【読書メモ】ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11
1.はじめに
この本を執筆したバイロンシャープ氏は豪アレンバーグ・バス研究所の研究者。左記の研究機関ではエビデンスに基づいたマーケティング理論を世の中に多く紹介しています。
マーケティング関連の書物は根拠が分からない神話的理論を展開するものが多い印象ですが、本書は実験結果を基に考察を重ねている点がユニークでした。
ファクト(事実)を正しく理解すること、エビデンスに基づいた理論を実践することがいかに重要か学ぶことができました。
この本を日本に紹介してくださった監訳者 加藤巧さん、Duolingoの中の人が書いたnoteにも感謝します。
今回は本書中で特に興味深かったポイントをまとめてみようと思います。
2.専門用語を理解する
本書を読み進めるには、前提として多くの専門用語理解が必要になります。改めて定義を整理し、内容を正確に捉えたいと思います。
また、明確な定義を捉えることができなかった言葉はコレクシア社芦澤氏など専門家が書いた記事や、学術機関・民間企業が出している情報を参照しています。
バイロンシャープ氏の記述と照らし合わせ
整合性が合う内容になるようまとめました。
ブランド・ロイヤルティー
名詞ロイヤルティ(Loyalty)は、直訳すると「忠誠※」、「忠実」。
※忠誠=自分より上位にある人物,集団,理念等に対する尊敬の念を伴った献身と服従の態度
ブランド・ロイヤルティは、顧客がブランドに対してどの程度忠誠心または執着心を持っているかということ。
ブランド・ロイヤルティは消費者側の満足戦略に基づいた自然な行動(=消費者の行動特性)。
ロイヤルティには、心理的ロイヤルティ(ブランドに対する態度と思い)と行動的ロイヤルティ(購買頻度・購買点数の多さ・高単価でも購入する等)がある。
本書の中でバイロンシャープ氏はブランド・ロイヤルティはダブルジョパディの法則(シェアが大きいほど顧客数が多く、ロイヤルティーも高くなる。詳細は後述)に従っていると語っている。
ブランドの売上最大化を目指すマーケティング戦略を考える場合、ブランド・ロイヤルティを高める施策(ロイヤルティプログラム等)は
悪手。
顧客浸透率を高めることが重要で、左記指標を高めていく為には商品の差別化以上にブランド独自の資産を増やし、ブランドセイリエンスを高めることが大切である。
ブランド・セイリエンス
名詞salienceは直訳では「顕著な特徴」、「顕著性」。専門用語としては顕現性(はっきりと姿が現れること)と訳すこともある。
ブランド・セイリエンスは、卓越したブランド特性を有していることを意味する。近年の研究(本書では1997年と2004年の研究引用)では、差別化理論の教えよりも、ブランドの認知度とセイリエンスが、消費者の購買行動やブランドの競合に大きな影響を及ぼすと考えられている。
ブランド・セイリエンスは、ブランドが人々の心の中をどのように占めているか、すなわち、記憶(嗅覚や味覚などの感覚の記憶や、喜びや痛みを伴う感情の記憶等)とブランドとの間に構築されるネットワークの量と質に大きく依存している。
量とはブランドの購買客が構築しているブランド連想の大きさを指し、質とは連想の強さと属性の関連性を含んでいる。
メンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティ
本書内の定義説明
まずアベイラビリティ(availability)とは利用[使用]できること、入手[購入・利用・使用]の可能性[可能度]、利用[使用]できる度合いを指す名詞。
本書内ではメンタル・アベイラビリティはブランド想起の高まり、フィジカル・アベイラビリティは購買機会の高まりと説明されている。
バイロンシャープ氏は何十年間にもわたる消費者の購買行動パターン調査結果から、ブランドは主にメンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティの観点から顧客獲得を競い合っているという結論を示している。
メンタル・アベイラビリティを獲得するためにはブランドの独自性とブランディングの確立が必要で、フィジカル・アベイラビリティを獲得するためには、地域や時間を問わず、広く深く流通していることが必須になる。
メンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティの両方を確立して初めて、ブランドは多くの人にとって買い求めやすい存在となる。
メンタル・アベイラビリティを構築することは、人々の記憶の中にブランドに関連する記憶のネットワークを育み、そのネットワークの幅、すなわちブランドのシェア・オブ・マインドを広げること。
『ブランディングの科学 新市場開拓篇-エビデンスに基づいたブランド成長の新法則-』内での解説
続編である『ブランディングの科学 新市場開拓篇 -エビデンスに基づいたブランド成長の新法則-』の序章で加藤 巧さん(江崎グリコ株式会社 執行役員)が定義説明をしてくれてました。ここで引用しておきます。
『その決定に根拠はありますか?確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング』内での説明
次に(株)秤 代表取締役社長 小川 貴史さんの定義説明を引用しておきます。個人的には1番端的に理解できる内容だと思いました。
あなたのブランドがメンタルアベイラビリティとフィジカルアベイラビリティを向上させるには何をする必要があるのか?
