御相伴衆~Escorts 第一章 第103話 暗躍の行方8~仮初の花嫁①
それからの五日間、女美架姫は、アーギュ王子にランサム国内を案内してもらい、愉しい日々を過ごした。地元ということで、外出の時、二人は、ランサム王室付きのSPに守られる形で、移動した。
側近のジェイスと暁は、打ち合わせを兼ねて、王宮に残っていた。理由としては、例の諜報員からの連絡待ちだった。話をしていれば、いいのだろうからと、ジェイスは、暁を思いやり、お茶とお茶菓子を準備していた。暁の弟、軍属の空軍少尉で、パイロットオフィサーの辛は、その姉とランサムの王子の側近のいる、隣の部屋で待機していた。辛は、同時に、軍から、何等かの命令があるだろうと、それを念頭に起き、皇輝号を、いつでも、出動できるように、整備確認をしていた。
ジェイスには、暁に、この任務は、荷が勝ちすぎているような気がしていた。しかし、自分がフォローに回れば、大丈夫だと、暁を励ましながら、同席していた。
前回の王子と姫のデートの際の会話の中にも、この二人のことが話題となっていた。今回のランサム行きが決まった際、「打ち合わせ」の為に、女美架姫が、王子に、暁のメールを知らせ、更に、それをジェイスに伝えた。「鋭意、打ち合わせのこと」転送マーク付きなら、ジェイスも、暁に驚かれないだろう、と、二人が、携帯で連絡を取れるように配慮したのだ。
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「今回は、事前にメールでご連絡ができて、色々と打ち合わせができて、良かったです」
「最初、転送マークが沢山ついていて、驚きましたが、ああ、姫様からの発信だと解ったので、安心して、ご連絡させて頂きました」
「あの時も、結局は、沢山、お話することができて、打ち合わせには過分すぎる程でしたが、私と致しましては、暁様が女美架姫様について下さっていて、本当に良かったと思います」
ジェイスは、携帯をテーブルに置くように勧める。暁はその通りにした。
「先日の西のお城での打ち合わせ、雑談も多かったですが、愉しかったです」
「そうですね。とても、有意義だったと思います」
一週間前の西のお城にて、初めて、細かい打ち合わせすることになった、ジェイスと暁。そのことを、お互いに、思い出していた。
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「ならば、傍におりますから、どうせなら、お会い致しましょうか?」
「どちらの御部屋に?」
「お伺いしましょう」
ジェイスは、服装など、気にしながら、予め、用意しておいた、ランサムの銘菓を手に、暁の部屋のドアを叩いた。
「はい、メール拝見しました。びっくりしました。もう、先のお話になってるなんて」
「そうですね。王子から、時間があるのなら、打ち合わせをしておけばよいと指示がありました。お疲れでなければ、いかがでしょうか?」
「少しなら、良いのではないでしょうか。どうぞ、おかけください。アップルティーを淹れますね」
「これ、ランサムの銘菓です」
それを見て、暁の顔が、パッと明るく、綻んだ。
「ビスコッティですね」
「スタンダードですが」
「ジャムやクロデットクリームが合いますわね。ございますよ」
「それは、良い組み合わせですね。楽しみです」
「甘党でいらっしゃると、お聞きしました」
「あ、そうなんです。まあ、そうですね。情報は、王子様から、女美架姫様経由ですね」
「そうですね・・・」
少し、照れくさそうに、ジェイスは頷いた。
「どうぞ、お好みで、蜂蜜を。お入れになるなら、今のタイミングがいいですよ」
「ああ、ありがとうございます。では、是非・・・ああ、いい香りで、この組み合わせも絶妙です。本当に、美味しいものの味を、ご存知なのですね」
「好きなだけです。私も食いしん坊なので」
「素晴らしいと思います。それを、ご自分で再現なさるんですから」
「頂くんでしたらね、美味しい方がいいと思って、それだけなのですけど」
「・・・そう、先日のバルコニーの設え、あのスピードには、驚かされました。王子とも、語り草になっております件で」
