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御相伴衆~Escorts 第一章 第十回 数馬編⑤ 昼間のお相手 

 数馬は、第二皇妃に呼ばれた。それは、皇宮の庭園の中庭だった。そこには、当の皇妃と、そして、留学中のランサムから戻ってきていた、二の姫 美加璃みかりと、三の姫 女美架めみかが、同席していた。

・・・・・・・・・・・・・

 なんか、すごいな・・・、初めて、母子でいるのを見た。

「お呼びでしょうか?」

 俺は、すかさず、ひざまずいた。

「あはは、なんか、数馬がそうすると、面白い。お芝居みたい」
「ねえ、テニスの話は、どうするの?お馬さん」
「おや、数馬、いつの間に、姫たちと話したの?・・・話しただけですよね?」
「あ、はい、皆と居合わせた所でですので、一言、二言、自己紹介しただけで・・・」

 三の姫様は、ここに来た日、桐藤きりとと遣り合った時に、お会いした以来で、二の姫様は、こないだ、擦れ違った時に、テニスの話をしたんだっけな。

「お母様の仰る『お話』とは、違うみたいね」
「何?何が違うの?」
「まあ、姫たち、何の事ですか。口を慎みなさい。数馬、今後のお前のお役目を伝えます。柚葉の体調不良により、しばらくの間、その穴を埋めてもらいます。この二の姫と、三の姫のお相手です」
「お母様、話がわかる。テニスしてもいいの?」
「構いませんが、貴女の正式な姫付きは、あくまでも柚葉です。貴女も柚葉が好きなのでしょ?だから、数馬は、そのような昼間のお相手です。いいですね」
「私も、お話してもいいの・・・?」

 『お話』の意味が、解ってるのは、二の姫様だが、三の姫様は、相変わらずだな。吹き出しそうになるのを、俺は堪えている。

「そうですね。為にならないことはダメですね。今の女美架メミカに合うような、為になるお話をしてやって頂戴ね。昼の間だけです。学校への送り迎えとお勉強は、桐藤キリトに見て貰いますが、その後は、桐藤には、別のお役目があるから、そこから、夕食まで、短い間ですが、守り役をお願いしますね」
「はい、わかりました」
「ああ、気取った桐藤は、お姉様の所に行くのね」
「看病にいらっしゃるのでしょう。桐藤は優しいのよね。数馬、本当はそうなのよ」

 お妃は、眉を動かした。御相伴衆の中の小競り合いは、当然、好まれないのだろう。何かを察しておられるようで、・・・大丈夫かな、先日の大騒ぎ、伝わってないのかな?

「つまりは、数馬は、午前中から夕方まで、女美架が帰ってくるまでは、私の担当ね」
「大学が始まるまでの話ですよ。それまでに、柚葉ゆずはが回復したら、元に戻します。それは、女美架も同じね」
「柚葉は、私の婚約者だもの。一番だわ。でも、数馬は身軽だから、色んなスポーツ、一緒にしてみたい。柚葉も上手だけど、多分、いつも、手をわざと抜いてるの、解ってるから。紳士的なのはいいけど、・・・ちょっと、つまんない」
「ちょっと、待ちなさい。まだ、婚約云々の話ではありませんよ。まだですからね」
「もう、ご夫婦みたいなもんだもの」
「・・・これ、なんてことを」

 うーん、お妃様が、その辺りをたしなめてもなあ、説得力がないな。でも、一応、娘の前では、母親なんだろうからな。

「わかりましたか?では、今日から、それをお願いします。あと、後ほど報告を。お前たちのお部屋に出向きますから」
「かしこまりました」
「やったあ、じゃあ、早速、テニスね。テニスコートいこ、数馬」
「私、今日、学校、お休みだから、ご一緒します」
「あの、えーと・・・」
「構いません。夕食の時間まで、二人の相手を、数馬には頼みます」

 つまりは、二人のお姫様のご機嫌取りをすれば、いいんだな。

「お昼は、数馬、ご一緒で、いいですよね?」
「構いません。数馬、厨房に頼んで」
「はい、かしこまりました」
「女美架の分も、ご一緒に、数馬」
「わかりました」

 なんだ。テニスは、三の姫ができるか、わかんないし、慈朗しろうを呼んでやろうと思ってたんだよな。食事が挟まれると、慈朗は食べれなくなりそうだし・・・ああ、早く、食事のマナー聞いとくんだった、って、俺も、まだ、知らないんだけど・・・。

