、ランチ続行ね。頂きまーす。んー、やっぱり、美味いっ。料理、本当に上手なんだ。こないだのサンドイッチも良かったけど、今日のは、完全オリジナルだし・・・嬉しいよ」
笑い泣きしてる。隣のベンチでも、カップルがファーストフード、ぱくつき始めた。
「はい、はい、涙、拭いて、ほら」
「うん」
ポケットティッシュ、あった。渡すよ。
「食べたら、薔薇園のあそこ、小さな迷路になってるとこ、行ってみようか」
「はい」
下、向いてる。顔真っ赤だ。
「これ、二つ目、行ってもいい?」
「あ、どうぞ。・・・あの、貞躬さんは、何が好きですか?」
「・・・いきなり、大きい質問みたいだけど」
卯月さん。
「あ、食べ物で」
「卯月さんが作ってくれれば、それがいいかな」
あー、また、困った顔になった。
「リラックスして。少し、抑えるから、こっちも、ごめん」
「あ、いいえ」
「まあね、思いだしてもらえば、解ると思うけど、割に、思ってること、言っちゃう質だからね」
「・・・そうみたいですね」
え・・・。やっぱ、そうなんだ。確信犯な所もあるのかも・・・。
狡いなあ。黙ってるだけ、見てる、思ってる、ってあるからな。
お互い、上がってる確認だな、こんなの。
「はあ、美味い」
「・・・嬉しいです」
「それ、何?」
「鮭高菜」
「嘘、どれ?」
「これです。小さめの、あと3つありますから」
「ありそで、なさそな組み合わせだな。後で、それ行く」
「私のお気に入りです」
「そうなんだ、やっぱ、高菜好き?」
「うん」
「・・・肉巻きは?」
「あんまり、得意じゃないから」
「あー、俺用なんだ。じゃあ、これ、嬉しい、ありがとう。これね、男は皆、喜ぶ、肉嫌いじゃなければ」
「上手に食べますね」
「勿体ながりだから、溢さない。残さない」
「うふふ」
笑ってくれた。あー、安心した。
「いい天気で良かった。薔薇日和だあ」
「はい」
声に力が出てきたぞ。それでいいよ。
一頻り、メニューを一巡すると、って、かなり、俺が食べた。
そんな感じなの、解ってるから。
後で、落ち着いてきたら、甘いものでもご馳走するつもりで。
鮭高菜のやつ、ずっと、持ってて、なかなか、小さくなんなかったね。
「殆ど、俺が食っちゃったんだけど、ご馳走様」
「いいんです。好かった」
「お腹、すいちゃうよ」
「朝、作りながら、つまみました」
「本当、美味かった」
「また、作ります」
「ありがとう。それは、遠慮なく」
うふふと笑いながら、片づけをしてる。こんなんだって、手際よくて。
「ゴミ箱ないの?」
「ないらしいよ。ここ」
「えー」
大きい声だな。一緒に、そっち、見ちゃったね。隣のカップルの会話。
「東都の子たちだな」
「そうみたいですね」
「行こうか」
「はい」
上がっちゃってる、とさ。食事どころじゃないって、どっかの誰かが言ってたの、思いだした。今、そんな感じ、なんだろうな。俺は、逆なのかもしれないけど・・・。
なんか、手に取るように解っちゃうタイプなんだよね。背負ってるかもしれないけど、もう、今日から、そういうことになったから、遠慮なくね、脂下がらせてもらうよ。
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薔薇園で、アトラクションの時間になったらしい。普段は解放だけど、時間制で、迷路チャレンジだって。
「薔薇育成管理費として、参加費お一人さま100円だって、やってみようか?」
「難しくないかな?」
「小学生がやってるよ」
「じゃあ、行こうかな」
「どうぞ、お荷物、預かります。番号札、お持ちください。帰りにお渡ししますので」
薔薇の迷路だ。ああ、最初は、周囲が見えるんだけど、中心に行くと、周りの薔薇の這ってる壁が高くなる。見えなくって、難易度が上がるんだな。俺の背よりも高くなった。
「あ、ベンチがある」
「座る?もう、疲れちゃった?」
「ベンチがあったら、座っとくんです。この後、なくて困るかも」
「困らないよ、大丈夫だって・・・心配症だなあ」
ああ、また、右開けて、ちょこんと座った。会社の傍のベンダー前の時と同じ感じの仕草だな。