メンタルアベイラビリティを向上させるために必要なのはカテゴリーエントリーポイント(Category Entry Points、以下CEPs)を強化することです。
CEPsの重要性は下記記事から確認できます。Ehrenberg-Bass Instituteの引用を先頭にして記載します。
続いてフィジカルアベイラビリティを向上させるために必要なのは配荷の量と質です。
配荷の量と質については前述の『ブランディングの科学 新市場開拓篇 -エビデンスに基づいたブランド成長の新法則-』の加藤 巧さんの説明を確認ください。
ブランドエクイティ
名詞equityは直訳で「資本」、「株主資本」。
本書内の説明を論拠にするとブランドエクイティとはブランドがもつ売却可能な無形資産を指していると考えられる。
市場浸透率
市場浸透率(英訳Market penetration rate)は特定の期間に何人がそのブランドを少なくとも1回買ったかを記録する指数。
バイロンシャープ氏はブランドの購入客数と購入回数はダブルジョパディの法則(売り上げが低いのは、ブランドの購買客数が少ない上に購買頻度も低いという2重苦を背負っているため)に従っており、ブランドはまず市場浸透率を上げてから成長すると論じている。
プライミング
プライミングとは人は頻繁に目にする物やブランドほど好む傾向があるという心理学的現象。
satisfice
satisficeとはSatisfaciton(名詞:満足)とSuffice(動詞:十分である、足りる)から成る混成語。ノーベル賞受賞経済学者Herbert A Simonが造語した。
消費者が購買時にとる戦略。「最適を求める」のではなく「必要最小限を求める(satisfice)こと。つまり、消費者は自分にとって最適の製品を探し求めているのではなく、そこそこ満足できる製品を選んで購入している。
人気度
ブランドの人気度(英訳popularity)を指す。
同書第13章では「すべてのマーケティング指標が反映するもの」であり、「人気度こそすべての原点」と述べられている。
上記で紹介されているNBD(negative binominal distribution)ディリクレモデルは株式会社刀の森岡氏・今西氏が書いた『確率思考の戦略論』でも登場している。
記憶
本書内で記憶が果たす役割が非常に大きいことが分かります。具体的には記憶は広告とブランド選択の橋渡し役であるという点。
ブランド・セイリエンス(卓越したブランド特性を有していること)とメンタル・アベイラビリティ(ブランド想起の高まり)を向上させるには顕在・潜在記憶構造にブランドはメッセージを届けていく必要がある。
カテゴリーエントリーポイント(CEP)
前提
本書内で出てくるワードではありませんが、後続の著書『ブランディングの科学 [新市場開拓篇] エビデンスに基づいたブランド成長の新法則』に繋がる重要な概念である為、合わせて用語整理をしておきたいと思います。
カテゴリーエントリーポイント(CEP)については『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』の著者でコレクシア社マーケティングプランニング局長芹澤 連さんの説明を引用したいと思います。
カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは?
