
進化論 (1分小説)
「研究Aの結果です。教授が発明された『自信がつくエキス』をカニに注入すると、みずから、殻を破って、這い出てきました」
助手の田中が、レポートを読む。
全身「身だけ」になったカニが、水槽の中で歩いている。
「ハサミの先まで、完璧な形をしているぞ」
私は、カニをつかみ、そのまま足にかぶりついた。
「おいしい。キミも食べてみろ」
これでもう、人々が、カニの殻むきに苦労することもないだろう。
もう一人の助手、鈴木が研究室へやってきた。
「研究Bの結果です。指示どおり、サバに『気になる異性のエキス』を注入しました」
水槽の中で、サバが、地を這うように泳いでいる。
「すっかり、骨抜きのメロメロ状態です」
サバを、その場でさばくと、本当に骨が一本もない。
「おいしい。必ず、商品化するまで、キミたちが研究を続けてくれ」
「殻なし甲殻類」「骨なし魚」が市場に出回れば、世界中の主婦や料理人から、感謝されるに違いない。
今度こそ成功だ。私は、生物を進化させたのだ。
【3ヶ月後】
「副作用です。はやく、研究を中止させて下さい」
「身体を元に戻してください」
「殻なし甲殻類」と「骨なし魚」を食べすぎた田中と鈴木は、徐々に爪や骨が溶けてゆき、髪がなくなり、この3ヶ月で、かなり風貌が変わってしまっていた。
「失敗ではない。進化した生物を食べたキミたちも、また進化しただけだ」
私は、研究所の庭へ逃げたが、二人は追いかけてくる。
「周囲には奇怪な目で見られるし、マスコミにはネタにされるし」
「今まで、世間から、さんざん騒がれてきた連中も、怪奇現象や都市伝説ではなく、もともとは、教授の助手の人たちだったのではないですか?」
うるさいな。
私は、空に手を高くかざした。
二人の頭上に、銀色に光る円盤が止まった。