八月の母 早見和真
祖母・母・娘 出口のない螺旋階段のような不幸がぐるぐると続いて行く
この街から出たい
だけど出られない 今の環境から抜け出し幸せになりたいのになれないでもがいている家系の話
舞台は違うけれど読んでいて少年のアビスという作品を思い出した
少年のアビスでは主人公が痴呆の祖母の介護をさせられ、兄は引きこもり、母親から支配されて高校を卒業したらパシリ扱いされている幼馴染の会社に入れるように頼んだからと言われる。
その母親の夕子は痴呆になった母に子供の頃、借金返済の為に客を取らされていたという過去を持つ。
不幸の連鎖、舞台が地方(中心部ではなく過疎地)、夕子も八月の母も作中で東京に憧れていながらもここから出られないと口にするのが似ている。
夕子の本心はまだ語られていないが、八月の母のエリカの章では支配的な母がいるから地元から出れない、縛られているとはっきりと言っている。
東京に出れば不幸から逃げられる、それは簡単にいかないと思う。
地獄はどこでも口を開けていて、飲まれる可能性はある。
けれど母からの支配は抜け出すことは出来る。
地道に人よりいい暮らしをしようとか身の丈に合わない生活をしなければ幸せは掴めるチャンスにはなる。
最後の連鎖を断ち切った陽向が幸せになれたのも断ち切ろうとした意志の強さと、理解あるパートナーを見つけた運も大きい。
ネットで言われる理解ある彼くん (不幸不幸と言っていたが彼くんのおかげで幸せですで〆られる系)この存在というのはハッピーエンドに不可欠なんだなと思うしかない。
夫となる健次が全ての告白を聴いて、無理となったらまた不幸になる確率は高い。
受け止めてあげるよと理解ある態度をして、こんな君を受け止めた俺すごいな心が透けて見えたらそれも駄目になったと思う。
ただただ健次の人間性が良かった為、さらにシンガポールへの転勤というのも重なり逃げ切ることが出来るのだろう。
日本にいたらどこからか過去が伝わって子供達に影響がないともいえない。
ちょっと出来過ぎかなと思うが、最終的に母を捨てるのを宣言したのは陽向なのでそこは良いと思った。
この物語で不幸の連鎖に巻き込まれてしまった他人がいる。
紘子はエリカの息子と一時付き合い、家に招かれて幼かった陽向と出会いこの環境にいて大丈夫なのかと心配から家に通うようになる。
彼氏とは別れていてもエリカの家は誰でもウエルカム状態なので、社会からドロップアウトした子供が何人も出入りする。
不健全な空気の中、紘子も居心地悪くなっていくが陽向が助けてという目で引き止めるからまた通ってしまう。そして悲劇が起こる。
この場所は何かおかしい、自分は歓迎されてない身だと気付いたら気持ちのままに立ち去るべきという教訓。
大人ならともかく子供では手に負えない。閉鎖的な環境で力を持たないものが正論を言っても力で封じられる。
助けたつもりでも、その相手に見て見ぬふりをされる事態はいくらでもある。
自分に余るくらいの問題に直面したら、他の人や機関に相談してどんどん巻き込む行動を起こさなければ共倒れする。
一人で助けられるなんて思ってはいけない。
途中で例とした少年のアビスはそういう意味でどうなるのか、
とても興味深くもある。