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【ホラー感想】潰える 最恐の書き下ろしアンソロジー

ここのところアニメに便乗して開始した米澤穂信の読み込みをずっとやっていたうえ、書くにつれて話がガバガバ広がるため疲弊しました。
ということで、ちょっと軽いもので一休み。

…と思って書いていたらいつのまにか1万字を軽くオーバーしてました。
たまには短いもの書けねーのかコイツ。


角川ホラー文庫の30周年記念企画として、「最恐のホラーアンソロジー」というシリーズが登場しています。noteにも紹介記事がありますね。

ところで第1弾と第2弾が8月に同時刊行されたのに、何故か第3弾だけ12月刊行予定なのが謎。
ひょっとして誰かの原稿が盛大に遅れ倒してるんでしょうか。怖いですね。

ちなみに30周年記念としてはこのアンソロジーのほか、恐怖!作家手形TシャツというダサTも販売されています。
街のド真ん中で奇異の目を集めたい人のマストアイテム。怖いですね。

なお同じアパレルグッズには何気に「猟奇! 『人獣細工』パーカー」というブツもあり、小林泰三もアンソロジーに参加していればなあと思ってしまうところではあります。
私はヤスミングッズなら「ΑΩ」変身パジャマがほしい(o!o )

とまあそれはともかく、今回のアンソロジー企画は30周年ということもあってなかなか気合が入っています。
参加メンバーを見てみると、

  • 第1弾「堕ちる」:宮部みゆき、新名智、芦花公園、内藤了、三津田信三、小池真理子

  • 第2弾「潰える」:澤村伊智、阿泉来堂、鈴木光司、原浩、一穂ミチ、小野不由美

  • 12月刊の第3弾「慄く」:有栖川有栖、北沢陶、背筋、櫛木理宇、貴志祐介、恩田陸

とベテランから最近デビューの新鋭まで揃えたラインナップ。
どの巻もベテラン・中堅・新鋭を満遍なく揃えてる感じですね。第3弾の原稿が遅れているのは誰なんでしょうか

ビッグネームを無闇に揃えたというわけでなく、またホラー専門ではない作家がちらほら居るあたりも良さげです。
小池真理子や有栖川有栖なんて、ホラーを書くのはかなり久しぶりなんじゃないでしょうか。
各巻の顔ぶれを見るかぎりでは、怪談もの・モダンホラー・ホラーミステリ・サイコスリラー等がうまく混在するようにメンバー調整されている感も見え隠れしているのが面白い。

でその中から今回試しに読んでみたのが第2弾「潰える」

ところでタイトル「潰える」の意味が全くわからないのですが、先述の紹介記事にこんな企画の説明が。

今回ご執筆いただいた各著者の方の作品にはテーマや縛りはなく、ただただ「こわい物語をください」とご依頼しました。

何の意味も無かった。

とはいえ、こういうアンソロジーではタイトルに意味がないなんていつものことです。全部何かが何かに潰される話だったりしてもリアクションに困るし、まあええか。

というわけでそろそろ中身の感想に移ります。
読む前から楽しみにしていたのは最初の澤村伊智と最後の小野不由美、他には何か面白いのがあればお得、くらいの感覚で読みました。

なのですが、個人的ベスト3はこちら。
原浩「828の1」一穂ミチ「にえたかどうだか」 、澤村伊智「ココノエ南新町の真実」


ネタバレなし感想

ココノエ南新町店の真実 / 澤村伊智

【あらすじ】かつてある事件で知られることとなったスーパー・ココノエ南新町店。ライター・依田は、現在は繁盛を見せているこの店にWebマガジンの記事の取材をするべく赴く。平穏を取り戻したかのように見える店内だが、取材するうちに奇妙な出来事が……

いきなり読者を混乱に突き落とす傑作から開幕です。
角川編集部としては手堅く比嘉姉妹シリーズの短篇でも欲しかったんじゃないのかな〜〜〜〜〜?と思いますし、澤村氏自身も多分そう思ってたんじゃないかと推測してしまうのですが、そこにこれを放ってくるのが素晴らしい。常に目先を変えてきた澤村伊智らしいじゃないですか。
だってお題やテーマ縛りは無しですもんね。これを悪用しない手はないですもんねぇ。