「いつも、右に誰か座るのが、落ち着くの?」
「あー、そういえば、そうかも・・・貞躬さんは、これでいいですか?」
「うん、まあ、こっちが最早、しっくり来るかな」
「だったら、良かったです。サットンでも、貞躬さんが右でしたね」
「椅子には、卯月さんが、先に座ってるよ。ここまで」
「あー、そうかも」
小首傾げた。狡いぞ。いいのかな。迷路の最深部で、確認作業後。
・・・そう、肩掛けバックは持ったままで来てたね。
「水筒に、ちょっと、さっぱりする飲み物あるんです」
「飲食禁止じゃないよね?」
「公園の一部だから、いいんじゃないですか?」
「はい、これ」
「これが、メイソンジャーだ」
「そうです。これが、メイソンジャーです」
「何だ?・・・あ、なんか、お茶?んー、いただきます」
「・・・どうですか?」
「ミントティー?お、冷たくて、不思議な味、だけど、さっぱりする」
あ、モヒートから、来てるんだな。これ。
・・・いいね。ヤバい。ツボるよ。
「こないだ、家でやってみたら、美味しかったから」
「ひょっとして、モヒートのお茶バージョン?」
「そうです」
「ふーん、なるほどねえ・・・」
「本当は、微妙なんじゃないですか?」
「いや、そんなことないよ。でも、よく考えるというか、気づくというか・・・感心するよ」
嬉しそう。真っ赤になった。
・・・こんなん、どうせよ、って言うんだろうね。
「はい、休憩終わり」
なだれ込むにはね、まだ早いよ。お天道様は、頭上真上だしね。まあ、良い場所だけど。
「手」
「え?」
「貸して、繋ごうか。はい、行くよ」
「・・・はい」
素直だね。小さい手。ちょっと、冷たい。お茶が冷たかったからかな。これで、セーブする。
「あったかい、貞躬さんの手」
そうだよね。反対のこと感じてるからね。・・・お。握り直してきた。
「・・・ん?・・・」
「癖なのかも、握り方、こっちが慣れてる」
「あー、お互い逆なのかあ・・・ごめん、じゃあ、これしかないね」
些細なことだけどね。いわゆる、恋人のあれね。ラブ握りになるかな。そうすると。
「これ、辛くない?指、広がってるとか?」
「それは、大丈夫です」
嬉しそうに言ってるんだけど・・・
・・・あれ?これ正解かな。急に壁が低くなってきたぞ。
「もう、ゴールみたい。速いですね」
「あー、東屋でカードにスタンプ押しましたか?」
「そんなとこ、あったかな?」
「最短ルートだったみたいですね。いいですよ。記念の薔薇の花びらの栞です」
「わあ、綺麗・・・オレンジピンクと、黄色」
「黄色、もらってもいい?今日の記念に」
「・・・はい」
顔、見てるな。スマホケースに、何気にしまう。
「何?」
「こういうの、大事にするんですね」
「男なのに、おかしいって?」
首を、横に振る。
「貞躬さんぽくって、いいです。おかしくないです」
「俺っぽいの?そう?」
ああ、物が部屋に溜まるんだよね、だから。
それは、そうかもしれないけど。元カノにも指摘はされたけどね・・・。
「ご飯を残さない人、物を大切にする人は、信頼できる人だって」
「お父さん?」
「これは、母です」
「へえ」
物を大切にするかは、ごめん。微妙かな。
でも、部屋は片づけたから、いつ来ても、いいんだよ。
・・・なんてね、そこに、発想が行くかな・・・。
「案外、あっさりと迷路クリアしちゃったね。でも、まだまだ、散策路もあるし、行ってみる?小径には、ベンチもあるよ」
「・・・さっきの東屋っていうのが、ちょっと、残念だったかな・・・」
「東屋って?屋根のあるベンチみたいなの?やっぱり、ベンチ?」
「・・・うふふ、ベンチマニアみたい、それじゃ、私」
「いやあ、そうじゃないの?じゃあ、ベンチを探して、歩くのはどう?ただの散策じゃなくて。ここは、結構あるよ」
「えー、あはは・・・」
「いいじゃん。俺ららしくて」
「そう。最初、パーティで座りたいって言ったの、貞躬さんですもんね」
「そうだったかな。そうか。じゃあ、園内マップにマークすればいいよ。ベンチのあるとこ」
