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御相伴衆~Escorts 第一章 第108話 皇帝暗殺編3~動乱の中で②
一方、「御相伴衆」であり、数馬や慈朗より、ずっと前から、この皇宮にいた、先達の二人は、その日、大きく、それぞれの、その立場を、異にしていくことになる。
「何の騒ぎだ?」
その時、一の姫が、窓から、奥殿の方を見て、言った。
「桐藤・・・、火の手が・・・窓の外、庭の向こうで、お父様のいらっしゃるお部屋辺りで・・・」
「なんですって?!・・・急いで、姫、服をお召しください。逃げられるように、身支度を」
その時、激しく、ドアを叩く音がした。
「桐藤、開けて、大変だ」
「柚葉か?」
「早く、開けて、今、皇宮内は、シギノ派の兵士に制圧された。兵士たちが銃を持って、うろついている。皇帝暗殺とか・・・」
「ああ、・・・まさか、」
気を失いそうになる、一の姫を支え、ベッドに座らせると、桐藤は、ドアの鍵を開けようとしている。
柚葉を一早く、まず、部屋に入れてやらないといけない・・・
「姫、事実は判りません。確認させましょう。・・・柚葉、今、開ける」
「ああ、早く、・・・開けて!見つかったら、撃たれてしまう!」
慌てた様子だ、あの冷静な柚葉が、これだけ・・・、ということは、やはり・・・
「大丈夫か、柚葉・・・?」
「開けてくれて、ありがとう・・・桐藤」
いつも通り、慌てることなく、ゆったりした様子で、柚葉は、部屋に入ってきた。
「柚葉・・・?」
その後に、五、六人の兵士が、桐藤と、一の姫に、銃を向けながら、部屋に入ってきた。
「・・・どういうことだ?」
「志芸乃殿、こやつが、第二皇妃と結託し、不羅仁皇帝を毒殺し、自らが、皇帝の座に就こうと目論んでいた者でございます」
すると、もう一人、恰幅の良い、中年の男が入ってきた。陸軍大将の志芸乃だった。いわゆる、皇帝指示派(皇后派)である、シギノ派のトップだ。第二皇妃とは、ずっと対立してきた一派の総帥である。普段は、皇宮に来ることはない筈の・・・。
「桐藤殿・・・、そうですか、首謀者は、君でしたか?・・・おや、一の姫様」
「・・・恐らく、姫様は、事の顛末は、ご存知ないと思われます」
「柚葉・・・!志芸乃殿・・・俺は、知らない。そんなこと、俺がするわけない。それに、今、初めて聞いた・・・、暗殺なんて、ここにいたんだ、できるわけない・・・」
桐藤が抗おうとすると、兵士たちは、桐藤の身体に、深く銃口を押しつけた。
一の姫は、余りの事に、震えが止まらない。
着替えの途中だったのか、ブラウスのボタンが嵌まっていない、そのままで、胸元を庇っている。
「一の姫様、どうぞ、後ろを向いて、身支度をなさってください」
柚葉の声に、一の姫は慌てて、窓側を向き、ブラウスのボタンを閉めた。
瞬間、震えながらも、強い憎悪の感情で、一の姫は、柚葉を凝視した。
それを、桐藤は、見逃さなかった。
柚葉は、冷ややかに、姫を一瞥した。
「姫を、確保してさし上げてください。第一皇女 柳羅姫様、これから、北の古宮に行って頂きます。お身体が、お悪いとのこと、大丈夫です。あちらには、優秀な医者がおりますからね。少し、寒い所になりますが、御妹様方も、既に向かわれました。ご一緒ですから、お寂しくありませんよ」
そして、一の姫は、声を上げることもできずに、二人の兵士に連れて行かれた。最後に、振り返り、桐藤を見つめる。涙が、頬に伝っていた。
「姫・・・!!・・・離せ、」
「撃たれたいのですか?桐藤」
「柚葉、お前、裏切ったな・・・」