本作は[見出し][クレジット]……と、フリーライターの書いたWebマガジン用原稿という形で書かれています。
フリーライターの主人公というと澤村氏の作品では定番ですが、原稿という形式は珍しい。
というと一見、昨今のモキュメンタリー/フェイクドキュメンタリー人気に澤村氏も便乗か、というところですが読んでいくとそう単純な作品ではないのがわかってきます。

語り手を含めてちょっとアレな人たちを含めた人々がシュールな味わいを楽しませてくれますが、後半に至ってそれが暗転。
どう捉えればいいのかわからないまま終盤に突入し、その混乱がピークに達したところで、読者を突き放すかのようにある顛末が投げつけられます。

こうした突き放しっぷりには澤村伊智の短篇らしさの一方で、フェイクドキュメンタリーという形式をとった理由が垣間見える気がします。
終盤なんてもはやギャグすれすれなのですが、それも本作の裏に潜むある種の問題意識も表したもの……かもしれない。
それについては後のネタバレ感想で。

澤村氏らしいヘンなホラーであり、ミステリの手法も駆使され、そしてひょっとしたらある種の社会派……かもしれないテーマ性も持った作品。
アンソロジーの開幕から読者を困惑させる意地の悪さを含めて、さすがの作品でした。


ニンゲン柱 / 阿泉来堂

【あらすじ】うだつの上がらないミステリ作家〈私〉は、父親の勧めで母親の故郷・根句尼村に祀られる「ミハシラ様」を題材にすることに。村へ向かった〈私〉は村人達の笑顔に出迎えられる中、ホラー作家・那々木悠志郎と出会う。那々木の話ではこの村に「怪異」を探しに来たとのことで……

この作家は初見でした。

「ミハシラ様」というどこかで聞いたようなネーミング、いかにも胡散臭い村の様子から、ベッタベタな因習邪教村のお話になりそうではあるものの、むしろ露骨すぎて話がどう転ぶかがわからなくなります。

しかし感想としてはちょっと微妙。というか私が読み方を間違えたのだと思います。
ラストも取って付けたようでなんとも言いようがない感じ。うーん。


魂の飛翔 / 鈴木光司

【あらすじ】見た者を死に至らしめる「呪いのビデオ」が日本に蔓延し、便乗した偽ビデオを流布する者まで現れる状況となっていた。超能力の研究者・伊熊平八郎をルーツとするある教団は「呪いのビデオ」を入手し、その「呪い」を科学的に解き明かそうとする……
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「リング」執筆後、続篇の構想を依頼された鈴木光司はそうしたプロットを構想した。しかし編集部にプロットを提出後、ある人物から全く同じ内容を記した手紙が届いたことでこのプロットは没となっていた。35周年記念企画として鈴木はそのプロットを改めて小説化することにしたが……

あれ?本書エッセイもアリなの?という「リング」執筆秘話から開幕。本当にエッセイで終わりならがっかりですが、もちろんそんなわけはなく一安心。

エッセイ風に開幕する本作、「リング」執筆後の逸話を交えたメタフィクションとして展開します。
ストーリーとは関係ないところですが鈴木氏が「リング」について語っている点は注目で、個人的には

もとより、ホラーを書いたつもりはなく、論理的なミステリーを書いたと自負していた

鈴木光司「魂の飛翔」1章

というのが作者の言葉として確認できたのが嬉しいところ。みなさんもホラーミステリとして「リング」を読んでみましょうね。

それはともかく、本作の「没プロット」部分が本当に当時書かれたプロットなのかは判然としません。
本文中の内容から見ると「らせん」よりも……というか「リング」よりももっとオカルトものに近い話です。

