【読書】SFを開拓する |J・P・ホーガン『星を継ぐもの』
ファンタジー小説が好きだ。重厚な世界観の上で繰り広げられる濃密なストーリーに、読み終えてからも1週間は心がその世界にとらわれてしまうような、そんなファンタジーが読みたいと常に思っている。
ただ、長年の読書生活の間に凝り固まった小説へのこだわりのせいで、なかなか新規開拓ができないでいる。面白いかもと読んでみて、自分の好みとは合わなかった、なんてことも多い。好きな作家の新刊情報を待ちわび、シリーズ最新刊の刊行情報に沸き立つ。大学生になってからは、そんなことを繰り返してばかりいる。
そんな私だが、ふらっと立ち寄った書店の本棚で一冊の本を手に取ったことで、ようやく新規ジャンル開拓を思い立った。
『星を継ぐもの』というタイトルに、宇宙服姿の人物が描かれた表紙。普段はじっくり眺めることのないSFコーナーにあったその一冊だったが、表紙が見えるように並べられたその本に、ふと目が止まった。
私が本屋で本を選ぶ基準は、作家と題名である。一度読んで面白かった作家の本は重点的に探してみる。一度も読んだことのない作家の本は、基本的に題名のみを参考にして選ぶ。題名でピンと来た作品は面白いはずだと思っているし、実際面白い。
正直翻訳作品にこの基準を当てはめるのはどうかとも思うが、とにかく『星を継ぐもの』という題名に惹かれた私は、SFーサイエンス・フィクションだって広義のファンタジー作品だろうと考え、早速購入してみた。
以下、『星を継ぐもの』についてネタバレを含んでいるので、未読の方は注意してください
この作品は、五万年前の遺体が月面から見つかる、という衝撃的な出来事を軸に話が進んでいく。まずこの導入が面白い。冒頭に登場するコリエルという人物の正体も気になるところ。
主人公のハントは、発見された人骨の正体を探るべく奮闘するが、謎が一つ明らかになると、また新たな謎が発生する、という具合でなかなか真実に近づけない。中でもハントたちを悩ませる問題は、見つかった人骨が人類のものと寸分違わないことである。見つかった遺体は宇宙人のものではなく、私たち現生人類のものである。しかし五万年前といえば旧石器時代。その当時、高度に発達した文明が存在したという証拠は、地球上に存在しない。
ではなぜ、遺体が月にあるというのか?無い頭で考察してみながら読み進める。初SFとして読むには作品内に散りばめられた理系用語が難解すぎるようにも思ったが、どういうことだ?となった時には大体ハントがわかりやすく説明してくれるので、根っからの文系人間でも楽しんで読めると思う。
その状況を打破するきっかけになったのが、火星探査で見つかった宇宙船の残骸である。作品世界は現実よりも宇宙開発が進んでいるので、火星の有人探査も可能!そこで見つかった宇宙船の中には、人類と似た骨格をもつ巨人の遺体が残っていた。
残されたさまざまな証拠から、ハントと生物学者のダンチェッカーは一つの結論を導き出す。
人類の歴史を根底から覆すような真実が明らかとなり、第一巻は幕を閉じる。第二巻『ガニメデの優しい巨人』では、とうとう宇宙人との交流が始まり、第三巻『巨人たちの星』では作品の舞台が宇宙へと大きく広がっていく。
壮大なスケールを誇るこの作品との出会いで、久しぶりに心が沸き立った。ファンタジー作品なんて、スケールがデカければデカいほど面白いが、この作品の舞台は宇宙。これ以上に大きいスケールはなかなか望めそうにない。しかもこの作品は計5巻というそこそこの長編である。面白い作品は長ければ長いほど嬉しい私にとって、この事実はかなりありがたい。それに作中でのハントとダンチェッカーの名コンビが、作品にスパイスを加えている。
この作品をきっかけに、SF作品へと挑戦するようになった。ほとんど開拓したことのないジャンルなので、名作と呼ばれるような作品もまだ未読である。今までSFコーナーをきちんと見たことはなかったが、改めて眺めると魅力的な題名の本ばかりである。もっと早くこのジャンルに出会いたかった、という気持ちもありつつ、大学生になってまだ未開拓の土壌がたくさん残っていたことに対しての喜びが大きい。
今目星をつけているのはN・K・ジェミシン『第五の季節』。かなり分厚い作品なので、春休みになったら腰を据えて読んでみようと思う。
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