芦澤さんの説明によるとカテゴリーエントリーポイント(CEP)とは、購買の選択肢を考え出すきっかけとなる記憶や思考のことだそうです。
(芦澤さんは南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所の研究内容を論拠にして説明しています)
CEPは"合図"や"トリガー"のようなキッカケになるものと想像すると理解頂きやすいかもしれません。
ニーズやジョブが発生した消費者がブランドを想起するキッカケがCEPです。
コカ・コーラのCEPを考えてみる
1.ジャンクフードとコカ・コーラ
コカ・コーラは、特にジャンクフードや外食の際に定番の飲み物。ハンバーガーやピザなどの食事と一緒に楽しむ際に第一想起として選ばれやすいのではないでしょうか。
2.映画鑑賞やエンターテイメントの際のドリンク
映画館でのポップコーンとの相性や、家庭での映画鑑賞時に楽しむ飲み物として、コカ・コーラは人気かと思います。リラックスした時間をより楽しむために、多くの人がコカ・コーラを選ぶと思います。
3. パーティーや社交の場でのドリンク
家族や友人との集まりやパーティーでは、コカ・コーラがテーブルに並ぶことがよくあります。社交の場を盛り上げるドリンクとして、多くの人々に選ばれていると思います。
CEPと想起集合
想起集合とは購買を検討する際に消費者が思い浮かべるブランドのリストのことです。CEPと想起集合のつながりは下記になるのではないでしょうか。
ちなみに想起集合や第一想起についてはトライバル代表池田さんの記事が参考になりますので貼っておきます。
CEPのネットワークサイズを広げることが購買の可能性を高める
南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のRomaniukは自身の著書『Building Distinctive Brand Assets』で大きなブランドになりたいのなら、たくさんのCEPと紐づけること、つまりCEPのネットワークサイズを広げること(水平拡大)が重要と説明しています。
ネットワークサイズは、大きなブランドと小さなブランドの違いを生む重要な要素です。例えば、コカ・コーラは、長い年月をかけてCEP(Category Entry Points)のネットワークを広げ、消費者に選ばれる確率を高めてきました。
ブランドが選ばれるためには、まず消費者の頭に浮かぶ(想起される)ことが重要です。
そこで鍵となるのが「関連するキュー(トリガー)に対して、どれだけ多く(水平の広がり)かつ強く(垂直の深さ)ブランドが結びついているか」です。
これにより、消費者が購入を決める瞬間に、そのブランドが頭に浮かびやすくなり、購買の可能性が高まります。
3.11のマーケティングの法則
バイロンシャープ氏が調査・検証を行い発見した一般化できるパターン。
本書内で紹介されている法則は市場予測のあらゆる状況下で正しく機能する再現性のある不変の法則として紹介されている。
①ダブルジョパディの法則
マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティもやや低い。
②リテンションダブルジョパディの法則
顧客を失わないブランドはない。その損失はマーケットシェアと比例する。大きいブランドほど多くの顧客を失うが、その損失は顧客基盤全体と比較すると小さい。
③パレートの法則(60/20)
ブランドの売り上げの半分強がそのブランドの上位20%の顧客によってもたらされ、残りの売り上げが下位80%の顧客によってもたらされる(通常のパレートの法則の 80/20にはならない)。
④購買行動適正化の法則
ある一定期間中にヘビーバイヤーだった消費者の購買量は、その後減少する。またライトバイヤーの購買量は増え、ノンバイヤーがバイヤーになることもある。
この平均への回帰現象は、購買客の行動が実際に変化しなくても生じる。
⑤自然独占の法則
マーケットシェアが大きいブランドほど、そのカテゴリー内の多くのライトバイヤーを引きつける。