オカルトの科学的解明、カルト教団の登場などの要素と時代的背景を考えると、たしかに1990年代前半〜中盤に考えられたアイデアという気はします。それゆえこの後はトンデモ系の展開になりそうなのが不安というか……。

ただ、「ニセ呪いのビデオ」が出回っているというあたりはちょっと現代寄りの話な気もしますね。釣り動画って昔からあったんでしょうか。

「没プロット」部分はあくまで長篇の導入部ということもあってか、全体としてホラー味は薄く、メタフィクション形式のためにどちらかというと作家小説の風味が漂います。
その外枠部分に漂う、そこはかとないユーモアの味も楽しい作品です。
この点、単なるリングシリーズ番外篇等にせずに別方面に切り込んでいて好印象。

ですがホラー味は薄いとはいえ、ホラーものでこんな書き方をされるとやはりあの作家を思い出してしまうわけで。
この皮肉というか痛々しい結末含めて、私の率直な感想が「自分の扱い、三津田信三みたい……」。
鈴木氏がこうして自分を登場させるのは初めて見たので、三津田氏を意識した部分もあったのかもしれません。

というわけで作中に堂々登場の鈴木氏ですが、どんなキャラかというとこんなセリフが。

「事前にプロットを用意するのは、おれの流儀ではない。ドライブ感覚がなくなるからね。すぐに本編の執筆に入る。そのほうがよくはねえか?」

鈴木光司「魂の飛翔」1章

これがいかにも鈴木光司の小説の登場人物が言いそうすぎて面白すぎます。
そのほうがよくはねえか?」ってセリフ、もう高山竜司じゃないですか。


828の1 / 原浩

【あらすじ】老人ホームに暮らす母親が時折漏らす「はち、にぃ、はちのいち」という謎の言葉。仲の良い入居者が急死直前にこの言葉を口にしていたと聞き、興味を覚えた〈私〉は、ある時母親の故郷に立ち寄り、その言葉の正体を知ることになるが……

これは傑作。

タイトルにもある謎の数字が冒頭から早速登場し、物語はある種の暗号ミステリふうとも言える展開を見せていきます。
ホラー的には、脈絡なくでてくるこの「828の1」が日常的光景の中にスルリと入り込んでくる何気ない不気味さがまずいいのですが、本作が優れているのはそれだけではありません。

この「828の1」は単に不気味な文句というわけではなく、雰囲気づくりというわけではなく、作品の巧みな構成の絶妙な1ピースとなっているのです。
期待せずに読んだこともありますが、読者の意識の誘導の仕方などにかなりの技巧を凝らした作品でした。

これ以上語るにはネタバレせざるを得ないので、そちらはネタバレ感想のほうで。

あと、クライマックスは別の意味で面白すぎです。
というわけでこれが本書中ではベスト。


にえたかどうだか / 一穂ミチ

【あらすじ】時折聞こえる「声」に悩まされる北島那未は、夫と娘と共に新居に越してきたばかり。
しかし新居でも、マンション内に響くヒールの音、自殺者の出た部屋に越してきた不審な女・梅ヶ枝茉莉との遭遇といった出来事に見舞われ続ける。マンション住人とも馴染むことができない那未は、ある時出会った親子ーー瀬川容子とその娘・文香と意気投合し交流を始めるが……。

この作家も初見。名前しか知りませんでした。
しかしこれも本書中では頭ひとつ抜けた傑作です。

主人公の語り、とくに心理描写が細やかで余裕がある(でも主人公自身は余裕ゼロ)というか、あまりホラー作家っぽくない筆致が目を引いたのですが、実際ホラー作家ではなく、また元々はBL小説の作家と知ってある意味納得。

謎の声が聞こえる主人公は霊能力者なのか、それとも精神的に不安定な「信頼できない語り手」なのか、物語はそこを曖昧にしたままニューロイックな心理描写を交えて進行します。

