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嫁候補 (1分小説)
ひとり息子が、金髪の、ドス黒い肌をしたギャルを連れてきた。
はるか昔、渋谷でこんなコを見かけたことがある。
『マンバ』『ガングロ』、そんな呼び名だった。全滅したと思っていたが。
息子は、このコと我が家に住むのだと言う。
「そんなの嫌だわ」
若いコを、イジメようというのではない。
私も、姑にイジメられたクチだから、息子の彼女や嫁になる人とはうまくやっていきたいと、思っていた。
しかし、限度というものがある。
マンバは、紫の口紅で塗りたくった唇で言った。
「アタシ、レミっていうの。よろしくぅ」
そして、超ミニから、磯野家のワカメちゃんのようにパンツをはみ出させながら、近づいてきた。
「なかよくしてよ、ママ」
一体、どこで人生を間違えたのだ、息子よ。
超一流大学を卒業し、大手のカメラ企業に就職したまでは順調だったのに、女性でつまづくとは。
主人は、嫁候補と住むことが嬉しいのか、「いいじゃないか」と半笑い。
次の日から、マンバとの生活が始まった。
案の定、食事・洗濯・掃除、なにもできない。
「レミさん、お箸は突き刺すもんじゃないわ」
「洗剤は、一杯で充分よ」
「冷蔵庫の扉は、閉めてほしいの」
小言が増える。
でも、レミはお構いなし。
「カンベンしてよ~。ママ」
そして、ヒマさえあれば、日焼けサロンで肌を焼きにゆく。全身、こげたトーストみたいに真っ黒。
肌だけではない。金髪だった髪の毛は、色が落ち、白髪状態。
私は、悲しくなってきて、部屋に引きこもってしまった。
【2週間後】
息子が、私を見かねて、部屋をノックしにきた。
「母さん、出てきて。お願いだから」
しょうがなく、内側からドアを開ける。
息子の横に、ビックリするぐらい色白の、美しい女性がいる。
「レミです」
マンバは、まったくの別人になっていた。
黒髪、清楚な白のシャツに、ベージュのロングスカート。そして、血色のいいピンクの唇。
「どうしちゃったの」
息子が代わりに答える。
「彼女は、この間まで、言わば、色反転した『ネガ写真』の状態だったんだ。引き伸ばしと焼き付けをして、やっと『ポジ』になったというわけ。
カメラ付き携帯電話が、一般化されて、カメラ業界も大打撃でね。技術を駆使して、新規開拓していかないと生き残れないんだ」
「お母さま、今までの失礼をお許しください」
深々と頭を下げるレミは、どこから見ても、非のうちどころのない嫁である。
「レミは、家事も完璧なんだよ」
私は、例をあげて、確かめたくなってきた。
「反転ということは、松崎しげるさんなら、色白のオンチになってしまうの?」
息子は、真顔になった。
「そう。ウチの技術が進めば、 人種、貧富、美醜、老若、男女、そして嫁姑。今の自分と、真逆の人を体験できるようになる。
世の中の差別が、なくなると思わないか?」