⑥顧客基盤が類似する
競合ブランドの顧客基盤と自社ブランドの顧客基盤は非常に類似している。
⑦ブランドに対する態度と思いが行動的ロイヤルティに反映される
消費者は、自分が使用しているブランドほど知識が豊富で多くを語るが、使用しないブランドについては考えることも語ることも非常に少ない。
従って、ブランドに対する態度を評価する調査を実施すると、大きいブランドはロイヤルティの高いユーザーを多く含むので常にスコアが高い。
⑧ブランド使用体験が消費者の態度に影響を与える(私もママが好きあなたもママが好き現象)
ブランドは異なっても、それぞれの購買客がブランドに対して示す態度と認識は非常に類似している。
⑨プロトタイプの法則
製品カテゴリーを的確に説明するイメージ属性は、そうでない属性と比較して、評価が高い(ブランドとの関連性が高い)。
⑩購買重複の法則
ブランドの顧客基盤は、マーケットシェアに応じて競合ブランドの顧客基盤と重複する(大規模ブランドとの顧客共有率は高く、小規模ブランドとの顧客共有率は低い)。
もし、一定期間内にあるブランドの購買客の30%がブランドAも購入するとすれば、どの競合ブランドもその購買客の30%がブランドAを購入する。
⑪NBDディリクレ
カテゴリー内の購買客の購買頻度や購入ブランドについて、その傾向にどのような差異が生じているかを明らかにする数理モデル。
このモデルが前述の法則の多くを正しく解説し説明してくれる。ディリクレはマーケティングの数少ない本物の科学的理論の1つ。
該当の数理モデルおよび関連するソフトウェアについての詳しい情報は、アレンバーグ・バス研究所のウェブサイ<www.MarketingScience. info>に掲載されている。
4.7つのシンプルなマーケティングの法則
第12章では売り上げを伸ばすブランディング構築のための競争(持続可能な売り上げ基盤構築の競争)を支えるシンプルな法則が紹介されている。
①ブランドのサービス/製品カテゴリー内のすべての購買客に、配荷およびマーケティングコミュニケーションの両面から継続的にリーチする
すべての人がブランドの潜在顧客になる可能性を持っている。
できるだけ多くの顧客にメッセージが届く費用対効果を考えたマーケティングの選択肢を考えなければならない。
ブランドを買わない人や購入頻度の少ない人に届かない戦略は避けること。売り上げの多くがこのような消費者から得られる可能性がある為。広告を中止しなければならない事態は避ける。
ブランドのターゲット市場の定義が狭くなって、実際にブランドを購入している消費者を正しく把握できない事態も避ける。
誰が、いつ、どこでブランドを買い、生活の中でどのように利用しているのかを正しく理解する必要がある。消費者はさまざまであり、平均的な消費者像を語っても意味はない。
②ブランドの買い求めやすさを確保する
フィジカル・アベイラビリティ(ブランド想起の高まり)とメンタル・アベイラビリティ(購買機会の高まり)があれば、多くの人が時間や場所に関係なくさまざまな状況でブランドを買い求めやすくなり、マーケットシェアが上がる。
市場調査を行って、そのときの消費者のブランド購買行動と使用行動を確認する。また、探していていたタイプ、サイズの商品がない、あるいは価格が高すぎるなどの「買わない理由」が生じている場合、それも確認することを忘れない。
大きいマーケットシェアを持つブランドの存在理由を「買い求めやすいから」と説明するのは軽率であり、説得力に欠ける説明。調査を十分に行って、その製品カテゴリーにどのような優れた利便性があるのかを解明する。
③目立つ。その過程を誤るとブランドコミュニケーションに費やす費用が無駄になる
広告や実際の販促活動で消費者にリーチすることができたとしても、ブランドが認知されなければその効果は非常に低い。
棚の商品が目に入らなければ(例:下を向いて通りを歩いていた、車を運転しながら店頭を通り過ぎた)、その商品が買われることはない。記憶に残らない広告は人の記憶構造に影響を与えることはできない。