タイトルにある「にえたかどうだか」は子供の遊びのフレーズで、これを要所で思わせぶりに登場させて行くことで作品は次第に緊迫感を高めて行きます。
この古い時代の匂いを感じさせるフレーズが頻出する一方、お話は「陰キャ」の主人公により現代の言葉・物事を多用して、現代の日常の中の物語として語られていきます。
これはまさにスティーヴン・キングに代表されるモダンホラーの王道的手法で、次第に日常が侵食され緊迫感が高まっていく流れが素晴らしい。

そして本作の最大の見所は終盤でして、あるシーンを転機に物語は意表をついた形に一気に展開します。
少し説明的なセリフが多い感も無いではないですが、これはこの展開を納得させるために必要なものでしょう。
結末もここまで描いてきたテーマを活かしており見事なもの。

本作、非ホラー作家が書いたとは思えない巧みなホラーでありつつ、ホラー作家にはなかなか書けないような作品になっている印象があります。
アンソロジーの中でも独自の光を放つ作品でした。改めて傑作。


風来たりて / 小野不由美

【あらすじ】新居の建て売り住宅に越してきたばかりの梓沙は、夜になると聞こえる唸るような声に悩まされていた。裏の家に住む老女・和子の読経ではないかと疑う梓沙たちだったが、和子にはその覚えがなく
造成地を開発した土地にある問題があるのではないかという噂が広まるなか、事件が続発し……

ラストはベテラン小野不由美。
昨今のフェイクドキュメンタリー人気的には「『残穢』の人」ですが、本来の作風はそれとは別、ということで今作は普通の小説です。

とはいえ、家で変な声が聞こえてくるというあたりは「残穢」っぽい導入。
登場する住民たちが割と多いため最初は混乱しますが、短い分量の中でもきっちり書き分けられているのにベテランの力量を感じます。

そして後半に向けての怪奇描写のエスカレートっぷりは序盤からすると凄まじく、ご近所大騒ぎのカタストロフに緊迫感が高まっていきます。

ラストは存外あっさりした終わり方でちょっと拍子抜けではありますが、読後感はさっぱりした感じ、アンソロジーのトリを飾る作品としては最適と言えるのではないでしょうか。




!以下はネタバレ感想になります!
作品の詳細部分に触れるため、未読の方はお気をつけください。




ネタバレ感想


ココノエ南新町店の真実 / 澤村伊智

まずメタな話を言ってしまうと本作は多分、Qアノンに代表される陰謀論に脳をヤラれてしまう人を皮肉ったものでしょう。
終盤おかしな状態になった依田の言う事は、完全にあっち側の人のそれ。
タイトルの「〜の真実」っていうのも、いかにもなやつですよね。

こんな話だけでもなんなので、本作の中身を「考察」してみましょう。
というのも本作は放り投げたような結末をはじめ、微妙に話が掴めそうで掴めないーーすなわち「考察」を誘うような作りになっています。

結局本文がほぼ依田の記述によることもあり、話の全体像は把握が困難ですが、いくつか手がかりが埋め込まれているようです。

  • 依田・斎藤の死体と出火があったのは二階

    • 窃盗団がポルターガイストを目撃したのが「二階バックヤード奥の事務室」

    • 二階から女が見下ろしていたという証言がある

  • 石橋によると依田の撮影映像からは「子供の合唱が聞こえる」

    • 窃盗団のメンバーも各々違う現象を証言した

  • 依田・斎藤は大動脈解離により死亡した

    • 吉永にも大動脈解離があった

これらからすると、

  • スーパー二階に何らかの怪異等が存在する

  • 二階にいる何かは、関与した人間に大動脈解離を発生させる

  • (大動脈解離の発生により?)各々何かを見る・聞く等の異なった影響が発生

  • 映像等の間接的な方法でも影響がある

  • 金庫を裏返す、火災を発生させる等物理的な作用もあるが、有効なのは二階に限られる可能性あり

このくらいのことが考えられるでしょうか。
最後の点からすると「この原稿を読んだものにも影響が……」ということもほのめかされていると言えそう。

あと、気になるのはラストの新聞記事も[見出し][本文]というフォーマットで記載されており、つまりこれも原稿であるという点でしょうか。
そして誌名は「朝毎新聞」であり、これは窃盗団のポルターガイスト体験をはじめに報じたとされる新聞です。
ちなみに依田の原稿と異なり署名記事ではないため、[クレジット]はありません。

