投球数制限ガイドライン。日本における遵守率はどのくらい?
📖 文献情報 と 抄録和訳
回答率を高める工夫をした調査により、少年野球の指導者のガイドライン遵守率が低いことが判明 ~都市による違いも調査~
Kaizu, Yoichi, et al. "Survey with Innovations to Increase Response Rate Reveals Low Compliance with Guidelines among Youth Baseball Coaches-Including a Survey of Differences between Cities." International Journal of Sports Physical Therapy 17.3 (2022): 409-419.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
✅ 前提知識:非回答バイアスとは?(以下noteに非回答バイアスの説明あり)
- アンケート調査への回答が対象者の自己判断に委ねられる場合、より研究に関心のある人ほど回答しやすくなる
- それに伴い、特にアウトカムに影響を与える性質において、研究参加者が標的母集団 target populationを代表しなくなることで生じるバイアスのことをいう
- たとえば、健康習慣に関するアンケート調査に回答する人々は、健康習慣に対して関心があり、良い健康習慣を持っている集団である可能性が高い。一方、非回答のグループは健康習慣に関心がない可能性が高く、悪い健康習慣を持っている可能性が高いと考えられる。
[背景・目的] 少年野球チームのコーチによる球数制限に関するガイドラインの遵守率が報告されているが、過去の調査の回答率は高くなく(先行研究のアンケート回答率41.4%~74.4%)、非回答バイアスがかかっている可能性がある。また、ガイドライン遵守率の都市間差も不明なままであった。そこで、本研究では、アンケート回収率の高い、ピッチ数制限のガイドラインを遵守している監督のデータを取得することを目的とした。
[方法] 群馬県内の少年野球チームの指導者を対象に、日本軟式野球協会が推奨する傷害予防に関する知識と遵守状況を調査するためのアンケートを作成した。アンケートの作成、配布、回収において、回答率を高めるために4つの戦略を適用した。アンケートでは,チームや監督,コーチに関する基本的な記述情報を調査し,ガイドラインへの準拠状況を調べた。アンケート項目は、球数制限について遵守グループと非遵守グループの間で、また、都市ごとに比較した。
✅ 回答率を上げるための4つの工夫
1. 自由形式の項目の使用。
2. 調査の事前説明。
3. アンケート用紙の手渡しと回収。
4. 非回答バイアスの可能性が低い配布先組織の選定(今回の場合、群馬県少年野球連盟に協力頂いた)。
[結果] 調査対象 62 チーム中 58 チームのコーチから有効な回答を得ることができ,回答率は 93.5%であった(先行研究の回答率 41.4%~74.4%)(図1参照)。ほぼすべてのコーチが球数制限に関する推奨事項を知っており、その必要性を感じていたにもかかわらず、遵守していたのはわずか15.5%であった(図1参照)。
✅ 図. 棒グラフは投球数ガイドラインの遵守状況の先行研究との比較。円グラフはアンケートの回答率-非回答率を示す。各グラフは文献データをもとにSuper Humanが作成。
球数制限以外の指針では、休日の練習時間について推奨値を超えていた。投球数制限の遵守率には都市間の差が見られたが、その他の項目には都市間の差は見られなかった(図2)。
✅ 図. 投球数ガイドラインの遵守状況の都市間比較。グラフは文献データをもとにSuper Humanが作成。
[結論] 本研究の結果、少年野球の指導者のサンプルにおける球数制限の遵守率は、これまでの報告よりもはるかに低いことが明らかになった。また、投球数制限の遵守率は都市によって差があることが確認された。これらの結果は、投球数の制限に関するガイドラインの遵守率を高め、都市間の違いに対処する必要性を示唆している。
✅ 投球数制限ガイドラインに関する先行研究情報
📕 Fazarale et al. Sports Health. 2012;4(3):202-204. >>> doi.
📕 Knapik et al. J Pediatr Orthop. 2018;38(10):e623-e628. >>> doi.
📕 Yukutake et al. Sports Health. 2013;5(3):239-243. >>> doi.
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
自著である。
当会では、長年にわたり、地域に根ざした少年野球予防教室を開催してきた。
その中で、各少年野球チームとの関わりはもとより、少年野球連盟や市とのつながりも構築されてきた。
このようなつながりは、一朝一夕にできるものではない。
一歩一歩、まさに地道に踏み固められてきた、獣道的なつながりだと思う。
その中で、これまで課題であったアンケート回答率を改善させ、より真実に近いデータを得るために、方法で示した4つの工夫を施したアンケート調査を実施した。
その結果、回答率93.5%という、非回答バイアスのリスクが非常に少ない調査結果を得ることができた。
これは、少年野球予防教室を続けてきた当会の先人達、またすべての関係者の功績であって、大変貴重なデータだと思っている。
見えてきたのは、危惧されていた通り、これまで報告と比較し、著名に低いガイドライン遵守率であった(15.5%)。
そして、注目すべきは、欧米との歴然とした差である。
同じ野球大国。両雄。
WBCでは、凌ぎを削る相手の大本命。
この違いは、いったい何だろう。
日本では、オーバーユースによって短命に終わった萌芽が、無数にあるかもしれない。
この問題については、日本全土で考えていく必要があるだろう。
もう少し、ヨリでみてみよう。
今回の調査は、3つの都市での遵守率を比較したが、その差は歴然だった。
地域差があったのだ。
だが、なぜ地域差があるのか?、という部分に答えは見出せなかった。
都市による障害予防教室などの取り組み数の違い?、コーチの態度?、近接する病院?、トレーナー帯同の有無?・・・。
このあたりを明らかにするためには、調査対象数を圧倒的に増やし、調査項目も増やし、多変量解析によって交絡を除去した結果を求めていく必要がある。
すなわち、県全体、あるいは関東全体での一貫した調査によって、はじめて明らかにできる課題。
もちろん、自分の立つこの地面を原点としてやっていきたいとは思う。
だが、ここまでスケールアップしてくると、行政による舵取りも必要になろう。
そこへのアクセスか・・・。
勉強し、考え、準備し続けよう。
大人の未知によって、みずみずしい萌芽を枯らせたくはない🌱。
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