売らない店が売れるという奇妙で納得の最新マーケティング
人は達観すると、必ずといっていいほど幸せとはなにかというところにいきつくように思う。
そして、その結論の多くが、そこには実態がないというような考え方になる気がしている。
この考え方自体を否定するつもりはさらさらないのだが、本当にそのレベルに達している人の意見なのかということには少々引っかかるものがある。
つまり、なにかを成し遂げた人の主張であれば納得できるのだが、大した結果を残してもいないような人が知ったように己の幸せの尺度を披露する場面はどうかと思うわけだ。
それは、ただただ逃げでしかなく、なにも知らないから、経験したことがないから、語れない物事に対しては、最初から疑ってかかり、勝手に悪だと決めつけてしまう傾向を憂いている。
実態がないと言い切るためには、本当にやり切ったのかを自分自身に問うて欲しい。
やり切るということは、しっかりと戦略を立てて、何度も何度も挑戦するということだ。
その手法を現代風にいうのであれば、マーケティングとかブランディングというのだろう。
売らないお店というコンセプト
リアル店舗、つまりお店というのは、売るためにあるという理解が一般的だろう。
店員やスタッフがいて、いらっしゃいませと声をかけてお店に置いてある商品を売るというのが商流の基本だということである。
場合によっては呼び込みをしたり、試行錯誤して店舗内で売ることが目的だということに異論がある人はいないだろう。
ただ、今や売らないお店が売れるというトンチのようなマーケティング、ブランディングに成功している企業が出てきている。
様々な業界で、売らないお店という概念が拡がっているのである。
例えば、女性向けアパレルD2CブランドのSOÉJU(ソージュ)を展開するモデラート、オーダーメードスーツのFABRIC TOKYOといった企業に注目が集まっている。
いずれの企業にも共通しているのが、店舗では試着や採寸を目的としているところである。
リアル店舗で行われていること
上述したモデラートでは、来店客は店員に促されながら次々と洋服を試着していく。
30分の来店時間の中で試したのは6~7着程度と購買意欲の高さがうかがえるにも関わらず、来店客はなにも商品を手に持たずに店を後にした。
なにもこれはその来店客が特別なわけではなく、ほとんどの来店客が同様の行動を取るという。
代官山の路地を入った一角にあるビルの2階に、モデラートが展開するSOÉJU(ソージュ)の店舗がある。
2階といってもエレベーターなどに乗る必要はなく、道路から階段を上って直接入店ができる。
そして、この店舗は予約制のショールーム型店舗で、来店客は事前にブランドのWebサイトから来店予約をして訪れる。
店舗内には常時100型程度の商品が用意されており、来店時にはそれらの洋服を自由に試着できる。
ショールーム型のため店内に販売用の在庫はない。
気に入った商品があれば、後からネット経由で購入するというビジネスモデルだ。
リアル店舗で重要視している3つのKPI
販売を目的としない店舗ではあるが、投資対効果はきちんと売上で測る。
そのため、KPI(重要業績評価指標)は、試着人数、来店後のアンケートによる満足度、来店の有無によるLTV(顧客生涯価値)の上昇幅の3つを設定している。
SOÉJUの商品は一般的なECサイトと同様にネットだけで商品を選んで買うこともできる。
そこで、顧客データに来店経験を紐付けて、来店の有無で顧客の年間購入金額を比較し、店舗が売上増加に与えた貢献度を測っているという。
その結果、店舗を設ける固定費をLTVの増加額でカバーできれば、コストセンターにはならないという結論が出ている。
その差は歴然で、来店経験のある顧客は年間購入金額が約2倍高い傾向があるという。
店舗への来店数は月間で数百人。
割合としては顧客全体の1割程度だが、それでも売上の増加額は店舗の運営に必要な固定費を上回っている。
SOÉJU(ソージュ)を展開するモデラートにとって、売らない店は確実に事業成長に欠かせない要の1つになっているのである。
売らない店を作る3つのポイント
売上につながる売らない店をつくる上で3つの重要なポイントがある。