さらに本文を読み返してみると、当初のポルターガイスト報道に続いたとわかるのは週刊誌やタブロイドだけであり、一般の新聞でこの件を報じたのはこの朝毎新聞だけであるのに気付きます。

つまり、当初この話を「拡散」したのは、大手のメディアとしてはこの新聞に他ならないということになる。
もっというと、ポルターガイスト記事とラストの記事、もしかすると同じ記者が書いたものかもしれませんね。

ということは!!
全国紙の「朝毎新聞」は!!!
呪いを広めるために利用されているんですよ!!!!
怨霊クラゲの手によって!!!!!!!!!!!!!


……あ、新たな陰謀論が生まれましたよ。
あくまで想像ですが、ひょっとしたらここまでが作者の思惑通りなんじゃないかとも思うのです。

フェイクドキュメンタリーの読者/視聴者が好む「考察」と陰謀論は、極めて親和性の高いものです。
フィクションについてあれこれ妄想しているだけならいいのですけど、現実についても「考察」し始めると面倒なことになるのはご存知の通り。
誰も知らない隠された「真実」を知った人々は文字通り厄介な存在になります。

その結果起こることが炎上、デマの流布、特定の人物や団体を"悪"と見做しての正義の誹謗中傷、正義の犯罪予告、正義のお問い合わせ爆撃、正義のクソDM、正義のクソマロ、その他、etc、et al……
というとTwitter(X)を使う方などには、Qアノン系以外にも「あー、そういえばあの界隈で……」と思い当たるものもあるかもしれません。
私はここ5年の間、3つの界隈で騒動に巻き込まれました。なんでだよォ!!

私のグチはともかく、本作はあえて「フェイクドキュメンタリーの形式」を取ることで、そうしたことへの問題意識を見せているのではないかと思うのです。

さらに、Webマガジンというメディアを通してアレな内容が拡散されかねない、という点に注目すると、これはまさに大森時生氏のフェイクドキュメンタリー作品に通じる問題意識……なのかもしれませんよ。

Conscious Expansion!!!

しかし単純な電波妄想では終わらず、ラストではついに死体が転がるのですが、注目するべきは火事も一緒に起きていること。
これは文字通りの炎上を示しているのではないでしょうか。と考えるとやはりここにも含みを感じずにはいられないところ。

炎上するときは、良い炎上を心がけましょうね。
Conscious Expansion!!!!!

そろそろ悪い炎上をしそうですね。


それはともかく、一見ノンシリーズに見える本作ですが、何気なくあの傑作ホラーミステリ「予言の島」に登場した宇津木幽子ああかの偉大なる宇津木幽子様の名がお見えになりました、これは余弦の嶋に続く幽子様の物語がまもなく我々の前に到来するというメッセージに違いありませんはいそうですよねありがとうございます!!「千里眼の湖(仮題)」2025年7月刊(仮)(株式会社KADOKAWA)(仮)(仮)(板)(坂)
ああもう涙が出そうですからみなさんもご期待ください!!ね!!!ALSOKもだよォッ!!!!!

やっぱり悪い炎上をしそうですね。


ニンゲン柱 / 阿泉来堂

これはちょっと読み方を間違えてしまいました。
おかしな村の様子や「ニンゲン柱」というネーミングから、その「柱」の実態の推測は容易で、あまりにそのまんま過ぎるのでこれは何か捻りがあるのかと思ったら何もなし。
立入禁止区域には土俗的バケモノが居ると思わせておいて、実は「柱」とは全くの別モノの隠語。本当はもっと現実的にヤバいものが隠してあった……などの(収録作家でいえば澤村伊智がやるような)ツイストを期待してしまったのですが、これは私の好みの問題ですね。
ミステリ的に読んでしまったのが間違いでした。
クライマックスのニンゲン柱大暴れは怪獣映画的で楽しいのですが。