「あの、お妃様」
「何かしら?数馬、まだ、何か、あるのかしら?」
「上の方たちと、お食事に同席する場合のマナーって、俺、まだ解らないんですが・・・」
「そうね、犬のように、手づかみなどしなければ、まずは、大丈夫ですね」
「あ、はい・・・」
「では、よろしくお願いしますよ」

 慈朗の食事の癖、知ってるんだ。ならば、何故、直してあげないのかな?うーん、なんか、解ったぞ。今夜の報告の時に、少し、お妃様にも、話せないだろうか、このこと。

「いくよー、数馬、テニスコートに」
「女美架、飲み物とお菓子、ルナに頼んでくるね」

 お妃様は、少し、こちらの様子を見ながら、御付の者をつれて、また、三の姫も、それに同行して、お菓子などを頼みに行ったようだ。その場に、二の姫と俺が残された。

「あああ、そんなんじゃないのになあ。・・・まあ、いいか、あの子、お茶しながら、見たいだけね。新しいテニスウエア、数馬の分、あつらえてあるから、着てね。じゃ、行きましょう」
「あ、はい、」

 ちょっと、強引に腕に手を掛けてきたが・・・いいのかな?

「ねえ、数馬、御用がある時に、お母様のお部屋に呼ばれるのと、お母様が、お前たち、奴隷の部屋に行くのと、意味が違うの、知ってる?」
「えっと、・・・聞いてませんが」
「これね、暗黙のルールだから。今夜は、早めに入浴を済ませて、お母様を待つのよ。・・・なんで、私が、こんなこと、お前に教えるのかしらね。なんとなーく、数馬、お母様付きになりそうね。あのお絵かき君と一緒にね」
「え・・・本当ですか?」
「お前、珍しいのよ。1週間近くここにいて、まだ、お手付き無しなんて。わかった?」
「あ・・・はい」

 お手付き無し、って・・・、

 その後、二の姫は、訳知り顔で、話しながら、ちょっと、男の子みたいな身軽さで、走り始める。聞く所に拠ると、二の姫は18歳で、桐藤、柚葉、俺より、二つ年上だ。だから、そういう内々の話は、ご存知なのかな?

「ウォーミングアップしたいから、一緒に走ろう。軽く、走ってこう、話せる程度で」
「はい、わかりました」

 結構、速いな、話せるけど・・・彼女は、アスリートなんだそうで・・・。

「・・・そうすると、数馬は、今夜、初めてになるのかな?」
「え?あ、何のことですか?」
「とぼけないでよ。そんなこと、役目が解ってて、ここにいる筈でしょ」

 なんて、答えりゃ、いいんだ? 
 なんか、すごいこと言ってるな、女の子なのに。

「まあ、解ってますし・・・まあ、違いますけど・・・」
「そうだよね。慈朗ちゃんと、違うもんね。数馬はあの子より年上で、ここに来る前だって、モテてそうだし」
「慈朗ちゃん、ちゃんづけですか?・・・後、モテませんから・・・」

 なんだろう。いわゆる、お姫様の、ちょっと、我儘みたいな感じがあるんだな。うーん、柚葉、この方のお相手をしてるのか・・・大変そうだな。

「そうよ。あの子、絵、上手いよね。可愛いし。女の子みたい。お姫様の恰好させてあげたいな、そのうちに」
「お人形扱いですね、それじゃあ」
「そうよ、そうそう、数馬もお人形みたいな恰好、初日にしてたんですって?見たかったなあ・・・」
「はあ・・・好きでしてませんよ・・・」
「ついたわ。そこが更衣室ね。テニスウェアあるから、着替えないと。はい、どうぞ」
「って、ご一緒ですか?」
「柚葉は、着替えを手伝ってくれるわ」
「それは、そういう間柄だから・・・」

 言葉を聞くでもなく、二の姫は、俺の背を押す。そのまま、その小さな建物の中へ、押し込まれる。その後に、彼女は、素早く入り、事も無げに、施錠する。ちょっと、何か、企んでるような表情で、ニコリと笑っている。

