ジェンダー多様性を阻む、職場のバイアス
私はHRとして、「組織をどうしたらより良くしていけるだろうか?」と日々考えながら、試行錯誤しています。
中でも大きな壁となり悩みが尽きないのが「ダイバーシティ&インクルージョン」。
もっとも身近な多様性のひとつである「ジェンダー」。
日本のジェンダーギャップ指数が121位という位置が示す通り、世の中的にも満足いく状態にはまだありません。
日本社会の中において何度も必要性が説かれ、取り組んできたであろう壁。
しかし、いまだに大きな壁として多くの組織内に横たわっています。大企業においては何年も掛けて頭の良い方々が集まり、時にコンサルに委託して、対策を考えてきています。しかし仕組みはあれど、進展しない。
そこには、仕組みを「活用できない」メンタリティのようなものが密かに、根深く、広がっているように感じています。
それは何か。
無意識にコミュニケーションの中に発生しているバイアスの存在。それが本質的なブレーキになっているんじゃないかと思っています。
フワフワして掴みどころがない無意識に発生するコミュニケーション上の悪い癖。
ジェンダー多様化を推進しようとすると、職場で発生するなーと思うものをリストにしてみました。思いつくままに書いているので、実際もっとあるとは思ってます。
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1.マンスプレイニング
語源としては男性のmanと、説明するのexplainを掛け合わせた言葉のようです。男性が女性に対して話をするときに、見下したような態度で接したり、自分を大きくみせるために態度がでかかったり、教師や保護者ぶったりするような言動です。
聞いてもいないのに教えようとしたり、その中で自分が優秀であるアピールを頻繁に織り込んでいったり、自分本位に考えて、相手の女性がどのように感じるか考えません。
職場においてはジェンダーの組み合わせに加えて、年齢差によって出現頻度が高まるケースがありそうです。
「教えてやる」「教えてやらねばならない」そういった態度から生じていく。
受け手側からすると、「なんでこんなにマウントをとられなければいけないんだろう?」という感じですし、重なれば重なるほど自己効力感、自己肯定感も棄損しかねません。
決して相手の可能性や、モチベーションを引き出すようなコミュニケーションにはなりません。
2.被害者非難(公正世界仮説)
何かできごとがあった時に、被害者にあたる側がなぜか非難されてしまう現象です。
社内で言えば、分かりやすいのはハラスメントが起こった時に、された側も非難する言動が発生する時など。
喧嘩両成敗と、都合よく混同されているような印象もあります。原因帰属に認知バイアスがかかるから発生すると言われています。(自分に甘く、人に厳しい。)
ジェンダーのバイアスと掛け合わせになると、非常に悪い意味でパワフルな作用が発生します。
例えばマンスプレイニング×被害者非難など。マンスプレイニングを感じさせるコミュニケーションの発生⇒耐えて耐えて、我慢しきれずに抗議⇒あいつは感情的だというレッテル貼り。みたいなやつです。
コトを見ずに、人を見る意識が強いと発生しがちな気がします。
ドライな組織よりもウェットな組織は要注意だと思っています。
3.Whataboutism
そっちこそどうなんだ主義と呼ばれているものです。批判されたときに、そっちこそどうなんだ!?と返して論点をズラしていく論法です。
社内で言えば、できてないことを指摘したときに、別の論点に置き換えて返す。「ジェンダーの多様性に偏りがあるよね」と言ったときに、「国籍もあるよね」「年齢もあるよね」「そもそも~」などの反応を返すイメージです。
ただ、職場で提言する時は、そんなことはある程度分かっているわけです。
その上で論点を絞ってのぞんでいるので、こうした反応は議論を停滞させる反応以外のなにものでもありません。
一方で、そうした反応をする方々もわざと議論を停滞させたい意識があるわけではありません。議論の軸をつくる、見方を変える。そんな風に考えて言っている場合もありそうです。
しかし結果的には話が拡散し、霧散する。そして声をあげた方は肩を落とすことになります。
4.バイアスの盲点
自分だけは大丈夫。というやつです。
他人の欠点に気づけても自分に気づけないことはよくあって、「人は自分のことに無自覚ということに無自覚」というのは真理だなと感じています。
真理だなと言うとお気楽なのですが、このバイアスの盲点に捉われているのが組織のキーマン(トップ)だと非常に話の難易度が上がります。
「ダイバーシティ大事だよね、偏見を持って接しちゃだめだよ、俺はできているけどね」と言っている本人に、周囲が気付かせることの困難さたるや・・・。
そうならないためにも、そういう立場に自分がいるのであれば内省する習慣を身につけなければならないな、と思います。
5.トーンポリシング
ジェンダーの多様化を進めようと誰かが声を上げたときに、問題の本質とは違うところに論点をずらしていくものです。
最近で言えば、差別の問題に声をあげた人に対して、「その言い方は無いよね」「もっと言い方を考えないと伝わらないよ」などと重ねていく。
話の内容ではなく、付随する感情やふるまいを批判して、力を削いでいきます。
職場で考えると、多くの場合は「力を削ごうとしてやっているわけではない」ということです。良かれと思ってやっている。指摘やアドバイスの類だと思っている。あるいは中立的な立場を装う。
声をあげた人からすれば、問題の本質が理解されない。解決に向かって進む気配がない。言っても無駄。そういう気持ちになって声を潜めてしまいます。
6.ジェンダーステレオタイプ
これはもうそのまんまなんですが・・・。男女の役割についての固定的なイメージ、考え、前提です。
サポート業務は女性にさせる。女性〇〇という言葉(=男性が普通であるという前提)。女性らしさの押しつけ。女性のキャリアの押しつけ。
ひとつひとつ上げて言ったらキリがありません。自身の中のステレオタイプに気が付かないと、無意識のうちに言動に表れてしまいます。
7.促進焦点と予防焦点
個人的に結構インパクトがあった話です。ジェンダーによって質問する種類が変わるという調査結果があります。
そもそも主体者が男性か女性かで質問が変わり、女性の方が予防焦点(リスク管理がベース)でみられてしまう。その結果のアクションも変わってくる(提案が受け入れられない)。
自分がどう「問い」を投げかけているか。自覚的にならないと、知らないうちにジェンダーギャップを自らが生み出しているかもしれない。
そんな恐れを抱きました。
8.ガスライティング
バイアスとはちょっと違いますが、これは長期間の誤った情報や印象操作を通じて、対象を追い込んでいくことです。集団でおこなわれることもありますし、1対1の関係性の中であっても発生します。
職場で集団で行われるようなものは要は「いじめ」です。
1対1なら「モラハラ」です。
声をあげようとしたときに、それが都合が悪いことであると、印象操作を通じて「自分が悪いのかな、ダメなのかな」とつぶしてしまう。
職場で日常的にあったら嫌ですし、ダメなやつです。
ただマイノリティ側がアンフェアな状況の是正に動こうとすると、それを都合悪く感じる層は絶対に発生します。
それは…マジョリティ側で既得権益を脅かされる人なんかですね。
いきなり組織で「女性管理職を増やそう!」とやってしまうと既存の男性課長や、これから上がろうとする男性側マジョリティにとっては都合が悪いこともあるわけです。なのでブレーキを踏む力学が発生することを理解しておかなければなりません。
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いったん、このあたりで。
これだけあるバイアス(無意識のコミュニケーション)を是正していくためには、もはや本人の意識だけではどうにもならない。
一方で仕組みではあるものの過去の議論であるような「働きやすさ」「ライフイベントとの兼ね合い」のような側面での仕組みではない。
「風土」としての仕組みこそが、これから求められていくのだと考えています。