「お恥ずかしいことです。あの、月という子が、よくできた子で、あの子の機転に助けられます」
「暁様の仕事の手腕には、驚かされます。先程も、片付けから、設えまで、手早くされて、最後には、気遣いまでされて・・・なんといいますか、女官の鑑とでも、申しましょうか・・・」
「女官の鑑ですか・・・」
「あ、すみません。変な言い方をしたかもしれませんね。お気に触ったのでしたら、謝ります・・・」
暁は、小さく微笑んだ。
「女官って、自分の人生はないんですよね。でも、私は、ラッキーです。可愛らしい、女美架様付きなので、助けられます。この可愛らしい方について、一生、お仕えできるのが嬉しいのです」
「ああ、皇宮にお仕えする方というのは、その・・・」
「そうですね。後宮に近い状態かもしれません。旧いのですね。一度、門をくぐったものは、一生、そこに身を捧げるのが習わしですから。たまに、その中で所帯を持つ方もおりますが、それが許されるのは、下働きの者同志なんですよ」
「意外です。スメラギでは、今でも、そのような風習が存在しているのですね」
「こちらに仕える者は、基本、ずっと、皇帝陛下にお仕えする形で、皇宮に骨を埋める覚悟でお務めをします」
「しかし、暁様は、第三皇女様付きでおられるので、こちらへ御輿入れの際には、皇宮をお出になることはできますね。ランサムの城の職員は、宿直という形は取りますが、交替でします。職員は皆、城の外の自宅から通ってきています。私は、王子付き、通訳兼秘書的な役割をしており、代々、仕えている家の者なので、城の領内に、お屋敷を頂いておりますが、それでも、そこから通っております。ランサムに来られたら、もう少し、自由な感じの暮し向きになると思いますが・・・」
「でも、それはまだ、先の事ですよね。私自身のことという意味では、そのようなことは、考えたこともございません」
ジェイスは、思ったことを、そのまま口にした。
「窮屈では、ありませんか?」
「それが、皆、当たり前だからです」
「成程・・・」
「私の家は、スメラギ空軍所属の軍族です。貴族階級ですが、女官として、務められるのは、貴族の娘だからです。皇帝の側に使える女性の職員は、できるだけ、位の高い家の娘が求められるようです。つまりは、お手付きの可能性の話なのですが、これも旧い慣習のことで、今は、実際、そのようなことはございませんね」
「そうですか・・・、国が違うというのは、こうも、違うものですね」
「メールでのお話ですと、10日間ぐらい、お招き頂ける、と伺っておりますが・・・」
「第三皇女様は、美術館巡りを、ご希望されそうですね」
「とても、楽しみにされてらっしゃいます」
「ランサムには、それ以外にも、ショービジネスの発信地である、ラウラタウンがございます。日々、芝居や映画、その他、様々な芸能を観ることができるようになっています」
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「まあ、その当日になってしまいましたね。時間が経つのは、早いものですね」
「そうですね。王子様と姫様も、随分、親しくなられて、やはり、お出会いの回数が、大切のようですね。そのように、親しくなれますものね」
「そのようですね・・・」
ジェイスが、心なしか、耳を赤くしているように見えた。
それに気づき、暁は微笑んだ。
すると、慌てて、ジェイスは話を続ける。
「あ、いえ、まず、本日は、ごゆっくりされるといいかもしれませんね。まあ、ちょっと、私達も、この件もありますし」
「あ、思ったのですが、夜半は、どのようにしたら、いいでしょうか?」
「その場合、交替で、いかがでしょうか」
「あ、そうでした。私の弟も交替の人員に入れてくれ、と申してきましたが、いかがでしょうか?」
「それは心強い。交替で休みましょう。あ、でも、暁様の時は、私は必ず、御供致します」
「うふふふ、それでは、交替になりませんよ」
「あ、そうですね。ああ、すみません・・・やはり、弟様にもお願い致しましょうか・・・」
「わかりました。でも、電話が鳴らないことを祈ります・・・」