感情に訴える広告の主たる目的は注意喚起であり、広告の好感度と認知度には関連性がある。たとえわずかであっても、好感度から生じる感情的反応が広告に作用すると、消費者は広告に少しずつ注意を向けるようになり、販売効果が増大する。
一般的には好感度の高い広告を実行すれば正しくブランディングされる可能性が高い。
④ブランドが目立ち、買いやすくなるためにも、ブランド記憶の構造を構築/刷新する
ブランドの広告は、たとえそれが認識されても記憶構造を刷新または再構築することができなければ、機能しているとはいえない。
そのためには、消費者の思考を理解して、それに反することなくそれに沿ったマーケティング活動を行う必要がある。
この目的のためにブランドイメージ調査を行う。そして消費者の頭の中に存在する記憶構造を理解し、それを反映したブランドコミュニケーションを構築しなければならない。質の高いクリエイティブな広告を作っても、効果を発揮できなければ意味がない。
新しいブランドにとって、消費者がそのブランドを買いたくなる記憶の構築は重要課題だ。たとえば、どのようなベネフィットを提供してくれるのか、どのような形状か、何というブランド名か、どこで買えるのか、どう使うのかなどだ。
これらの基本的要素は非常に重要で、消費者にコミュニケーションすることを怠ることはマーケティング上の罪といえる。
⑤独自のコミュニケーション資産を創造する
ブランディングは極めて重要。ビジネスの成功は、そのカテゴリーにブランドを確立することで達成される。
なぜ独特のブランド資産を持つことが重要か、大きく3つの理由は下記。
独特のブランド資産を持つことの重要性1
まず、ブランディングを行うことで消費者がそのブランドにロイヤルティを感じ、経験則に基づいて「自分のブランド」あるいは「自分で選んだブランド」を買うようになる。
ブランディングを行わなければ、このような本来自然なロイヤルティが、価格、棚の中の位置、特売の商品などの他の要素に向いてしまう。
独特のブランド資産を持つことの重要性2
次に、ブランディングを行うことで消費者の広告の理解が進み、記憶構造が刷新されてブランドの正しい理解が促進される。
ブランディングを行わなければ、広告が消費者の記憶構造を刷新することは不可能だ(つまり広告が機能しない)。
ブランディングの力は大きく、そのブランドを知っている消費者ほどそのブランドの広告を認知しやすい。
ブランディングとはブランド独自の資産を構築することだ。消費者の頭の中でブランドの連想が整理されていく。そしてブランドの連想が他の記憶や連想に働きかけてひとつの形を形成する。
たとえばiPodの白いヘッドホン(イヤホン)は、すべてのiPodの広告の中で非常に際立っており、ブランドの資産となった。ジョリー・グリーン・ジャイアント、 M&Mのキャラクター、 PGチップスのチンパンジー、メルセデスベンツの星マーク、ナイキのスウォッシュマーク、マスターカードの「プライスレス」、ロレアルの「あなたにはその価値があるから」、プーマのロゴなどがすべてその好例。
ブランド資産を映像化、音声化、言語化してポートフォリオにした企業もある。その中にはあらゆるメディアに使える自由度を有しているブランド資産もある。
そのブランドならではの独自の情報を人は非常に素早く処理している。まず認知し、理解を深め、脳がその情報にアクセスし整理することを助けている。独自のブランド資産がこのプロセスで機能を発揮する。これがブランディング。
独特のブランド資産を持つことの重要性3
3番目に、独特なブランド資産が極めて重要。
これを記憶に定着するように表現することでブランドがいっそう際立つ。ブランドを認識できるのは印象的なブランドの提示があるから。
たとえ買い物が目的で小売店に入っても気づかない商品が多いことを考えると、独特のブランド資産を有することでブランドのセイリエンスが増す。
⑥一貫性を保ちながら、新鮮さと興味を失わない
