「ここはすべての夜明けまえ」永遠の少女の罪とささやかな願い。
早川書房の大得意ジャンルのひとつがSF。あまり読まないジャンルなのですが、SF食わず嫌いも手にとってしまう可愛い装丁とキャッチコピーで、とっても気になった本です。
1ページ目からほとんどひらがなです。表紙裏表紙の写真がこれですが、本文ほとんどこの文体です。
漢字ばかりで難しそう…という本はごまんとありますが、ひらがなだらけで読みにくそうな大人の本はなかなかありません。読み通せるのか!?逆に! と不安になりましたが、お話の先が気になって読めます。
☆主人公は永遠少女
並行世界の今と未来が描かれます。こちらの世界とだいたい一緒なのですが、違うことがひとつ。あちらの日本の法律では永遠の身体を持つことが認められたこと、そして自分で死ぬ権利が定められたのです。
主人公で語り手でもある25歳の女性は、2021年から認められた”融合手術”を受けました。脳以外はとても良くできた機械です。痛覚や疲労など負の部分が徹底的に排除され、視覚と聴覚は残っている様子。脳は移植されているので会話も記憶も元のまま、その上25歳の容貌を保ったままなのです。これだけ聞くとなんだか羨ましいような永遠少女です。
ただ主人公は名前すらわかりません。名前の部分は空白になっています。
「〇〇ちゃん」と伏せ字ですらなく、「 ちゃん」。この事実だけで悲しくなっちゃいます。
現在の世の中の人々が全員旅立ったあとも25歳のまま生きることになる
「 ちゃん」は、名前というアイデンティティなど生身の身体とともに捨ててしまったのかもしれません。
☆今日の日を思い出すことは幸せなことなのか
「 ちゃん」は25歳までの人間であった時、非常につらい人生だったようです。ちょうど「虎に翼」が放映されていた頃に読んだので、リンクする部分がたくさんありました。
なんて理不尽なんだろう。なんでわたしはこんな立場に置かれるんだろう。
生きているか死んでいるかわからない夜を過ごす時に繰り返し聴いたのが
アスノヨゾラ哨戒班のこの曲。
ボカロと打ち込みだけで構成され、生の人間の声や楽器の音がないアスノヨゾラ哨戒班の曲を「 ちゃん」は愛しています。Orengestarさんがいない世界になってもずっと脳内再生しているのです。
この世に生きていたくないと思った時にずっと
「今日の日をいつか思い出せ未来の僕ら」
と唱えることは、希望なのかな、と思いました。
しかしそれは希望や喜びではなかったようです、永遠に生きる「 ちゃん」にとっては。
☆シンちゃんという恋人
永遠の身体を手に入れて、「 ちゃん」はシンちゃんという恋人とともに生きていました。シンちゃんは生身の人です。当然老いていくのです。
「 ちゃん」はなぜシンちゃんを選んだのか。そのわけを知った時、読者は人間の脳が残った「 ちゃん」を理解するのでしょう。驚愕もするんですが。
「 ちゃん」は人間を超えた存在。なのに、なんでそんなに悲しいの。
「 ちゃん」の独白でこの小説はできており、それは「 ちゃん」家族の歴史です。全ての人とお別れした未来の「 ちゃん」の幸せとは何なのか。
彼女の願いはいたってささやかでした。自分が正しいと思えることをしたい。
老いる地球をさまよう彼女の苦悩と罪は、生身の私たちとなんら変わらないものなのでした。
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