ベルマーク (1分小説)
院長が、「ベルマーク1000枚で、小学校のピアノが買える」と言ったから、みんなで必死になって作ったんだ。
でも、きょうの集会で、残念な報告があった。
「2枚足りず、鍵盤が1つ欠けたピアノしか、買えなかったそうです」
話によると、真ん中のファの音が足りなかったらしい。そんなの、ピアノでも何でもない。ただのガラクタだ。
後ろで、三角座りしていたサトルが、ボクをつついた。
「オレらを担当している、山田先生の前歯も1つないよな。あれもベルマークが足りなかったんだぜ、きっと」
笑っていると、山田先生が走ってきた。
「静かにしろ」
あいかわらず、冗談の通じない人だ。
「次は、10000枚で小学校の講堂を買います。みんな、頑張ろう!」
院長がゲキを飛ばす。
ベルマークって、オールマイティなんだな。備品だけじゃなく、講堂まで買えるだなんて。
もしかしたら、本当に人間も買えたりして。
「その可能性、大だよ」
サトルもうなずいている。
【3ヶ月後】
たぶん、先生1人分は、小学校の講堂より枚数は少ないはず。
ボクとサトルは、密かにベルマーク5000枚を作り、院長に提出した。
「担当の先生を、話の分かる若い先生に変えてください」
院長は、ため息をついた。
「ベルマークは一応預かるけれど、ムリだよそれは」
【3ヵ月後 集会】
相変わらず、ボクらの担当は山田先生のまま。
「コラ、なに喋ってるんだ。お前ら!」
院長からボクらの話を聞いたのか、このごろ、ますますお怒りモード。
「みなさんのお陰で、新しいピアノが買えたそうです。今度はちゃんと、ファの音もある」
壇上の院長は、ニコニコ顔。
「もう一台、新しいピアノを買うだなんて言ってたっけ?きっと、オレたちが渡したベルマークが使われたんだよ」
サトルが眉をひそめる。
「ああ。たぶんな」
ピアノは1000枚で事足りるから、残りの4000枚が、講堂用にでも、割り当てられたんだろう。
院長の声が大きくなった。
「そして今回は、とても嬉しいお知らせがあります。みなさんが、10000枚以上のベルマークを作ってくれたので、講堂も買えたそうです。
それだけでは、ありません。なんと、優秀な児童も、揃えることができたそうです」
ああ、やっぱ人間も買えるんだ。
「ありがとう、みんな。
やっぱり、少年院は、手先の器用な人が多いね」