「面白いかも・・・うふふ、えっと・・・」
二人の共通点。
「リーズナブルな食事好き、座りたがりのベンチ好き」
「何・・・あ、好きなものが一緒なこと?」
「そう」
「・・・でも、あそこにもう、ベンチ見えますね。そして、あっちにも、キリがないぐらいですね」
「ここは、その実、座るのに、困らないんだな。座り放題だ」
「座り放題・・・って、あははは・・・」
「え?そんなにおかしい?」
「言わないでしょ。そんな言葉ないし」
「卯月さんの専売特許でしょ。座り放題」
「やだあ」
「えー、違うの?」
「お尻が重いみたいで、恥ずかしい」
「そんなこと、誰も、言ってないよ。今の、自分で言ったんだからね」
「あははは・・・」
泣いたり、笑ったり。今日、結構、振り幅あるよな。
・・・いいね、リラックスしてくれてるなら、それで良し。
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少し行くと、池があった。もう少しで、蓮が咲きそうな感じ。惜しい。
「あと少しで咲きますね」
「また、来てもいいよ」
嬉しそうに頷く。
「あ、可愛いワゴン」
「薔薇味のアイスだって」
「美味しいかな?」
「一つ、買ってみようか?」
「うん」
なんか、ジェラートっていうやつらしい。一つをコーンでもらって、カップとスプーンを、彼女がすかさず、店員にもらった。シェア用にだろう。
こういう所、すごい、好きなんだけど。家庭的な如才なさ、・・・っていうのか、上手く言えないけど。俺はすごく、いいと感じるんだよね。
元カノは、さっきの隣のベンチの若者タイプだったから、ゴミ箱ないことに、文句言われるみたいな、そういうの聞いて、よく、寂しい気持ちになったんだよね。
「色が白ピンクのマーブルで、本当の花びらみたい。これ、チョコの花びら、刺してあるの」
「綺麗だね、インスタ栄えだ」
「そういうの、してないんです」
「俺もやってない」
「そうだと思いました」
「ああ、融けそう。食べるね・・・んっ・・・はあ、思ったよりも薔薇の感じ、強いよ。これ、薔薇って、食えるものなの?」
「身体にいい、って聞きますよ。ダマスクローズのエキスとか」
「だまくすろーず?」
「ダマスクローズです。花びらの多いタイプで、化粧品になってるものも多くて」
「ああ、ひょっとして、髪の毛のそう?」
「そうです」
繋がったね。
「ああ、融けてくから・・・早く、とって。このままだと、俺、全部食べちゃうよ」
「あー、はい」
「ここ、崩れそうだから、もう、食べちゃえば」
半ば、押し付けると、そのまま、食べ始めた。クリームちょっと、口の端についてる。
「あ、薔薇感、半端ない」
「ん、でしょう?カップ入れてる暇なかったね。俺がかなり食べた」
「これで、充分です。はい」
「コーンだけになった。あ、このチョコの花びら、遠慮の塊、あげるから」「チョコもらいます。コーンは・・・」
「はいはい、食べるから」
なんか、手、合わせてきた。ごめんなさいのアクション?
いいけど。苦手なのかな?
「このコーン、美味いよ、瓦せんべいタイプ、ほら、口あけて」
一番先のピースを口に入れる。・・・唇に指が触れる。
やりたかっただけ。・・・こちらこそ、ごめん。
「あー、本当だ、香ばしいやつでしたね、・・・美味しかった」
「後悔してない?」
「これで、充分」
俺も、いい顔見られたから、充分かな。気づいてるかな?
・・・だいぶ、アイスで、顔近いまんまなんだよね。
~つづく~
みとぎやの小説・連載中 その変わり目 第四話
いくつかの変わり目を超えて、二人はそんな感じに。
お読み頂いた方には、そんな、いちゃこらてんこ盛りに、
よくぞ、堪えて頂き、ありがとうございます。
順調だな。おかしいぞ、・・・らしくない。
次回は、何か、あるんじゃないか?!
実は、次回から、タイトルが変わります。
「その先へ」となります。お楽しみに。
この前の話は、こちらになります。
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