カルロ・ロヴェッリ (著), 栗原俊秀 (翻訳)
出版社 河出書房新社
発売日 2022/2/19
単行本 280ページ
目次
内容紹介
本書の「はじめに」が全文記載してある公式サイト リンク
レビュー
あらゆる古代文明が「上」にある「空」と、「下」にある「大地」が、世界を形づくっていると考えていた時代に、大地が虚空に浮かんでいることを見抜いた人物がいた。
本書の主役であるアナクシマンドロスである。
アナクシマンドロスは今から二十六世紀前に、現在のトルコ沿岸に存在した都市国家ミレトスで生を送った人物であり、彼は大地は宙に浮いているという洞察以外にも物理学、地理学、気象学、生物学の先駆けとなる莫大な遺産を私たちへと残していった。
ゆえに著者であるカルロ・ロヴェッリは、アナクシマンドロスこそが、科学的思考の源流に立つ思想家であるとする。
そこで本書は第一のテーマにてまず「アナクシマンドロスの思想」について語り、第二のテーマではそれを基にして「科学的思考の本質」に迫る。そして第三のテーマにおいて主に「神話・宗教と科学の決定的な違い」について論じ、その主張の足場を万全に固めた上で「結論」へと雪崩れ込み、科学的な思考の有用性について力強く宣言しつつ、本書を結ぶ。
※以下に、「はじめに」より抜粋した本書の「流れ」と「理解」を促してくれる「部分的な概要」を記載しておきますゆえ、宜しければご活用ください
物理学者らしく非常に理知的、且つ論理的な話の展開は、多少の「白人文化至上主義」の匂いを漂わせつつも、先頃、丁度「宗教」についての学びを開始した矢先であった私にとっては思わぬ収穫となり、大満足の読書体験となった。
また個人的に最も感銘を受けたアナクシマンドロスの文言のひとつは(特に以下の文章の太字部分)、
というものである。
正直いってこれにはかなりの衝撃を受けた。「彼はもしかすると亡くなった妊婦の解剖に立ち合い、初期の胎児の姿を目撃したことがあったのかもしれない……」とまで想像してしまったし、もしそういった経験なしに上記の考察をしたというのであれば、これはもう天才としか言いようのない洞察力の持ち主であろうと思う。
アナクシマンドロスの残した言葉の数々には、宗教や神話の記述に頻繁に登場する「超自然的な事物の痕跡」は無く、世界の事物は「事物の用語(火、熱、寒さ、空気、土、等)」によって説明されるが、そうした思考が生まれる土壌として、
という状況があったことも、重要であった。
またアナクシマンドロスの凄さは、限られた情報(「自然現象」等)に、「勝手な妄想」を加えて「物語」をぶち上げるような暴挙を行うことを控え、冷静な観察による情報の精査と関連性の構築により、世界全体を描き直し、世界を読み解くための文法を書き換えて空間の構造そのものを変容させ、当時の人々の共有していた(目に映っていた、ないし脳内に存在していた)世界に対し、
と言うに等しい、考えを宣言したことにある。
※これは謂わば当時のほぼ全ての人に喧嘩を売ったようなものであり……、たぶん命懸けの宣言であったに違いない
というわけでここまでが、第4章までのレビューとなっており、本書は第5章よりその面白さを加速度的に増してゆくのであるが、長くなってしまったため、残りの約150頁に関してはレビューを記さずに終えたいと思う。
続きの気になる方がいらっしゃいましたら、是非本書をお手に取っていただきたい。
「科学」「民主主義」好きには、もれなくおすすめの一冊である。