前腕の回内位は野球選手の肩回旋角度を8-12度減らす。
📖 文献情報 と 抄録和訳
野球選手の上腕骨外旋測定に及ぼす前腕位置の影響
📕Kibler WB, Sciascia A, Pike JSM, Howell M, Wilk KE. Effect of Forearm Position on Glenohumeral External Rotation Measurements in Baseball Players. Sports Health. 2022 Jul-Aug;14(4):577-584. https://doi.org/10.1177/19417381211032917
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 肩甲上腕骨内旋運動（glenohumeral internal rotation: GIR）、肩甲上腕骨外旋運動（glenohumeral external rotation: GER）、および全可動域（total arc of motion: TAM）の変化は、肩および肘の損傷リスクの増加と関連している。これらの動作は、前腕が中間位の状態で日常的に測定されている（GIRN、GERN、TAMN）。GER能力は、特に重要であると思われる。しかし、投球動作では、最適なコッキング（GERP）を達成するために、GERが発生する際に前腕のプロネーションが必要となる。これまでの研究では、GERPを評価してGER能力や前腕回内位TAM（TAMP）値を決定したものはない。仮説：GERNとTAMN、GERPとTAMPの間に有意差がある。
[方法] 研究デザインクロスセクショナル。エビデンスレベルレベル3。無症状の男性マイナーリーグ野球選手60人（投手32人、ポジションプレーヤー28人）が研究に参加し、スプリングトレーニングの初日に検査を受けた。両腕のGIRN、GERN、GERPについて、ロングアームバブルゴニオメーターを用いて受動的可動域の測定が記録された。TAMは、前腕中間位および前腕回内位での内旋および外旋測定値の合計として別々に算出された。
[結果] 投手とポジションプレーヤーでは、投手のGERNを除くすべての測定値が統計的に低下していた（P≤0.03）。投手投球腕+11.8°/月投球腕+4.8°、ポジションプレーヤー投球腕=+8.6°/月投球腕+4.0°であり、各群ともGERPはGERNより有意に小さかった。
[結論] 上腕二頭筋の締め付けが介在すると思われる前腕回内位は、GER能とTAMを低下させる。80%の選手が8°から12°の間で差を実証していることを考慮すると、GERとTAMは中間位と回内位ポジションで算出されるべきである。
[臨床的意義] GERPの測定は、投球に必要なGERをより正確に反映し、投球時の負荷に耐えるために必要な運動能力をより正確に定量化することができ、リスクのあるアスリートへの介入を示唆する可能性がある。
🌱 So What?：何が面白いと感じたか？
これは、やってみればすぐにわかる。
前腕回内位で肩関節外転-外旋位をとろうとすると、明らかに関節可動域が減少する。
同時に、大きな違和感を感じることになるだろう。
詰まる、というような感じ・・・。
この要因について、2つの仕組みが考えられた。
上腕二頭筋の伸張度の変化
上腕二頭筋は橈骨に付着している。
前腕の回内により橈骨は回旋し付着部が遠位に移動する。
その結果、上腕二頭筋は伸張されることになる。
伸張された上腕二頭筋が肩関節外旋を制限する。
🌍 参考サイト >>> site.
動員される共同運動パターンの変化
どちかといえば、こちらの方が影響が大きいと思っている。
前腕回内&肩外旋 → 上腕-肘-胸の前の方に「筋収縮感」が出る。
前腕回外&肩外旋 → 上腕-肘-胸の後ろの方に「筋収縮感」が出る。
脳卒中後の共同運動パターンは、以下の図の通り。
🌍 参考サイト >>> site.
前腕回内と共同パターンを構築するのは肩内転-内旋-肩甲帯の前方突出。
つまり、野球におけるトップポジションとは逆行する、むしろ早期コッキングやリリース後に求められる。
共同運動パターンは、筋シナジーのうちかなり原始的なセットだと思っている。そのスイッチの威力は強大だ。
投球動作の位相によって、前腕回旋や手指の屈伸といったミクロな動きの意識が、投球動作全体のトリムタブになる可能性がある（選手によりイップスリスクには注意だが・・・）。
✅ トリムタブとは？
- 船の構造の一部を指し示す言葉。
- トリム・タブは「舵についた小さな舵」で、舵全体のほんの一部分の大きさしかない。
- だが、その小さなトリム・タブの少しの方向転換が、大きな船の大きな進行変更を生む。
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