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短編小説 「ジャガなしカレー」


空がオレンジ色に染まる頃、僕は台所に立った。今日は久しぶりにカレーを作ろう。野菜室を開けて、人参と玉ねぎ、そして冷蔵庫から牛バラ肉を取り出し、まな板の上に並べる。

まずは玉ねぎを大きなくし切り。包丁を入れるたびに、目から溢れる涙はいつものこと。次に人参を乱切りにする。人参は好きじゃないけどカレーだと話は別だ。カレー入った人参は人参じゃない。それはカレーなんだ。次は牛バラ肉は一口大に切り分け、脂の部分が美味しさを引き立ててくれるだろう。そして、牛バラ肉にはしっかり塩コショウ。

鍋に油を熱し、牛バラ肉の表面をこんがり焼いていく。次に玉ねぎを炒め始める。透明感が出てきたら、人参を加える。ジュワッという音とともに、食材たちが踊り始めた。木べらで軽く混ぜながら、思い出がふと頭をよぎる。

子供の頃、母が作ってくれたカレーには必ずジャガイモが入っていた。しかし、そのジャガイモは芯まで火が通っておらず、生のシャキシャキとした食感が口の中に広がった。あの独特の食感が最悪で、いつしかジャガイモ入りのカレーを避けるようになった。

 「今日もジャガなしだ」

炒めた具材に水と白ワインを加え、しばらく煮込む。湯気が立ち上り、部屋中にワインと野菜の香りが漂い始める。いい香りだ。コンソメを入れてスープにしてもいい。だが、今日はカレー。

煮込んでいる間に、窓の外を見る。街灯がひとつ、またひとつと点灯し始め、夜の訪れを告げている。遠くから子供たちの笑い声が聞こえ、日常の穏やかさを感じる。

再び鍋に目を戻し、火を弱めてカレールーを入れる。ルーが溶けていく様子を見ながら、木べらでゆっくりとかき混ぜる。具材とルーが一体となり、深みのある色合いに変わっていく。

ただ、ジャガイモが入っていないせいか、少しシャバシャバとした感じがする。スプーンですくってみると、トロミが足りない。まぁ、いつものこと。

 「うーん、このままでも美味しいけど」

こんな時は水溶き片栗粉を足そう。小さなボウルに片栗粉を入れ、水を少しずつ加えて混ぜる。ダマにならないように丁寧にかき混ぜると、白い液体ができあがった。

それを鍋に少しずつ流し入れながら、木べらでかき混ぜる。すると、カレーが徐々にとろみを帯びてきた。スプーンですくってみると、理想的な濃度になっている。

 「これで完璧だ」

火を止め、白い楕円の皿の左側にご飯を盛り付ける。空いているスペースにカレーをたっぷりと入れる。食欲をそそる一皿が完成した。

テーブルに座り、いただきますと手を合わせる。一口食べると、スパイスの香りと具材の旨味が口いっぱいに広がる。柔らかく煮込まれた人参と牛肉が絶妙だ。

 「やっぱり、ジャガイモなしのカレーが一番だな」

ふと昔のことを思い出す。母のカレーも美味しかったけれど、自分好みに作れる今が嬉しい。

食事を終え、食器を洗いながら窓の外を見ると、星がきらきらと輝いている。今日も一日が終わり、明日への活力が湧いてくる。

 「明日が楽しみだ」





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