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ショートショート「真夏の夜の匂いがした」
あの日、彼女から花火大会に誘われた夜、最寄駅から自宅まで歩いているとき、はっきりと真夏の夜の匂いを感じた。
懐かしいなにかの匂いに似ているけれどそれがなにか思い出せなかった。
いま、開けた窓からは同じく真夏の夜の匂いがする。そしてさっきまで抱いていた彼女の首筋からは甘酸っぱい汗の匂いがする。同じシャンプーで洗ったから髪の毛は俺と同じ匂いがする。赤の椿。
「二宮さん、ほんとは彼氏いるんでしょ?
[小説]タピオカミルクティーを千年売る女
ついに始まったハヤカワ文庫の百合SFフェア。発売初日から百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』がカート落ちを起こすなど、おかげさまで大盛況となっています。そんななか、フェア新刊『ウタカイ 異能短歌遊戯』の著者・森田季節さんから担当編集者のもとに突然送られてきた、タピオカミルクティー百合を公開いたします。
『ウタカイ 異能短歌遊戯』
-----以下本文-----
「氷抜き、タピオカ増量で
ぺちこさん×郁美ちゃん
タイトル:『彼は母の手のひらのなかに』
「彼(か)の歩幅 30センチにも満たぬ 母に引かれて 歩め歩めよ」
久しぶりに再会した郁美は、大学時代に比べてずっと凛とした表情をしていた。
「母になる」とこんなにも風貌から芯の強さがにじみ出るのかと感心する。私の親友、宮谷(みやたに)郁美は大学在学中に妊娠をし、現在は一旦休学をして育児に専念している。
在学時代、それほど郁美との仲は近しいものでは
帰ってきた支配者【ショートショート】【#16】
「おい!聞いたか!?」
バタンと大きな音を立てながらドアが開き、勢いよく酒場に男が入ってきた。ジェフリーだ。何があったか知らないが、やたらと慌てていることは間違いないようだ。
「落ち着けよ。何があった?てめえの女房が浮気でもしちまったのか?」
ひねた笑いを浮かべながら俺は聞き返した。まだまだ寒さの続く二月の始め。寒空の下、どこへ行くでもなく、酒場に集まるのが真っ当な男というものだ。
「バカ