マガジンのカバー画像

短編小説から見る社会

93
菅原ゼミで読んだ短編小説の書評を順次掲載していきます。書評は全てゼミ生が書いています。授業期間中の毎週末ごろ更新です。  ※ネタバレありですので気になる方はお気をつけください。
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

村田沙耶香「街を食べる」書評(3)(評者:成山美優)

村田沙耶香「街を食べる」書評(3)(評者:成山美優)

村田沙耶香「街を食べる」書評(『現代小説クロニクル 2010~2014』収録)

評者:成山美優

 「普通」という言葉の意味を説明することができるだろうか。辞書を引いてみると、「当たり前であること」や「珍しくないこと」などと書かれていたが、当たり前であることは何を根拠に判断するのだろうかと不思議に思う。本作は、ある一人の女性の生活、またそれに伴う思考の変化を描いている作品である。
 埼玉の実

もっとみる
村田沙耶香「街を食べる」書評(2)(評者:江藤優多)

村田沙耶香「街を食べる」書評(2)(評者:江藤優多)

村田沙耶香「街を食べる」書評(『現代小説クロニクル 2010~2014』収録)

評者:江藤 優多

 この作品を読んで、最初に強く感じさせられたのは「先入観」の有無がもたらす影響の強さだ。体が拒否しながら何かするときに、自然とその物事を体がすんなりと受け入れるなんて稀だろう。寧ろ、無理にやってしまえば、何か異常が起こるのは最早不自然なことではない。逆に心が確実に受け入れる準備をできていればそん

もっとみる
村田沙耶香「街を食べる」書評(1)(評者:池田萌乃)

村田沙耶香「街を食べる」書評(1)(評者:池田萌乃)

 今週の4回生ゼミでは、村田沙耶香の怪作「街を食べる」を読みました。子供の頃にツツジの蜜を吸ったり、山菜やよもぎを取ってきたり…といった受講生たちの思い出話にも花が咲き、楽しい読書会となりました。

村田沙耶香「街を食べる」書評(『現代小説クロニクル 2010~2014』収録)

評者:池田萌乃

 貴方は身の回りに生える植物を自分で収穫し、食したことがあるだろうか。私はYESだ。というのも小学生

もっとみる
大島弓子「四月怪談」書評(2)(評者:吉岡渚)

大島弓子「四月怪談」書評(2)(評者:吉岡渚)

大島弓子「四月怪談」(白泉社文庫『四月怪談』収録)

評者:吉岡渚

  四という数字は日本では死と同じ発音をする為に忌諱されている。怪談ともあればそれをいっそう掻き立てる。四谷怪談という一字違いが存在するせいかもしれない。けれども、一字異なれば意味も大きく異なる。日本での四月は入学式や入社式と新年度が始まる、始まりや出会いの季節と呼ばれる。この物語も、怪談とついているが四月のタイトルの通り出会

もっとみる
大島弓子「四月怪談」書評(1)(評者:古賀芽生)

大島弓子「四月怪談」書評(1)(評者:古賀芽生)

今週の3回生ゼミでは、初の試みとしてマンガ作品を取り上げてみました。扱ったマンガは、大島弓子の往年の名作「四月怪談」です。

大島弓子「四月怪談」(白泉社文庫『四月怪談』収録)

評者:古賀芽生

 自分の取り柄は何かと問われた時、すぐに答えられる人はどれほど存在するだろうか。おそらく大抵の人は即答できずに考え込んでしまう。だが重要なのは取り得の有無ではなく、今の自分で幸せだと言えるかどうかでは

もっとみる
安岡章太郎「悪い仲間」書評(2)(評者:高瀬晴基)

安岡章太郎「悪い仲間」書評(2)(評者:高瀬晴基)

安岡章太郎「悪い仲間」書評(『群像短篇名作選 1946〜1969』収録)

評者:高瀬晴基

 素行不良、血行不良、天候不良、不良債権など「不良」という言葉は概して悪いもの、ロクでもないものを表すときに使われる。世の中ではあらゆる物事が区別され、不良であると判断されたものは排されていく。
 この区分けというのは人間においても適応され、我々は人生のカリキュラムの中で人間としての優劣を弥が上にも

もっとみる
安岡章太郎「悪い仲間」書評(1)(評者:柴田美朝)

安岡章太郎「悪い仲間」書評(1)(評者:柴田美朝)

先週の4回生ゼミでは安岡章太郎の「悪い仲間」を読みました。70年近く前の作品ですが、現代の若者にも通ずるものを感じ取った受講生が多かったようです。

安岡章太郎「悪い仲間」書評(『群像短篇名作選 1946〜1969』収録)

評者:柴田美朝

魅力

 魅力を感じること、感じる部分は人それぞれである。しかし、基本的には自分にないものを魅力的だと感じるのではないだろうか。また、感性豊かな若者は様々

もっとみる
アーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」書評(2)(評者:森本和圭子)

アーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」書評(2)(評者:森本和圭子)

アーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」(『風の十二方位』収録)

評者:森本和圭子

 この作品の舞台は「オメラス」という架空の世界である。美しい街並みに、穏やかな気候、明るく、しかし単純ではない人々、またそこに身分の上下はなく、芸術や学問も高みに達しているとされる。かと言って、いわゆる反テクノロジー的な、あるいは禁欲的な世界というわけでもない。オメラスは心やましさのない、読者の

もっとみる
アーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」書評(1)(評者:平山大晟)

アーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」書評(1)(評者:平山大晟)

先々週の4回生ゼミではアーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」を読みました。倫理や人間の幸福のありかたについて活発なディスカッションができました。

アーシュラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」(『風の十二方位』収録)

評者:平山大晟

 暴走したトロッコの線路上に5人の作業員がいる。このまま放っておけば5人全員が死んでしまうが、自分が分岐器を起動し、別の線路にトロッコ

もっとみる
津島佑子「ジャッカ・ドフニ—夏の家」書評(2) (評者:野崎実生)

津島佑子「ジャッカ・ドフニ—夏の家」書評(2) (評者:野崎実生)

「ジャッカ・ドフニー夏の家」書評の二人目は野崎実生さんです。

「ジャッカ・ドフニ―夏の家」書評(『現代小説クロニクル 1985~1989』収録)

評者:野崎実生

 大きなショックを受けた者は孤独にならなければ苦しみを乗り越えることはできないのだろうか。
 主人公は子育てが落ち着いてきたタイミングで一人で暮らす老いた母のことが気になりだす。また、息子がいろいろな生き物を飼うために庭を欲しが

もっとみる
津島佑子「ジャッカ・ドフニ—夏の家」書評(1) (評者:山下綾花)

津島佑子「ジャッカ・ドフニ—夏の家」書評(1) (評者:山下綾花)

久しぶりの更新になります。3週分まとめての更新になります。まずは先々週の3回生ゼミ、津島佑子の短篇を読みました。

「ジャッカ・ドフニ―夏の家」書評(『現代小説クロニクル 1985~1989』収録)

評者:山下綾花

 近しい人との別れは、人生で最も悲しいことだ。人は皆いつか死ぬと分かっていても、いざその絶望に直面したときすんなりと受け入れることは容易ではない。同じ「死」でも関係性によって感じ

もっとみる