ブランドは非常に長く存続する可能性を秘めている。
企業の寿命や人の職業寿命と比較すると、ブランドにはまるで寿命というものが存在しないかのようだ。何十年間も市場で優位性を維持してきたブランドは、ポジショニングを変更して成功したのではなく一貫性を維持して成功した。
多くの広告が新しさやエンターテインメント性を維持しながら、何年にもわたって同じメッセージを発信している。購買における負の二項分布(NBDディレクレモデル)パターンは、ブランドのメッセージに一貫性が必要であるという厳然たる事実を提示している。
⑦競合力を維持しつつ、多くの人に受け入れられる。ブランドを買わない理由を与えてはならない
ブランドは、メンタル・アベイラビリティ(ブランド想起の高まり)とフィジカル・アベイラビリティ(購買機会の高まり)を競い合っているといえる。
だからといって製品特徴や消費者評価を軽視してもよいというわけではない。ただこの闘いに勝たなければ、消費者の心をつかむことはできない。
人がブランドを買うとき、その選択のプロセスの大部分が、選択肢に気づかないまたは選択肢を無視するという行為である(自分でも気づいていないこともあれば、購入の判断をしたという自覚がないこともある)。
評価を行って購入に至るブランドの数はごく限られている。それは、その存在に気づき再想起できたブランドであり、1つに絞られることも珍しくはない。従って、肯定的な特徴と印象を持たなければ消費者に選択してもらえない。
実際、人がブランドを選ぶのはこのような要素を有している場合に限られる。製品特徴の優位性がやがてセイリエンスを構築し、時間経過とともにメンタル・アベイラビリティとフィジカル・アベイラビリティを獲得していく。
製品特徴が有意性を有していることは重要であるが、業界紙が書きたてているほどではない。これは市場に卓越した基盤を確立させたブランドにおいては特に言えることだ。別の言い方をすると、多くの人にとって買いやすいブランドほどよく売れるとも言える。そこで思い出すのが、売り上げには買う理由よりも買わない理由が重要であるということだ。
一般的に、マーケターは「買わない理由」、
あるいは少なくとも世間の悪評には非常に敏感。それでもマーケターが消費者に「買う理由」(価値提案、独自の強み、差別化の要因など)を伝達することにあまりにも注力し、消費者を振り向かせるための製品特徴に関してはまったくの無関心であることは珍しくない。
消費者にブランドを認知させることは非常に難しい。もしマーケターがこれに成功すれ消費者は習慣的に(あるいは惰性で)ある程度のブランドロイヤルティを感じるようになる。しかしそれも、消費者が「買わない理由」に気づいてしまうと同時に、そこで途絶えてしまう。
マーケターは常にこのようなバリアに対して警戒を怠ってはならない。これが差別化には注意を要する1つの理由だ。ブランドが、ある一部の消費者群にとって差別化されていて魅力的であっても、消費者が離れていくことは有り得る。
5.広告の機能
本パートでは第9章広告の機能についてまとめています。
自分がwebマーケティング担当者なので、広告の価値を正確に理解したいと思っていました。第9章の内容はとても有用だと思いました。
広告の売上効果に関する誤解
広告には売り上げ効果がほとんどないと考えられがちだが、それはこの調査から生まれた誤解。
広告に売り上げが速やかな反応は示さないことを、洞察力に富むマーケターは何十年も前から気づいていた。広告比重のシフト( Hu, 2009; Lodish, 1995)と広告弾力性( Tellis, 2009)について論じている学術論文も散見される。
広告は記憶を刷新しながら構築することで機能している。今では思考や意思決定は無意識のうちに行われ感情に支配されていることが分かっている。
広告の売上効果は見えにくい
広告が毎月毎週の売上高に及ぼす影響は見えにくい。
売り上げは広告を開始/増量しても伸びないし、減少させても低下しない。
広告が売り上げに及ぼす影響が正しく理解されていないからだ。2つの理由が考えられる。
