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五日市憲法を見つけた男、色川大吉氏(5)全5回
noteを開いたら、
メッセージが。お読みいただいた皆さま、そしてスキを付けてくれた皆さま、ありがとうございます。「#将棋がスキ」ではなんどかメッセージをもらったが、「#忘れられない先生」では初めてです。
このシリーズ最終回は、新井先生が土蔵のカギを開けるところから始まる。
新井先生著の新書「五日市憲法」では、1968年、初めて土蔵に入るときの様子が描かれている。その後、土蔵には人が立ち入ったが、そうそう頻繁にというわけではないので、今もって重く開けずらい扉。おそらくだが、当時とそう変わっていないだろう。だから、その新書の記載をここに引用してみる。
ご当主の深沢一彦さんが持参した鍵は、土蔵の建築年代と重なる、いかにもというものだった。その古めかしい自在鍵をどう使うのかさえ、私たちには興味の対象であった。まず、分厚い土壁の重い扉を開けることから始まったが、その重さは尋常ではなく、一人で開けるのはかなりきつい。やっと開いた扉の奥に、さらに二重の扉がある。それを開けるところで自在鍵の出番となった。
鍵穴に入れるのは容易だったが、そこからはコツが必要で、持ち主の深沢さんでさえ、すんなりいかなかった記憶がある。私たちはジッとそばで見ているしかなかったが、そのシーンは今も目に焼き付いている。次に三番目となる木製の扉が出てきて、それを開けてようやく土蔵の中に空気と光が射し込んだ。気がつくと結構な時間が経過していた。土蔵の厳重さを思い知った次第である。
2019年に至っても、扉はすぐに開いてくれなかった。我々も手伝ったが、かなり手間取った。
重いところに持ってきて、万一壊してしまったらという心配が、しぜんと力を加減させる。それに、狭くて大人数で対処できない。なんとなくだましだまし、という感じで、幾重にも閉じられた近代の扉を開いた。
日差しの強い日だけど、窓のない土蔵の内部は暗い。入ってしばらくじっとして、目を慣らす。そして新井先生の先導で、五日市憲法が発見された2階へと上ることになった。
頼りない階段をゆっくり上がる。自分が気を付けていても、前の人が落ちてくるかもしれない。上をしっかり見ながら、這うように上がっていった。
すぅっと寒気のする、暗く狭いスペース。かなりの人数だが、口数が少ない。ぺらぺらと喋る雰囲気ではないのだ。こういうのを、「歴史の重み」というのかもしれない。
当然、その辺りのものを手に触れることも躊躇われる。皆がじっと立っていると、新井先生が慣れた感じで発見当時の状況を語りだした。
懐中電灯も用意していて、照らしながら語る。
「調査のとき、たまたま近くにある弁当箱ほどの竹製の箱に気づき、なにげなく手にしたんです。文箱のようなもので、あけたら風呂敷包があって、ほどいたら経年劣化で崩れてしまったんです。慌てましたが、崩れてしまったので、戻すわけにもいかず、全部あけることにしました」
そこで出てきたのが、五日市憲法だった。しかし当時は、分からなかったという。持ち帰って皆で調べているうちに、たいへんなものだと分かったということだ。
「だから、これまでに見つけたときの状況を何度も聞かれたのですが、聞き手が求めている、『発見時のおどろき』なんていっさいなかったんですよ。憲法というものに興味を持った人が、初めて発布された憲法の条文を写したものじゃないかな、と思ったくらいですから」
新井先生は笑いながら説明してくれた。この新井先生の例のように、大方の事実は、あんまり劇的ではないのだ。
新井先生が第一発見者だが、話を総合的に見れば、五日市憲法はやはり色川大吉氏が見つけたと言っていいだろう。この深澤家土蔵に目を付け、持ち主の方が渋るのを根気強く交渉して調査するところまでこぎつけた。読みと粘りが、発見に結びついたということだ。
新井先生の現場での講義を聞いた我々は、土蔵をあとにした。
そして五日市の郷土館に向かい、そこで本格的な講義を聞き、それを終えると歩いて五日市中学校に向かった。ここには、五日市憲法の『碑』がある。皆でその『碑』の前に集まり、新井先生の解説を聞いた。
そして駅へと戻り、次の五日市線で拝島へと戻っていった。懇親会の会場を、OKさんが拝島の居酒屋で押さえていたのだ。
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