主人公が母親を殺害していたというラストは意外と言えば意外なのですが、それは描写が少なすぎるだけの伏線不足ですし、また村やニンゲン柱との繋がりが希薄なため取って付けたようなものになってしまっています。
語り手が最初から死体隠匿の方法を探していた、あるいは母親の殺害にもニンゲン柱の性質が関わっていた、とかがあれば納得できるのですが。

ところで、語り手が女性であるのはラストまで一応伏せられている(ただ父親との会話シーンですぐわかる)ようですが、これに意図があったのかどうかよくわかりません。
ラストに見える那々木への執着を印象付けたい意図があったのかもしれないですが、それなら尚更隠しておく必要がない気がするのですが……。


魂の飛翔 / 鈴木光司

メタフィクション仕立てとなっている本作、既存作の「リング」自体も小説家志望の超能力者により「遠隔操作」で書かされていた……という30年以上越しの真相はなんだか悲哀を感じて味があります。
「小説は一人では書けない」と言う具合に若干いい話っぽく締めているはものの、チームプレーみたいな言い方をしたところで、鈴木氏の扱いといったらノートPCのキーボードが壊れたから買ってきた外付けキーボードみたいなんですが。
というわけで、こうした自分の悲惨な扱いが三津田信三みたいなのでした。

ところで作中の「没プロット」の内容自体はその仕掛けに必然的に結びついたものではなく、どちらかというと外枠の話の方をそちらに合わせた感じに見えます。
ということは、本当にこういう話を考えていたという可能性も高そうな気もするので……ひょっとして本当に長編として出す予定もあるんでしょうか。

著者紹介欄にも「本作『魂の飛翔』は、新たな『リング』サーガの幕開けとなる」とあるものの、「没プロット」と言っている通り本文中の扱いとしては微妙な気が……。
もしもこの文が鈴木氏の知らないところで長編化が決定していることを示しているとしたらそのほうがよっぽどホラーです。
てかその場合、「サーガ」ってことは長編化どころか続篇も勝手に決定してるじゃないですか。
コワすぎ!角川コワすぎ!!

それはともかく、他に目を引くのが「没プロット」から話が戻るや否や明らかにされるこんな執筆秘話。

同時刊行するホラー・アンソロジーに収録予定であった5人の作家のうちのひとり(京極冬彦)が、急遽降りると言い出して、欠員が出た
(中略)
途中で仕事を放り出してくれた京極冬彦に感謝の念が湧き、思わず「ありがとう」とつぶやいていた

鈴木光司「魂の飛翔」7章

さて、このメタフィクションはどこまでが現実なのでしょうか。
てっきり鈴木氏が最初から短篇を書く予定だったとばかり思い込んでいましたが、これが事実だとすると話が変わってきますね。
早く長編書いてください。

じゃなくて、分からないのはこの京極冬彦という作家の存在です。
私の記憶の中には京極冬彦という名前の作家は存在しないのですが……。
あるいは、京極冬彦というのは作者の配慮による仮名かもしれない。
もしかすると私の知っている作家かもしれないですね。
しかし、京極冬彦に似た名のホラー作家を知っているような気はするのですが、どうしても思い出せません。京極冬彦。
まさか記憶が失われてしまったとでもいうのでしょうか。京極冬彦
ひょっとするとこれは妖怪の仕業かもしれません。怖いですね。


と妖怪に怯えていると、何故か唐突に別のことを思い出しました。
記事の冒頭で紹介したダサT「恐怖!作家手形Tシャツ」なのですが、実はひとつ非常に奇妙な点があります。

商品画像でその恐怖の張り手手形が紹介されているのですが……

カドカワストア商品画像より

……おわかりいただけたでしょうか。
アンソロジー参加作家たちの手形が居並ぶ中、なぜか一つだけ……
Natsuhiko Kyogoku という謎の人物の手形が存在するのです。
これは一体いつ、どうやって紛れ込んだというのか。