「桐藤、君が悪いんですよ。そもそも、奴隷が皇帝になるなんて、そんなバカげたお話、ああ、一の姫様のお好きな『恋物』のようですが、残念ですね。でも、そんなこと、実現するわけないじゃないですか」
志芸乃と、兵士たちは、声を立てて、笑った。
桐藤は、屈辱だった。ある日の事を、思い出した。
その時と同じ感覚を覚えた。
・・・俺は、嵌められたんだ・・・。
「僕ね、桐藤、君の出自のことも、知ってるんだよ。生粋のスメラギ人じゃないんだよね?それでも、君は悪くない、スメラギが大好きで、第二皇妃様の為に、スメラギの為に、頑張ってきたのだからね。でもね、頑張っても、手に入らないものがあるんだ。正式の皇統というのは、皇帝陛下の血を引く、皇后様の産んだ皇子様だけのものだからね」
「・・・もう、いいかね?紫颯様、いいえ、紫颯王子。素国にお帰りになられましたら、紫統様に、よろしくお伝えください。この度は、ご協力ありがとうございました、と」
「王子・・・?・・・お前、素国の王子なのか」
「そうですよ。まあ、兄弟が多いのでね、王位継承順位は四番目ですけどね」
「くっ・・・、なんで、・・・」
「ごめんなさい。こちら、志芸乃殿には、皇宮の情報を、日々、送らせて頂きました。相談もせずに、勝手な事をしてしまいました。許してくださいね。桐藤」
「柚葉・・・お前・・・」
「頼みのお妃様も、もう、捉えられました。可愛い慈朗が、夜伽で、留め置いてくれたので、すんなり、確保です。ご一緒に、弾劾裁判を受けて頂きます」
「桐藤殿、お立ちください。・・・おい、地下牢に、まずは、収監しておけ」
「・・・素の高官と、シギノ派で結託して、第二皇妃様を・・・」
「・・・今頃、わかったの?皇帝候補が、何を見てんだか?しっかりしてよ、桐藤」
「お前、俺が憎いんだな・・・」
「・・・そうだよ。大嫌いだったから。偉そうにして、初めの頃、随分、意地悪されましたからね。僕の国に、君が来たら、すぐ斬首です。まあ、来るまでもなく・・・」
そう言い切ると、柚葉は、兵士たちに、手で合図をした。
それが、桐藤が柚葉を見た、最後だった。彼は、その場を立ち去った。
スメラギの皇統は、どうなるのだ?
皇后の子どもは・・・皇太子となる筈だった皇子は、生まれた途端、息を引き取った、と聞いた。
・・・だから、俺は、第二皇妃に、請われて・・・、学校の勉強も、常にトップで、頑張った。帝王学も学んだ。
尽くしたのは、第二皇妃にだけじゃない。志芸乃殿、貴方にだって・・・。
そうだったのか、やはり、第一皇子は、生きていたんだ・・・。
一の姫、・・・殺されないで、済むのだな。そうだよな。
柳羅姫様、貴女は、俺の持っていないものをお持ちだから・・・
・・・大丈夫だ。
最後に、抗った目で、柚葉を睨みつけてくれた。
それが、貴女の気持の全てだと、憶えておきますから・・・。
貴女も、俺が皇帝陛下を殺す筈がないこと、解っていてくださった。
もう、それでいい・・・。
「撃て、この場で殺せ・・・」
「ダメなんですよ。裁判を受けて頂かないと。真実が解りませんから。自刃もいけません。きちんと、スメラギの法の下に裁かせて頂きますから」
「地下牢に連れて行く。広間を通る。道を開けろ」
「殺せ、この場で殺せ・・・早く・・・」
「みっともないですよ。ほら、貴方の臣下の前を通りますからね、お静かに」
慈朗「なんか、すごい、大きな声、しなかった?」
数馬「まだ、騒ぎが・・・あ」
月「・・・いや、・・・そんな・・・」
月は思わず、口を抑え、目を逸らした。
集められていた、使用人たちは、一斉に注目した。
それは、兵士に取り押さえられ、猿ぐつわをされた、桐藤の姿だった。