1.広告の目的はマーケットシェアを維持することにある
マーケットシェアの拡大または上昇傾向を加速させるために十分な広告費を投資し、優れた広告を制作している企業は少ない。
多くの企業が、広告を実施しなければ生じる非常に緩やかな売り上げの低下を防ぐために広告を実施している。
多くの広告が、競合他社の広告によって自社の売り上げが横取りされることを防ぐことを目的にしている。
阻止することで、広告を実施しなければ得られなかった売り上げを長期間にわたって獲得できる。
つまり、ブランドの売上高が伸びなくても、
広告は売り上げに貢献しているということだ。
2.広告の売り上げ効果が表れるまでには時間がかかる
広告を今日実施しても、その効果がわずかでも売り上げとなって表れるのはずいぶん時間が経過した後のこと。
だから1週間の売り上げをはっきりと上昇させるためには、通常ならば巨額の出費が伴う(※)。
※同様に、広告の出稿を止めても売上高が急に下落することはない。マーケターが広告費の削減を防ぐことが難しい理由の半分がここにある。
成功する広告とは
成功する広告は、特に翌週や翌月にそのブランドを購入する確率の低い数百万人の消費者に届く。
ブランドの広告が届き、消費者がそれを認識すれば、記憶構造が刷新されて強固に再構築されることで、ブランドはより目立ちやすくなり、
購買を行う状況でより想起されやすくなり、ブランドのセイリエンス(卓越したブランド特性を有していること)とメンタル・アベイラビリティ(ブランド想起の高さ)が向上する。
結果的にブランドの購買が促進される。これが売り上げ効果である。
しかし、売り上げの多くが毎週の売上高として反映されるものではない。
なぜなら消費者が今週ブランドを購入するとは限らないからだ。購買意欲が増したからといっても、そう簡単に買うものではない。実際、多くの場合、売り上げ効果は見られない。
その原因は、消費者がそのカテゴリーでブランドを購入する前に競合ブランドの広告やマーケティング活動に触れて、自社の広告効果が効力を失ったことにある。
しかし、だからといって広告の売り上げ効果が生じなかったわけではなく、購買意欲が刺激され、自社ブランドの売り上げが競合他社の広告からわずかながらでも守られている。競合ブランドは広告で売り上げを伸ばすことができず、現状を維持するに留まっている。
シングルソースデータ分析が広告効果を証明している
シングルソースデータ分析を40年間にわたって続けた結果、広告に触れた消費者が売り上げを伸ばすこと、広告により大きな差が生じることを裏づける経験に基づく確かなエビデンスが得られている。
ブランド、カテゴリー、国、データセットに関係なく同じ結果が得られたとの事(Jones, 1995 a & b; McDonald, 1969; Roberts, 1994; Roberts, 1996; Roberts, 1998)。
これは、広告活動を行う者にとっても、また自社の広告の売り上げ効果を測定してどのようなクリエイティブな広告とメディア戦略が有効かを知りたい広告主にとっても朗報。
分析を行ったジョンズは、シングルソースデータを用いて売り上げ効率の高い広告を分析し、レビューの中で次のようにコメントしている(1997年)。
研究結果から分かる広告特性
実験などの他の信頼できる方法によって証明されている重要な研究結果を要約する。
•広告は売り上げを伸ばす。
•非常に売り上げ効果の高い広告コピーがある一方で、ほとんど機能しないものもある。
・クリエイティブなコピーは説得力に欠けても売り上げ効果が高い。
•より広くリーチするメディア戦略が特に効果的。リーチは広告に接触する頻度よりも重要。
・集中的な広告を実施してその後しばらく中断するよりも、継続的に広告活動を行う方が、記憶の低下を防げるので効果的。
上記ポイントすべてが購買率の負の二項分布と一致する。
特に、広告に中断期間を設けることなく全カテゴリーの消費者に十分な時間をかけて隈なくリーチすることの重要性と一致する。