ひょっとするとこれは妖怪の仕業かもしれません。怖いですね。


828の1 / 原浩

暗号ミステリ的な導入を見せる本作、しかし「828の1」の謎自体はどうってことのないものです。作中で語り手がクイズにたとえているように、不気味そうな響きに比べてかなりしょーもない真相です。

しかし各種ネットショップでの紹介文はちょっとよろしくなく、

原浩×おぞましき「828の1」という数字の謎

と大ウソ。この数字におぞましさを期待して読んでしまうとガッカリで終わりです。

しかし、この一見おぞましそうだけど真相としてはおぞましくもなんともない文言、というのが本作のミソ。
ここがホラーミステリとしての高い技巧が現れた部分なのです。

それ自体には何の意味もない文言であることで「死神」のメカニズムを明快に示す、さらに奇妙な文言である「828の1」に暗号ミステリ的に意識を誘導することで、不自然に頻出する「おいしいおいしい美濃和堂」への違和感を軽減するミスディレクションを行う。
これらの仕掛けを「828の1」という謎の数字一つによって両立しています。

ミステリ的にはいわゆる「捨てトリック」的なものでして、暗号ミステリ的に視線を誘導してみせて、そこから別のところへスライドしてみせる仕掛けです。
それをシンプルかつ効果的に活用している作品になっているわけです。

また、蟷螂のエピソードで死の匂いを濃厚に見せる一方、実はより重要なアイテムであるビスケットのにサラリと触れておく、というあたりのぬけぬけとした書き方も良い。

しかし問題はラストでして、「おいしいおいしい美濃和堂」ラッシュの猛攻によりゴリ押しでブチ殺すというのは……
それまでの日常に奇妙なものがスルッと入り込んでくる感じのホラー性とは毛色があまりに違い過ぎて、ええと、これは何なんでしょうか。私は爆笑してしまいました。ちょっと「死神」の方向性が豪快に違わないですか。
ここだけ筒井康隆あたりのスラップスティックホラーみたい。
でもおもろいからええか。

もしかするとこの美濃和堂ゴリ押しフィニッシュブローの裏にはゴリ押し広告への皮肉な目線が存在しないかとすら思えてきます。
私も楽天カードマン毛穴の角栓ごっそり広告を執拗に連発されたらたぶん死ぬ。

ともかく、このラストのシュールさも含めてお気に入りの一作です。


にえたかどうだか / 一穂ミチ

文句なしの傑作。

ネタバレなし感想に書いた通り、奇妙な声や音を聞く語り手・那未は本物の霊能力者なのかそれとも「信頼できない語り手」なのかわからない人物として進んでいきます。

本作のポイントは、実は両方であるというところ。
聞こえる「声」はホンモノですが、梅ヶ枝茉莉の存在を忘れていたり「にえたかどうだか」も自身の記憶に由来するものであることなどは「信頼できない語り手」のもの。
2つの要素が同居しているわけです。

で、これが終盤の展開に大きな意味を持っています。
まず、いかにも怪しい梅ヶ枝茉莉より、心の拠り所だった瀬川容子や文香の方が実は……という展開まではありがち。
これ自体は意外ではないですが、本作が面白いのはその後。

ここで「信頼できない語り手」に仕込まれた仕掛けが炸裂し、那未が茉莉は自分の友人であったことを思い出す展開が絶妙で、謎の人物だった茉莉は一瞬にして味方キャラのゴーストハンター役に。
緊迫感が極限に達した状態からこの反転により、物語が一気にゴーストハントの展開になだれ込んで行くのがもう最高。

ここまでの流れで、まさか正面きってのバトルが始まるとまでは思いませんでした。このへんも本作が怪談ではなくモダンホラーであると思わせる部分です。
書き方のタッチや作者がホラー作家でないことから、スーパーナチュラルな要素のないスリラーかと思っていたのですが、ここまでやってくるとは意外で楽しい。