恐らく、舌を咬み切って、死なないようにと、その措置をされたのだろう。髪と衣服は乱れ、これまでの気高いナショナリストの彼は、そこにはいなかった。
その後、使用人たちは、ざわざわと、一斉に、口を開いた。
その頃には、そこにいる者たちの間に、第二皇妃と桐藤によるクーデターで、皇帝を暗殺したのだ、という噂も広がっていた。
「そんなに、皇帝になりたかったのか?」
「人を物のように扱って・・・ついには、皇帝陛下まで、手にかけて・・・」
「いい気味だ、・・・人をいつも、見下した態度で」
「偉そうにして、お妃の力を笠に着て・・・」
「奴隷風情が・・・」
「なんだよ、お前たちだって、昔、俺が色々やったら、喜んで見てた癖に・・・悪いと思っても、誰も止めなかっただろ・・・」
「桐藤・・・そんな」
「慈朗、顔を伏せろ、見るんじゃない。目を合わせるな」
「でも・・・」
「慈朗、ダメだ、頼む、桐藤を見るな」
「慈朗様、数馬様の言う通りに・・・」
「・・・桐藤・・・」
「あと少しです、黙って、やり過ごしましょう」
桐藤は、そのまま、兵士に連れられ、エレベーターに乗せられていった。
俺が、初めてここに連れて来られた時の経路を遡る。
俺が、最初に入れられていた地下牢。
恐らく、そこに入れられるのだろう。
数馬は、そう思いながら、桐藤の姿を見送った。
桐藤がエレベーターに乗せられた、その直後、恐らく、シギノ派であろう、軍族のお偉方と歩いてくる柚葉の姿が見えた。
本当なら、駆け寄って、無事を喜ぶべきなのかもしれないが、声を掛ける気にはなれなかった。
・・・そうなんだ。
柚葉の服装、汚れても、乱れてもいないじゃないか。
あっち側の人間だからだ。
慈朗も、月も、複雑な表情で、顔を隠すように、下を向いた。
「柚葉様、ありがとうございました。助かりました」
「仰る通り、隠れておりました」
「命拾い致しました」
柚葉は、残された皇宮に仕える人達に感謝され、賞讃すらされた。
皆、自分が助かったということで、いっぱいで、周囲で、何が起こっているのか、気づかないのだ。
皇帝は殺されなくても良かった筈。
・・・明らかに、柚葉は、軍族と繋がりがあったのだ。
第二皇妃様と反対の勢力の・・・。
なんで、柚葉が?俺には、解らない。
何気に、慈朗の方を見る。目が合うが、震えている。
多分、慈朗は、柚葉の何かを知っている。
俺にも話せない、何かを・・・。
今はいい。
動き方によっては、まだ、解らない。
これから、きっと、ここに遺された者たちの取り調べも始まるのだろう。・・・とにかく、今は、それぞれの命が優先だから・・・。
当然のことながら、皇帝として、擁立されることとなっていた桐藤は、第二皇妃と同等の罰を与えられた。皇統を偽る、不届き者の汚名を着せられ、その野望は散ることになる。この時、若干19歳であった。その他、皇宮での役付きである、侍従長、女官長なども、協力者と見なされ、これもまた、同等の処遇を受けた。
「柚葉」と呼ばれていた少年は、素国から、略奪拉致されてきた王子の一人であった。王族である彼は、本名を、尊 紫颯という。この混乱の中、素国軍による救出により、無事、祖国へ帰国の途についた。
(第二皇女 美加璃との婚姻との運びになっていたという噂があるが、これも第二皇妃の企てによるもので、王子本人は、全く、心当たりのないことと、後に語っている)
~皇帝暗殺編4につづく
御相伴衆~Escorts 第一章 第108話 皇帝暗殺編3~動乱の中で②
お読み頂きまして、ありがとうございます。
クーデターが勃発し、急転直下の王宮劇となりました。
次回もお楽しみになさってください。
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