 この時、三の姫とお妃様が、親子に見えなかったけれど、二の姫は、その母親に似ている感じがする、と思った。

「だって、お前、柚葉の代わりでしょ?」
「そうですが、それでは、お妃様のお命じとは、違うのでは?」
「お母様の仰ったのは、『昼間のお相手』ということでしょ。今は何時かしら?時計ぐらい、読めるでしょ、お前なら」

 更衣室の壁の時計を指さしてる。・・・まあ、屁理屈だな。

「10時40分ですね」
「これは昼?夜?」
「お昼ですが」
「でしょ?」

 成程・・・、母親の性格を、一番、受け継いでいるんだな、やっぱり。

「解りました。お手伝いすれば、いいんですね?」
「そうそう、解ってるじゃない。こっち来て」

 傍に行くと、ピンク色の襟付きの上衣と、ヒダの多い、たぶん、スコートっていうやつだ。それが棚に置いてある。

「これですね。とって、差し上げますから、後は、子どもではないから、おできになりましょう。・・・これが、俺のですか?じゃあ、向こうで、着替えてきますから」

 明らかに、不服そうな顔をなさっている。

「柚葉みたいにして。できないなら、お母様に言いつけるから」
「・・・俺に何かされたとか、言うんでしょう?それに、俺は、柚葉様じゃないですから」
「お前、なんで、そんなに偉そうなの?柚葉だったら・・・」
「そんなに、彼のこと、仰るなら、なんで、お見舞いに行かれないんですか?」
「もう、行ったわ。門前払いされたの、熱があるから、って。お部屋に鍵かけて」
「そんな姿を、貴女に見られたくなかったんじゃないですか?あの方は、いつでも、完璧な程に、きちんとされてますから、ご心配をおかけしたくなかったのではないんですかね」
「・・・」

 本当の所はわからないが、柚葉は、身だしなみやマナーが完璧なのだと、慈朗から聞いた。二の姫は、口を尖らせて、拗ねているご様子。俺に言われても、仕方ないんだ。俺は、水色のウェアを棚から取って、部屋の端に行き、素早く、着替えた。

「もういい。ランサムは楽しいけど、ある意味、いつも、傍にSPが付いてて、自由ないし。寂しかったから、柚葉が一緒に行けないか、お母様に頼んだけど、他にもお役目があるからダメだと言われたし・・・。帰ってきて、やっと会えると思ったのに・・・つまんない」
「そうでしたか。ならば、テニスをしましょう。俺、実は、やったことないので、教えてください」
「・・・」

 勝気で、思ったことを、どんどん喋る、じゃじゃ馬姫だな。まあ、本当に、柚葉が好きなんだろうなあ。・・・あ、そんな、泣いてるのか?

「・・・お前、先生みたいなやつ。桐藤に似てるけど、ちょっと、違う。全部、正しいから、こっちが、バカみたいじゃない」
「解ってらっしゃるじゃないですか。テニスをしましょう。そのままの服装でも、動きやすい恰好でいらっしゃるから。さあ、泣かないで。行きましょう。三の姫もお菓子持って、来ちゃいますよ。彼女には、おかしな所、見せられないでしょうからね」
「なにそれ?・・・待って」

 うーん、多分、そういうことなんだろうな、と、施錠された時に思ってたんだけど、案の定、腕を取られて、後ろから、抱きついてきた。

「数馬、ガッチリしてるね。柚葉より」
「ちょっと、痛いですよ。俺は、彼より、ガサツな育ちですからね」

 胸を押し付けてくる。何の事はない。多分、柚葉となら、ここで・・・。

「俺、打ち首になりたくないんですよ。だから、姫様には、俺からは触れません。お妃様のご命じもないのだから。多分、地下牢で、鞭で打たれて、殺されてしまいますから」
「なんで、なんで、皆、奴隷の癖に、柚葉も、お前も、自由にならないの?」

 まあ、そういうことだろうね。全ては、貴女のお母様のジャッジだから、仕方ないでしょうね。それで、ご自身が、守られているんですよ。きっと。

「彼に会いたいんですね。じゃあ、会いに行きますか?でも、俺が行っても、ドアを開けてくれるかは、解らないから・・・そうだ。彼が難しければ、慈朗が空いていれば、慈朗に、絵でも見せて貰いますか?」
「・・・うん、ちょっと、それ、いいかも」
「じゃあ、行きましょう。俺は、後で、着替えに来ますから」

