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守護の目覚め③ ~守護の熱 第十三話

「今日は、撮りたかった星の配置になっていて、絶好のチャンスだから、・・・多分、粘って、撮影してくるつもりだから」
「いいじゃない、お誕生日記念ね、お祝いは、次のお休みにするから、鷹彦さんが戻ってる時がいいと、お父さんも仰ってたし」
「ああ、それなら、ありがたい」
「心置きなくね、良い写真、撮ってらっしゃいね」

 明海さんに、朝、こう伝えて、出てきた。フェイクというわけでもないが、カメラもバックに忍ばせた。後、例の封筒も、綺麗なやつに変えて、持っていくことにした。

 要は、封筒を置いて帰ってくる。それで、星見が丘で撮影をする。だから、嘘はついていない。部屋には上がらない。とにかく、受け取ってもらう。そう、決めていた。

 今日は、金曜日だ。だから、学校が終わって、すぐに行く。彼女が仕事に出る前、ギリギリになる筈だ。だから、玄関に手をついて、引き上げる感じにはできそうだ。よし。

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 予定通り、その日は下校の途についた。また、坂城達に捕まると厄介なことになる。(誕生日を知っている可能性があるし・・・)小走りに、校門を抜けて、星見が丘に行く体で、彼女のアパートに向かった。

 まずは、例の角で、アパートの門前の様子を見る。今日は、誰もいない。良かった。それで、いなければ、そのまま、今日は、星見が丘で撮影して帰ろう。意を決して、彼女の部屋のドアまで行く。深呼吸をして、小さなベルを押した。

 ベルの音が響いた。反応がない。ああ、やっぱり、今日はもう、出てしまったのかもしれないな・・・、俺は、そう思って、帰ろうとした。すると、ドアの開く音がした。

「ああ、辻君ね、どうぞ・・・」
「はい、あの、ここで、いいです」
「・・・」

 なんか、様子がおかしい・・・、具合でも悪いのかな?

「あ、あの、どうしたんですか?」
「ああ、うん、大丈夫、・・・上がって、コーヒー淹れるね」

 微笑んでくれたが、ちょっと、覇気がないような感じがする。そんな彼女の様子に引っ張られた。つい、当初の計画を忘れて、また、靴を脱いでしまった。

「今日は、出掛けないんですか?」
「ああ、うん」

 いつもの感じで、話しかけてこない、んだな。

「どうぞ」

 あれ、ミルク、じゃないのか?差し出されたコーヒーは、ブラックだった。

「あの、これ、約束の・・・受け取ってください」
「ああ、そう、・・・今日が、君の誕生日なんだ・・・へえ・・・」

 彼女は、フゥーと溜息をつくと、また、棚から、煙草のセットを取り出し、火を点した。

「おめでとう。今日で18歳?」
「はい、だから、受け取ってください。お願いします」
「何の心算かなあ・・・正義のヒーローって、感じ?」
「あの、・・・借金って、終わる目途はあるんですか?後、どのくらい?」
「うふふ、聞いて、どうするの?残りも、払ってくれるとか?」
「・・・、早く、こんなとこ、辞めた方がいいです」
「そう?じゃあ、私を受け出してくれる気なんだ、君は」
「受け出す?」
「ふふふ、そんなことも解らないで・・・」

 腕組みをして、彼女は封筒を見つめた。それが、なんとなく、すさんだ感じ?・・・がした。

「5月15日か・・・、わかったわ。これ、有り難く頂戴します。じゃあ、お祝いしないとね」
「あ、俺、これで、失礼します」
「・・・そう」

 良かった。受け取ってくれた。玄関に行き、靴を履こうとした、その時、

「辻君、・・・本当に、私を助けたい?」
「え・・・はい、だから、今日、来たんです」
「じゃあ、・・・まだ、帰らないで、せっかく、来てくれたのに、もう帰るなんて・・・」

 こないだ見た仕草で、腕組みをしていた。しかし、何となく、違った。その言葉も、職業的な誘いの感じとも、恐らく違うと思った。そして、深く溜息をついて、後ろを向いた。

「あの人がね・・・さっき、知らせが来て」

 ヤクザのことだよな。

「死んだって・・・」

 そう言いながら、部屋に戻り、窓から、外を見た。小さな声が、その後、聞こえてきた。

「だから、止めてって、言ったのに・・・」

 俺は、暫く、動けずにいた。

 ・・・だから、今日は、なんとなく、おかしかったんだ。そう思った。

 夕陽が、窓から差し込み、逆光の為、彼女の背中が、黒いシルエットになった。カーテンを握り締める仕草が見えた。肩が震え始めた。泣いているのが、解った。

「ありがと・・・一人でいるの、さすがにダメ、しんどいわ・・・」

 背が高いと思っていたら、そうでもなかった。至近距離になって、それが解った。見降ろす感じの所に、清乃の顔があった。

「帰らなくて、いいの?・・・家とか、友達とか、お祝いあるんじゃ」

 俺は、首を横に振ってみせた。

「そう・・・」

 彼女はニッコリとした。かなり、無理のある感じで、その後は、すぐに、表情が崩れた。声を上げて泣いた。身体を支えてやると、縋りついてきた。どちらからともなく、そのまま、ゆっくりと崩れるように、腰を下ろした。自然と、俺は、転ばないように、清乃を捕まえて、後ろから支えた。・・・そんな感じだった。

「なんか、初めて会った時より、背が伸びて、大きくなったんじゃない?」

 涙声のまま、茶化すようなことを言った。子ども扱いした言い方なのか、下を向いた、彼女の顔が見られず、よく解らない。

「ごめんね、少し、このままでいてくれる?」
「・・・はい」

 俺は、抱きかかえた清乃を、見ることも、話しかけることもできなかった。ただ、脈のような熱を感じていた。それは、俺のなのだか、彼女のなのだか、解らなかった。暫く、そのままでいた。

 どのくらいの時間、そうしていたのか、夕陽で、部屋がオレンジ色に染まった。

 人とこんなに近くにいて、何も話さないでいるなんて・・・それで、いいなんて。頭の中が、ぼんやりとしてきた。

 清乃が可哀想だ、という現実を思いやることよりも、今、起こっていること、感じていることが、俺の全てを支配し始めていた。

 ここからのことは、あまり、覚えていない。頭で考える前に、動き出していたと思う。
                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 「守護の目覚め③」守護の熱 第十三話

読んで頂きまして、ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
次回は、第十四話「5月15日」です。
お楽しみに。

このお話は、こちらのマガジンから纏め読みできます。
宜しかったら、お立ち寄りください。ご一読、お勧めです。



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