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小説コレクション

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noteで出会った素敵な小説たち。
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#ショートショート

小説『かみさま』

小説『かみさま』

あの人はまるでかみさまのような存在でしたと例えたなら、あなた方は揃いも揃って私のことを気味が悪いと嗤うでしょうか。

思えば恋というものは、その想いが自身の中で高まり、昂ぶり、到底私の手の届かないお方であると気づかされたとき、宗教のそれとよく似た気持ちに寄っていくものと私は思うのです。

高尚なこの想いを汚されたくない誰にも見せたくない、そのような感情をひとまとめにしたような心持ちになったことはあ

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ショートショート「真夏の夜の匂いがした」

あの日、彼女から花火大会に誘われた夜、最寄駅から自宅まで歩いているとき、はっきりと真夏の夜の匂いを感じた。
懐かしいなにかの匂いに似ているけれどそれがなにか思い出せなかった。

いま、開けた窓からは同じく真夏の夜の匂いがする。そしてさっきまで抱いていた彼女の首筋からは甘酸っぱい汗の匂いがする。同じシャンプーで洗ったから髪の毛は俺と同じ匂いがする。赤の椿。

「二宮さん、ほんとは彼氏いるんでしょ?

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ショートショート「ナイトフィッシング ソー グッド」

ショートショート「ナイトフィッシング ソー グッド」

開始のあのとき、あなたの手がわたしの服にするすると入ってきて片方の指でブラホックとぱちんと瞬時に外されると、あ、やばいハズレ引いてしまったと非常に残念な気持ちになる。

モテなさそうに見える割りに意外とモテてきたんだね。これまでどれだけの女を抱いてきたんだろう、どれだけの体位を知っているんだろうどれだけの人間を泣かせてきたんだろうと頭の中で勝手にかつての恋愛遍歴を妄想して、そしてちょっと萎える。

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小説『夏色』

小説『夏色』

放課後、自転車の後ろに親友の夏音(かのん)を乗せて、くっちゃべる目的でイオンのフードコートを目指してペダルを漕いで行く。
セーラー服からちらりと見えたヘソも気にせず、私は精一杯に前を向いて自転車を漕いで行く。

空には入道雲がもくもくと姿を現し、ザ・日本の夏という感じ。ここ板橋区は果てしなく埼玉に近い場所に位置し、夏場は都内でも気温が高く上がる。通学に利用している東武東上線はえげつない人身事故率

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帰ってきた支配者【ショートショート】【#16】

「おい!聞いたか!?」

バタンと大きな音を立てながらドアが開き、勢いよく酒場に男が入ってきた。ジェフリーだ。何があったか知らないが、やたらと慌てていることは間違いないようだ。

「落ち着けよ。何があった?てめえの女房が浮気でもしちまったのか?」

ひねた笑いを浮かべながら俺は聞き返した。まだまだ寒さの続く二月の始め。寒空の下、どこへ行くでもなく、酒場に集まるのが真っ当な男というものだ。

「バカ

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僕は力をためている。

僕は力をためている。

僕は力をためている。ここぞというときに本気の本気の「スキ」を押すために、じっとじっと力をためている。

流れてくる大量のnoteの文章を日々あれこれと読み漁る。多分一日1000近くは読んでいるだろう。

でもまだだ、まだ来ない。僕が本気の本気の「スキ」を押そうという気持ちになるほどの爆発的に心動かされる投稿がまだ来ない。

だからじっと根気よくいざというときのために「スキ」を瞬間発射できるように力

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つながる関係。つながらない関係。【ショートショート】【#7】

つながる関係。つながらない関係。【ショートショート】【#7】

私はあなたのために生きている。

あなたは私がいないと生きていけない。

いわゆる「共依存」。そんな関係性だとずっと信じてきた。世の中の人がなんと言おうと私もあなたも気にしてなどいなかった。そこには確かなつながりがあったし、それをお互いにわかっていたのだから。

最初は何の感情もない決められた出会いから始まった。

でも家同士が決めたことでも、それを大事に思うようになることは良くある。あなたとの関

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【掌編小説】ディア シスタ

【掌編小説】ディア シスタ

お姉ちゃんばっかりずるい。

幼少期のわたしの口癖だった。
お姉ちゃんばっかり褒められてずるい、お姉ちゃんばっかり新しい服買ってもらえてずるい、お姉ちゃんばっかり可愛がられてずるい。

姉はわたしのすべてを上回る存在だった。顔も、偏差値も、運動神経も、むかしはおっぱいだってお姉ちゃんのが大きかった。
家に連れてくる彼氏もガタイが良くて顔もいい男だった。趣味フットサルとか言ってたな。
わたし

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【掌編小説】妊娠16週目、妻

【掌編小説】妊娠16週目、妻

俺の妻が今日で妊娠16週目を迎えた。
最近の妻は以前のように猫やら大仏やらに変身することはない。ほんとあれ迷惑だったから、やめてもらってありがたいことだ。

なんたって、彼女自身の腹のなかで突然変異が起こっているのだし。入れ子構造的にミューテーションを起こされても困る。

妻は俺の隣ですうすう寝息を立てて寝ている。
さっきまで身体の触り合いっこしていたらなんだかそういう雰囲気になって、あれよあ

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