 口を尖らせて、拗ねてはいるが、誘導することはできそうで、ホッとした。更衣室を出ると、三の姫が丁度、向こうから、バスケットを持ってやってきた。

「わあ、かっこいい。テニスウェア似合うね。数馬」
「そうですか?初めて着ましたが。あの、こちらに、慈朗の手が空いていたら、呼んでもいいですか?」
「わあ、慈朗も来るの?」

 妹の前では、普通を装えるんだな。二の姫は、最初にお会いした時の感じに戻っていた。

「じゃあ、慈朗を呼んできますから」
「柚葉の所に行くのが先じゃないの?」

・・・・・・・・・・・・・・

 テニスをしようという二の姫、それを見たい三の姫、慈朗も伴って、庭遊びをしようとなるが、柚葉の体調を心配し、まずは四人で、柚葉の私室に行くことになった。熱があるので、病気の場合、うつすと困ると、姫を入れずに、まずは、俺と慈朗が通された。

 その実、柚葉は仮病だった。高官との接待の後、正直、二の姫に会いたくなかった。身体のこともあったが、気持ちの部分で切り替えるのが難しい・・・というか、柚葉にとって、二の姫は、少し、面倒臭い存在になっていたという。この時、俺と慈朗は、柚葉の本音を垣間見た。それは、意外に感じた。

 できれば、一緒に過ごせないか、と、俺と慈朗で、二の姫の気持ちを伝えた。すると、柚葉は、更に、自分の性癖を、事も無げに伝えてきた。慈朗は、高官の接待の時の彼の姿を思い出した。

「別に、男でも、女でも、構わないから・・・」

 こういうことは敏い、鋭く感知できる慈朗だ。表情が心配そうだ。慈朗は、何か、知ってるんだな、柚葉のことを・・・数馬は、勘ぐる。

「もう、いいよ、柚葉、よくわかったから、数馬、いいよね、それで、」
「まあ、不問にして貰えませんか?・・・その代わりに行きますから、入れていいですよ、彼女を」

 その後、二人の姫を部屋に入れた。熱が丁度、下がった所だから、大丈夫だと。涙目の二の姫は、周りに構わず、柚葉に抱きついた。

「ご心配させて、すいませんでした。お寂しかったでしょうね。大丈夫ですから、一緒に参りましょうね」

 これまた、憚らず、キスをする。慈朗と数馬は、目を瞠る。別の意味で、三の姫も目を瞠る。

 ・・・普段の、鷹揚で、紳士的で、優しい柚葉に戻った。慈朗は、何か訳を知っているのか、柚葉を、ちょっと、悲しそうに見ている。でも、俺も、この柚葉の完璧なまでの立ち回りに、何か、背筋の凍る思いがしていたんだ・・・。


 その後、庭遊びに向かう。テニスは、皆ができないからと、三の姫が風船を持ってきた。皆で、これを弾いて遊ぶことになる。子ども同志の他愛ない遊びだ。学生がバレーボールで、パス回しをするようなやつだ。その実、簡単すぎて、つまらないのではないか、と思ったら、案外、面白い。数馬達は、しばらく、それに興じた。

 慈朗は、絵を描きたいということで、傍らで、その様子のスケッチを始める。その隣で、昨日、手ずから焼いたというクッキーを、三の姫は広げて、まずは、慈朗に勧めている。身体を動かしているのは、二の姫と柚葉と数馬の三人だった。すると、下働きのルナが駆け付けてきた。恐らく、私室から、この様子を見ていた、お妃に言われたのだろう。お妃は、子どもたちだけで、結託して、何かまた、始めやしないかと勘繰っているようだ。お咎めがあるのかと、まずは、数馬はヒヤヒヤしたが、何も言われず、月は、三の姫を手伝い、お茶菓子を並べて、ポットの紅茶を淹れ始めた。

「わ、・・・これ、甘くないよ、しょっぱいんだけど・・・」

 雑食大喰らいの慈朗ですら、眉をひそめた。一しきり、動いていた三人が、集まってくる。まずは、美加璃が、クッキーに手を伸ばす。
 
「何?可愛いじゃん。よく焼けてるね、どれ?・・・ん、何これ?」
「あああ、塩と砂糖、間違えちゃった、・・・だけですよね。よく焼けてるし」
 
 と、続けて、齧った数馬は、フォローに回るが・・・。

 その後、柚葉が、綺麗な指先で、クッキーを抓む。(そこから、既に、エレガントな仕草で)口に運ぶ姿を一番見とれているのは、二の姫ではなく、ルナだった。リアクションを待つ全員。
 