広告はメッセージが消費者に届いて行動を促して初めて機能する。
認識された情報が処理されてはじめて広告は機能する
広告の情報が処理されなければ、記憶構造は構築されない。
また、広告のブランドに基づいた記憶構造が構築されなければ、売り上げは生まれない。広告の大半がこれら2つの問題を解決できず、広告費が無駄に使われている。
ひどい場合は、競合ブランドの記憶構造を刷新してしまうことがある。
消費者に認知されブランディングに貢献しているテレビコマーシャルは20%に満たず、80%が無駄に終わっている。
記憶がすべて
ごくわずかのダイレクトレスポンス広告(インターネット検索エンジン上の広告を含む)は別として、広告は記憶を介して機能する。
記憶は広告とブランド選択の橋渡し役を務めている。マーガリンなどの頻繁に購入される商品でさえも購入頻度は平均して年に8回ほどで、ほとんどのブランドが年に1・2回しか購入されていない。
広告によって差はあるが、広告に触れてから実際に買い物に出かけてそのブランドを想起するまでには何カ月もの時差がある。消費者の行動に影響を与えるためには、広告は人の記憶に作用しなくてはならない。
ブランドセイリエンスの構築
広告は主に記憶構造を刷新、ときには構築することで機能する。
記憶構造が刷新/構築されることで、買い物に行ってブランドを想起したり認識したりする可能性が高まり、結果的に高い購買率につながる。
ブランドに関連する記憶構造とは、ブランドの機能や外観、またどこで入手可能か、いつ誰がどこで誰と消費するのかといった情報。
記憶はブランドを想起させる要因と密接に関連している。
また、消費者がブランドを食品庫から取り出して食べるよう働きかけるのも記憶だ。
広告は記憶構造を刷新することで機能している
多くの場合、広告は記憶構造を刷新することで機能している。必要に応じて記憶構造を構築し、嗜好や購入意向を創出することもある。
広告は独創的なメッセージを発信してブランドセイリエンスを維持/構築している。ブランドが説得力のあるメッセージを持っているかどうかを悩む必要はない。
たとえ説得力のあるメッセージを持っていても、ブランドの連想や、連想のきっかけ、セイリエンス、長期的独自性などの枠組みの中に、
そのメッセージを組み込まなければならない。
マーケターはすでに構築された自社ブランドの記憶構造を理解しなければならない。そしてそれらを利用して、広告の力で記憶構造を刷新する必要がある。
次に、他にどのような記憶構造が役立ちそうかを探し(例:カテゴリー内の購買促進要因)、それを構築するよう努めなくてはならない。一流ブランドはすばらしい記憶構造の構築に数十年もの時間をかけて努力を続けている。
コークが良い例だ。以前アメリカではコークはドラッグストアで販売されており、10代の若者がドラッグストアにやって来る夏のシーンとともに連想されていた。
今日では、コークはさまざまな記憶と結びついている。たとえば、砂浜とコーラ、ナイトクラブとコーラ、ピザとコーラ、パーティーとコーラ、カフェとコーラ(オリジナルのロングブラック瓶)、コークの瓶、コークの赤、コークの渦巻きロゴ、などがそうである。
このような記憶があるからコークを連想しやすい。つまり消費者がコーラを認識しやすくなり、広告の情報を処理しやすくなるということ。
効果的な広告の作り方
同書第9章の最後に効果的な広告の作り方が
簡潔にまとめられている。
•すべてのカテゴリーの消費者にリーチすること。
•広告活動を長期間休止しないこと。
•消費者に認識されること。無視されないこと。
•ブランド連想を明確にすること──ブランド独自の資産でブランド広告を後押しする。言葉で、または視覚的にブランド名に言及することが極めて重要。
•製品と製品使用シーンを提示することも重要。
•記憶構造を刷新/構築することで、ブランドの想起/認識が容易になる。
•説得力のある情報が1つでもあれば、本来の達成目標を邪魔しない限り、伝達すること。
以上です。
引き続き勉強を続けていきます。