怪異の実態の説明を交えつつ緊迫したバトルが展開し、クライマックスに向けてどんどんボルテージが上がっていく筆致も素晴らしいです。
このあたりのタッチ、古い作品ですがリチャード・マシスンのお化け屋敷+ゴーストハントもの「地獄の家」に似た印象もあります。

そしてなにより、細かな人物描写と明快なテーマをしっかりと結実・昇華させた前向きなハッピーエンドがいい。緊張と弛緩が絶妙で非常に爽やかな結末です。
このあたり、一穂ミチがホラー作家ではないからこそ書けたものではないかという気がするんですよね。ホラー専門の作家を読んでると、こういう幕引きはなかなか見ないよなあ……と思ってしまうわけで。


風来たりて / 小野不由美

小野不由美作品で家周りのトラブル、となると営繕かるかやの出番となります。
なんかこう書くと水道修理屋かシロアリ駆除業者みたいですが、そこはリフォーム業者なので特に間違っていません。

営繕かるかやシリーズの流れは概ね共通していて、

  • 家のトラブルに悩まされる住人

  • 尾端登場

  • 住民にトラブル原因と改善案の説明

  • リフォーム

  • なんということでしょう

というホラー版劇的ビフォーアフター

そうした営繕かるかやシリーズとしては本作の「解決」はいまいちで、同シリーズによく見られる怪異のロジックとその解決策にまつわるミステリ的な面白さ(怪異の本質が何で、どういうリフォームで対応し、何故解決するのか)があまり見られません。
ただもとに戻すだけでOK、というのはシリーズでもたまにあるパターンではあるのですが、やはりここは匠のアイデアを期待してしまいます。

全体としても、切支丹の殉教や古墳の話が風説以上のものでなく、謎の声を聞いている人と聞いてない人がいる点が何の伏線にもなっていないのはちょっと……。

と、ミステリ的なものを期待してしまうとちょっと拍子抜けな印象ですが、このさらりとした読後感はアンソロジーのラストとして相応しい作品でしょう。
「ココノエ南新町店の真実」の置いてけぼりラストで終わりだと目も当てられないですよ。

ところで営繕かるかや・尾端の登場は終盤、いわば解決篇といえる部分なわけでして、そこまで本作はそのシリーズ作品であることが伏せられています。
ホラーでこうしたタイプのシリーズキャラクターが登場するとどうしても安心感が出てしまう部分もありますし、それは納得。
このシリーズの存在を知っていれば予測できるといえばそうですけどね。

しかし各種ネットショップでの紹介文はこれまたちょっと、どころか非常によろしくなくて、

小野不由美×営繕屋・尾端が遭遇する哀しき怪異

これは無闇に安心感を作ってしまうようなネタバレであり、完全にダメ。

おまけに「哀しき怪異」と言えるかも微妙なのはともかく、そもそも尾端は依頼されて対処しにくる業者ですから「遭遇する」というのはおかしいし……とツッコミどころしかありません。

これは作品の問題ではなく編集側の問題ですが、余計なところでモヤモヤしてしまいました。


まとめと蛇足

多彩な作家を揃えたことで、期待通り多彩な作品が楽しめるアンソロジーでした。
しかしなかなか意外だったのが、(おそらく)全作品がスーパーナチュラルな要素をそなえている点。
サイコスリラー系統とか、所謂ヒトコワ系だとかがないのですよね。

最近はフェイクドキュメンタリー作品が人気ですが、例えばその元祖のひとつ「放送禁止」シリーズでは「呪いかと思ったら実は殺人事件でした」なんて話が基本だったように思います。
一方最近の作品では怪異だの呪いだのがフィーチャーされることが多く、これはネットの洒落怖等が取り込まれた影響が大きいと思いますが、スーパーナチュラルな要素が好まれるようになった傾向を示しているとも言えそうなところがあります。
そんなふうに、ホラー全体として、スーパーナチュラルなお話が盛り上がっていると見ていいのかもしれません。
そんな傾向も感じられるところも結構興味深いですね。

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