69 記憶の仕組み ~長期記憶を生かして記憶の定着に結びつけよう~
わたしたちは、子ども達に学習させる中で、
「かけ算九九を覚えさせたいんだけど、どうしても覚えられない…」
「漢字をいくら宿題で書かせても、どうしても覚えられない…」
このように、子どもに記憶として定着させることが
どうしてもできないことってありませんか?
私は以前、九九がどうしても覚えられない子どもを担任し、
「九九を覚えられなくても、これからはAIの時代何だから、検索すれば出てくるものをわざわざ覚えられなくてもいい!」
とカードを使ってかけ算の筆算やわり算の学習に取り組ませていました。
でも…
ーやっぱり九九を覚えさせたい!ー
ーぜったい、覚えていた方が日常生活で役に立つ!ー
と九九の暗唱から始まり、九九の歌、プリント練習、ククハチジュウイチのブラウザアプリなど様々な手立てを講じて再び九九習得を目指して取り組ませました。
「少しずつ覚えてきた!」
「カード見なくてもできるようになってきたよ!」
とポジティブな反応が返ってくるのですが、1日経つとまた忘れ、また覚えるといった一進一退の毎日でした。
どうしたら、子ども達の記憶に定着させることができるのだろう?
記憶の仕組みについて、改めて確かな知識を獲得し、理論をもとにした指導、支援に結びつけたいと思い、記憶の仕組みについて学んだことをアウトプットしていきます。
記憶の仕組み
発達障害のある子どもは、
脳の高次的な働きに未熟さや偏りがあります。
脳の高次的な働きには言語や、注意、実行機能があります。
記憶も、主要な働きの1つです。
記憶とは、過去をよりどころにして、
現在、未来をよりよいものに修正していく働きがあります。
逆を言えば、記憶がうまく働かないと、
生活や学習上の様々な場面で困難が生じるということです。
記憶の仕組みは、
・覚える 記銘 (符号化)
・蓄える 保持 (貯蔵)
・思い出す 想起(検索)
の3つの過程で構成されています。
つまり、
覚えて、蓄えたとしても、思い出さなければ、
生活や学習に生かせないのです。
思い出すために重要な記憶の仕組みとして、
長期記憶があります。
長期記憶とは
長期記憶の主要な3つの部分について、詳しく説明します。
エピソード記憶
時間や状況に結びついた個人的な出来事についての記憶です。
人によって違う点が特徴的です。
その中でも特に、思い出した状況をありありと
鮮明に思い出すことができるような自分にとって
重要なエピソード記憶は自伝的記憶と呼ばれています。
誕生日会でいつもと違うプレゼントをもらった時の気持ちー
隣で満面の笑みでお祝いしてくれる親ー
そういった情景がよみがえってくるような自己体験的意識を伴う記憶です。
意味記憶
いつどこで覚えたかは分からない
覚えているより知っていることに近い
など事実に関する記憶のことです。
「誕生日は、お祝いするものだ」
「日曜日は、学校が休みだ」
といった、
大人であれば誰でも知っている意味記憶の一つで、いわば知識です。
自己の体験を通して記憶するものではなく、
学習によって獲得される記憶です。
かけ算九九や漢字などはこの記憶に位置します。
手続き記憶
「字を書く」
「自転車を漕ぐ」
「楽器の演奏をする」
等の、様々な課題を体得するときの技能に関するものです。
毎日時間をかけて練習すれば
うまくなるタイプの記憶ですが、
発達障害のある子どもも技能の獲得には
時間がかかるかもしれません。
しかし、いったん身につくと
手続き記憶の働きには困難がないと言われています。
記憶の組み合わせで強く結び付け、定着を目指そう
このように、記憶には大きく3つの部分があります。
にた知識や経験頻度の高いエピソードは相互に関連し合って、
近く、そして強く結びついている特徴があります。
したがって、語呂合わせで覚えるのは
エピソード記憶と意味記憶の組み合わせで
記憶の定着を図ったものであり、
他にも様々なかけ合わせの活動を仕組むことで、
より記憶に定着していきます。
私が高校3年生の時は、
「語呂語サーティーン」という語呂で
古文単語を覚える本が大ブームになり、
みんな読んでいました。
私は古文が苦手で、
語呂に頼ってセンター試験に臨んだ記憶があります。
もちろん、今では1つもその本で覚えた語呂は覚えていませんが…
よく
「ストーリーで話すと、伝わりやすい」
と言いますが、つまり物語を語るということです。
これは別の呼び方として、
ストーリーテリングと言い、
具体的には
「状況⇒困難⇒克服」
の流れで話します。
なぜ、ストーリーテリングが伝わりやすいのか?
それは、エピソード記憶と大きく関連しています。
意味記憶としてただ知識を羅列しても覚えきれませんが、
ストーリーとともに覚えることで、
エピソード記憶・意味記憶を使ってより記憶が定着できる
ようになるのです。
ぜひ、長期記憶の仕組みから指導や支援の方策を工夫してみては
いかがでしょうか。
次回は、ADHD、LD、ASDの発達障害のある子どもの記憶特性
が生活や学習に与える影響について、さらにその特性配慮した
指導や支援について書きたいと思います。
今回は以上になります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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