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1日目は、アーギュは、女美架を、国王と王妃に紹介した。謁見というには、もう少し、プライベートで、カジュアルなものだった。小さくて、可愛らしい見目の女美架は、典型的なお姫様に映ったらしい。特に、ラウラ王妃が、女美架を気に入った。あれこれと、自分の手持ちの宝飾品や、スカーフや、若い時のドレスなどを、好きなものを使ってほしいとばかりに、クローゼットまで連れて行く程だった。女美架は、知っている範囲の藍語の単語を並べた形ではあったが、王妃と会話していた。通訳は、アーギュ王子が務めた。
「お気に召したら、差し上げましょう。私は背があるので、小さい貴女には、お直ししてね」
「そんな、王妃様、勿体ないです。綺麗なお召し物ばかりで、素敵です・・・」
国王も、そんな様子に目を細める。
「ラウラは、・・・そなたのお母様は、女の子も所望していたので、娘ができたようで、嬉しいのだろうな」
「・・・私も、お会いして頂けて、嬉しいです」
「アルゴス、何故、勿体つけるのか・・・婚約の運びにしてもいいのではないのか?」
「まだ、女美架様は、ハイスクールの途中ですから。ご卒業されてからと思いまして」
「だから、婚約だろう。卒業されたら、その時は、正式に婚儀とし、お迎えする。私には、何の異論もない。お母様もそうであろう」
「・・・はい。では、女美架様にも、お話ししてみます」
「良きことは、その機を逃してはならない、解るな、アルゴス」
タイミングか・・・。アーギュ王子の頭の中では、色々なことが渦を巻いていた。何もなければ、父王の言う通りにすべきなのかもしれない。いや、何かあるからこそ、決めるべきなのだろうか・・・?
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「女美架様、今日は、両親に会って頂き、ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ、女美架、失礼は、ありませんでしたか?」
「全くありませんよ。両親は、貴女のことを、とても気に入ってくれています・・・その、当初のお約束より、早めたらと勧められました」
「五年後、ではなくて?」
「そうですね。父は、今回のこちらで、正式に婚約とし、貴女のハイスクール卒業を待って、こちらに、お迎えしたらどうかと、勧めていますが・・・」
「五年が二年半になるのですか?」
「そのようにすれば、そうなりますね。私も早まるのは、とても、嬉しい限りです」
「・・・お父様とお母様にも、ご相談してみます。スメラギに帰ってから、その後に。大事なことですから」
アーギュ王子の表情が曇る。不穏なスメラギの情勢を鑑みる。
そのことを知らない、女美架姫は、王子の顔を覗き込む。
「王子?・・・そんなに、すぐが、いいですか?」
「・・・ええ、まあ、それは、当然です。でも、早急に、決められることではありませんよね。・・・あ、そうでした。今日は、好いものをご用意しました」
アーギュは、小さなアトマイザーを、上着の内ポケットから取り出して、女美架姫に見せた。
「香水ですか?可愛らしい、ピンクの入れ物ですね」
「まあ、そうなのですが・・・」
「いいですか?あ、ダマスクローズ、女美架の匂いのです」
「そうですね。・・・ああ、オイルなので、まだ、スプレーはしないでくださいね」
「オイルですか?肌に塗って、いい匂いを愉しむやつですか?」
「うふふ・・・、お疲れではないですか?」
「あ・・・、ひょっとして、そういうの?」
「嬉しいですよ。段々、僕の意図が、より早く、貴女に伝わるようになりましたね」
またまた・・・女美架は、恥ずかしい。また、王子は狡いこと、考えてるのだから。
「おいで・・・」
ジェイスと暁、そして、辛の三人は、夜を徹し、交替で、連絡を待っていたが、この日、携帯がなることはなかった。