ECサイトを軸とした事業設計
デジタルを活用した接客
ECの売上にひも付くKPI設計
その3つのポイントを1つずつ解説していこう。
最初のポイントがECサイトを軸とした事業設計ということになる。
売らない店をつくるには、ECサイトで売上をつくることを前提とした事業設計が最も大切なのである。
店舗はあくまでEC事業の成長を加速させるための手段で、原則として売上はECサイトでつくり、売らない店はそれをアシストする存在と位置付けるように事業を設計するということだ。
売らない店の本質は、購入を断るストレスからの解放にある。
裏を返せば、購買の主導権は顧客が持つべきであるという思想が根底にある。
ECサイトを主軸とした事業モデルは、この思想にピッタリ合うということだ。
例えば、リアル店舗で販売員に促されるままにオプションなどを設定していくと、気付いたら予算を超えてしまうということがある。
一方でECサイトなら買うタイミングや会計も明朗なので、ECサイトで買ってもらうほうが顧客メリットは高いということだ。
だからこそ、リアルの接点、すなわち売らない店が必要になる。
より顧客の体形や用途にあったスーツを作る上では素材の確認や採寸など、リアルの場での体験が購買の決定を左右する極めて重要な要素となり、店舗に足を運ぶというわけだ。
買うことを前提としないショールーム型店舗なら、引け目を感じることなく思う存分試着できる。
店舗での試着体験を通じて、顧客の固定観念を緩和させて洋服選びの幅を広げる。
ただし、販売の場はECサイトのため、最後に購入するかどうかは本人が自宅でじっくり検討できる。
納得のいく購買体験につながるため、購入点数が増えても満足度を維持できるというロジックだ。
現代のOMO(オンラインとオフラインの融合)型のビジネスモデルでは、従来型の小売りの店舗スタッフとは異なる接客スキルが必要になる。
結論からいうと、接客で目指すべきなのは顧客の問題解決ということだ。
例えば、スーツの用途が仕事なのか、冠婚葬祭なのかによって適した生地などは異なる。
また、在宅勤務が増えている現在では、出勤日が少なく着用頻度が少ない人と、毎日スーツを着る人とでは提案する生地も変わってくる。
毎日着る人の場合には、日々のケアが楽な生地を薦めるといった接客がポイントになるわけだ。
そうした顧客のニーズや課題に対して、適した提案をしていくことが接客の役割になる。
ただ、こういった接客スキルは属人的な接客になりがちで、それでは接客体験にバラツキが出てしまう。
そこで活用すべきなのが、デジタル、つまりテクノロジーである。
ただただアプリをリリースするのではなく、そこへ顧客データを溜め込んでいくのがポイントだ。
試着した商品ごとの感想など、体験を通じた反応もデータとして蓄積し、顧客ごとのファッションカルテをつくっていくわけだ。
最後のポイントになるのは、ECの売り上げにひも付くKPI設計だ。
具体的にいうと、店舗での接客の有無による顧客単価の増加額を店舗の重要な指標に設定したりするということだ。
OMO型で店舗とオンラインの顧客データを統合しているからこそ、こうした店舗の売り上げへのアシスト効果を数値で把握できるというわけだ。
従来の店舗スタッフは、1日の商品の売上ノルマがあるのが通常だが、店舗スタッフにはECサイトでの売り上げにつながる指標を追わせるべきだという考え方である。
顧客からの継続的な収益性を示す、LTV(顧客生涯価値)がより重要な経営指標になるというわけだ。
接客後のCVR(コンバージョン率)だけでなく、商材に合わせた適切な期間を設けて、顧客の満足度とリピート率の変化も追わせる。
中長期的に売上をもたらしてくれていることがわかれば、目の前の顧客に最後の1点だと煽り、購入を促すような接客が不要になり、健全な接客に繋がるのである。
まとめ
売らないお店が売れる。
くり返しになるが、このトンチのようなお店がモノが売れない時代には重要なキーワードとなっている。
多くの業界で同じように使えるロジックでもあるので、是非参考にして欲しい。
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