「ん・・・これは、お酒に合うのではないでしょうか?三の姫、ワインがいいと思います」
 
 こういう所が、柚葉だ。不味いとは言わずに、三の姫の頭をポンポンと叩く。ここで、二の姫に小突かれるが、それにも、優しく微笑む。柚葉って、すごい。こういう所は、皇子様みたいだな。慈朗は思う。数馬も上を見せられた。

 これが、女性を満たす会話なのかも・・・。でも、柚葉の本心は、・・・どうなってるんだろうか?
 
「これで、お姉様と、桐藤が揃えば、全員だね」
 
 三の姫が、嬉しそうに言う。うーん、全員の意味が解らないが、要するに、この皇宮にいる十代の者たち・・・という意味なのかな?まあ、そうなるのか、と、数馬は思った。
 
 一方、その庭の様子が、窓から見て取れるのが、その一の姫の部屋である。
 
「よかった。顔色が上がりました。汗を拭きましょうか」
 
 桐藤が柳羅姫の、首筋の汗を、柔らかい布で拭う。酔いしれた瞳の一の姫。
 
「さすがに、熱くなりましたね。窓を開けましょう」
 
 途端に、さざめく、笑い声が、窓の外から聞こえてくる。
 
「今度は、お姉様と、桐藤も呼んで、ご一緒したいわ」
 
 三の姫の高い声が響く。
 
「え?女美架よね。これは・・・」
 
 一の姫は、ベッドから乗り出して、庭を覗く。
 
「危ない、柳羅リュウラ様、支えますから、こんな急に、そのような・・・」
 
 桐藤もその声には反応していた。

 ・・・騒がしい、一体、なんなんだ?

 覗き込むと、階下の中庭では、ピクニックよろしく、自分以外の御相伴衆と、二の姫、三の姫、月が付き添い、お茶を飲んでいる。
 
「どこの部屋なの?」
「あそこ・・あ」
 
 三の姫が指さした先から、一の姫と、桐藤が覗いているのと、全員が、目が合う。
 
「あっ・・・」
 
 慈朗が声を上げると、一の姫はハッとする。あちらから見たら、自分の姿は、ブラウスのボタンが外れたままで、・・・想像しなくても、三の姫以外は、状況を見てとられた。月が、一つ、咳をした。
 