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二日目は、市井に出て、王宮広場など、ランサム城の周辺の観光をすることになっていた。四人のSPが、二人の側にいるだけで、アーギュ王子と女美架姫は、市井の人々と同じように、町中を散歩する。
城の周辺の市井の人々は、王子が、このように、町中に出歩くことに熟れているようだ。軽く会釈をし、道を譲る。いつもと違うのは、可愛らしいお姫様を連れていることだった。SPは携帯電話等での撮影を禁じるアクションを示して回っている。やはり、立ち止まっていると、ギャラリーが足を止め、その二人を見る為、小さな人だかりができた。
「イチゴの専門店ですよ。まさに、女美架様の為のお店ですね。美術館と同じくらいにお連れしたかった所ですよ」
「わあ、ここで食べられますか?」
「うふふ、仰ると思いました。喫茶室で、イチゴを使ったデザートを召し上がることができます」
「すごいです。世界各国のイチゴが置いてありますね」
「お解りですか?札の表示はランサム語ですが」
「はい、お名前が書いてなくても、イチゴを見ただけで、区別がつくの。スウィートベリーは、スメラギ産、いつも食べています。この小さくて、少し、酸っぱいのが、東国産のハニーベリー。ちょっと、酸っぱいのも、好きです。大きくて、真っ赤で、とても甘いのがロイヤルベリー。ランサムのものですね。イチゴの王様・・・王子みたいですね。ああ、少し黒っぽくて、小さいワイルドベリー、素国産ですね。これはジャム専門のイチゴですね。生では酸っぱくて、キブさが強いです。食べすぎるとお腹を壊します」
「さすが、姫、イチゴマニアですね・・・」
携帯の暗号を想い出す。『在庫切れ』でなくて、良かった、と何となく、アーギュは、胸を撫で下ろした。
喫茶室に行くと、眺めの良い席が予約してあり、二階から市井の様子が見える場所だった。
「何を召し上がりますか?ここにメニューがあります。決めたら、オーダーしますから、言ってください」
「えっと、待って、姫が言います・・・あ、あの、Could you tell me which you recommend?」
「クスクス・・・頑張ってますね」
頬を赤らめて、緊張した様子で、女性の店員が対応した。RECOMMENDと書かれたページを指し示してくれた。女美架も、頬を染めている。
「どうやら、この店は、女性が、可愛いイチゴのようになってしまうようですね」
「また、そういうの、お上手」
「店員には解りませんよ。これで勘弁してください」
「え?」
「僕が、本当に、可愛いイチゴと思うのは、女美架だけですよ」
「あー、また、そういう言い方、するんですね・・・王子は、いつも、女美架に恥ずかしいことばかり言います」
「嫌なのですか?じゃあ、もう言いませんよ・・・ほら、お口が尖ってきました、やっぱり、可愛いです・・・」
「んー、もお・・・でも、どうしよう。食べたいのがいっぱいで、女美架、食いしん坊です」
「どれが、いいのですか?」
「パフェは絶対です。それと、ケーキの種類が多すぎて、選べません」
「では、パフェと、お好きなケーキを1つ、あとは、Takeoutしましょう」
「はい、えっと、指させばいいかな?あ、this one、・・・あと、これ」
「解りました、指示しますね。全種類買っても、皆でshareすればいいですからね」
「暁とジェイスさん、来てくれれば、皆さんでお茶できたのに」
「ああ、次の予定の予約など、設えてくれてるみたいですね」
「でも、お部屋で、お茶出来ますね。イチゴパーティです」
女美架は幸せだった。
自分の祖国、スメラギ皇国で、密かに、何等かの手により、その瞬間が仕組まれていることは、この時は知る由もなかった。
~暗躍の行方9につづく
御相伴衆~Escorts 第一章 第103話 暗躍の行方8~仮初の花嫁①
女美架姫とアーギュ王子が、ランサムで過ごす日々。
表立っては、そのような感じで進んでおりますが、裏方では、有事の為の動きに努めている・・・無事に、このことが収まって、どうか、女美架姫たちが、国に戻れますように・・・。
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