「もう一杯、今度は、アップルティーにしましたから、お代わり、いかがですか?」
「是非、頂きますから、皆は?」
 
 数馬が、集中を、こちらに戻すように、皆の顔を見回す。
 
「何?」
 
 三の姫は、よく解っていないようで、それの様子を見て、数馬は、ホッとした。次に、数馬が、その窓を見ると、既に、それは、閉まっていた。
 
「柚葉、柚葉・・・」
 
 途端に、二の姫が、甘えた声で、柚葉に問い詰めるように、身体を寄せ始めた。
 
「はあ・・・いいですか?姫様、少し、お伝えしなければなりません。お作法の事です」
 
 柚葉は、溜息交じりに、そういうと、自分のティーカップを置き、二の姫のティーカップを受け取り、テーブルに置く。とにかく、動きが見事に丁寧だ。
 
「美加璃様、ちょっと、こちらへ。皆さん、ちょっと、ご注意をしてきますので・・・」
 
 ・・・ご注意ね。
 
 数馬は、慈朗と目を合わせる。月は、見ない振りで、紅茶を淹れ続ける。二人は、10メートル先の木々の生い茂る中に消えていく。
 
「あ、何か、お姉様、悪いことしたの?」
「あ、いやあ、多分、前々から気になっていたこと、柚葉が思い出したんだろうね」
「流石だよね、柚葉って」
 
 数馬と慈朗は、フォローのつもりで、三の姫に言う。背伸びして、三の姫は、二人の姿を目で追っている。
 
「お紅茶に、蜂蜜、お入れ致しますか?女美架姫様」
 
 という、月の声で、視線は、こちらへ戻された。数馬と慈朗はホッとして、目配せをした。


「柚葉、嬉しい、帰って来たら、発熱だっていうから」
「すみませんでした。でも、貴女の声を聞いたら、元気になってしまいました」
「もう、そんなこと言って、・・・」
 
 木々の生い茂った、小さな森の中、大木の影に立つ二人。美加璃は、その木を背にして、柚葉が、それに対峙する。どちらからともなく、唇を交わす。
 
「寂しかった。ランサムは楽しい所で、お友達もできたけど、柚葉がいないから、つまらない。ご一緒できれば、良かったのに」
「すみません。大事なお仕事が、他にございましたので」
「お仕事ね・・・もう、そんなの、止めて」
「しかし、皇帝陛下の命ですから」
「・・・わかってる。でも、柚葉がどんなことをしてても・・・」
 
 その言葉を遮るように、柚葉は、二の姫にまた、口づける。
 
「私だって、辛いのですよ。でも、スメラギの将来の為のお務めは、欠かせません。貴女の為に、私が務めていること、よくご理解くださいね」
「お姉様は、・・・お姉様は、ああやって、昼夜構わず、ずっと、桐藤とご一緒で、羨ましい」
「海外の、ランサム大学に行きたい、と仰ったのは、貴女ではありませんか。それはないですよ。ご自分から、皇宮から、僕の側から、離れられたのでしょう?それを、僕に詰られても、困ります」
「ごめんなさい、ごめんなさい、柚葉。もういいから、お部屋に行きたい」
「一度、皆様の元へ戻らないと、これは、流儀ですよ」
「解った・・・」
「そんなお顔なさらないで。僕も困ってしまうから」
 
 もう一度、口づけると、柚葉は、二の姫の手を引いて、中庭に戻った。

 夕食の前までとは言わず、解散することになったが(それは二の姫の意向も汲んで)三の姫が、案の定、駄々をこねる。
 
「数馬と慈朗のお部屋に行ってもいい?ねえ、月」
「姫様、それは・・・」
「知っておられますよね?基本、姫様は、こちらの部屋に出入りしてはいけないのですよ」
「・・・うん、だけど、なんでなの?それが解らないから」
 
 数馬が諭し始めるが、聞かない三の姫。
 
「簡単ですよ。一の姫様と桐藤、二の姫様と柚葉が何でいいか。女美架姫様と僕たちと、何が違うか、それを考えてください」
 
 慈朗が、珍しく、淡々と話している。えっ?慈朗、すごいじゃん。俺は、それ、逆に言えない、と、数馬は、この期に及んでの、慈朗の言葉に驚く。
 
「この絵、女美架様を描いたので、差し上げますから。スケッチで下書きのようですから、雑なんですけど、そのうち、また、きちんと、水彩で色を付けて、描きますから」
 
 たちまち、三の姫のご機嫌が良くなった。月がそれ見て、微笑みながら、小さく拍手をした。帰りがけに、慈朗のことを、月が褒めていた。慈朗は、真っ赤な顔をして、頭を掻いていた。

 多分、さっきの前半の言葉は、三の姫の耳に入っていないかもしれない。考えさせる前に、絵を差し出したのも悪くない。三の姫付きというのが、まだ、決まっていないと、桐藤が言っていたのを聞いた。ひょっとしたら、慈朗こそ、三の姫付きが向いている気がするんだが・・・と数馬は思った。

 月は三の姫に付き添い、部屋へ送っていった。無邪気に、手を振る三の姫。二人はそれに答えて、手を振り返した。

                                                                                            ~柚葉編②に続く~


みとぎやのメンバーシップ特典 数馬編⑤「昼間のお相手」
                  御相伴衆~Escorts 第一章 第九話

 わがままな第二皇女 美加璃姫が出てきました。

美加璃姫イメージ

 この姫は、三人の姫の中では、母親の第二皇妃に似ていて、エネルギーの大きい、運動神経の良いお姫様です。隣国ランサム王国の大学に、ウインタースポーツの選手として留学中です。スケート、スキー関連の競技に取り組んでいて、世界選手権では、金メダルをいくつか取っている程のアスリートです。
 スタイリッシュで、所作が優雅で、品の良い柚葉にベタ惚れ、ゾッコンの彼女ですが、柚葉は・・・なので、とても、苦労しているようです。次回は、そんな柚葉の本音のお話をお送りする予定です。・・・どうか、柚葉を嫌いにならないでください・・・。

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