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歌人 笹井宏之さん と笹公人さん
笹公人著「シン・短歌入門」NHK出版 を読んで。
笹公人さんは、この本の中で、ご自身が5年前に日経新聞の中で書かれた記事を紹介しておられます。
歌人の故・笹井宏之さん のことについてです。
まず、笹井宏之さんの歌から始まります。
◇
水田を歩む
クリアファイルから散った真冬の譜面を追って
笹井宏之
笹さんは、この歌を、真冬になると必ず思い出されるそうで、故・笹井宏之さんのことを、「彗星のごとく短歌界に、あらわれ、そして去っていった」と書いておられます。
笹短歌ドットコムという笹さんの短歌投稿ブログに
笹井宏之さんが、投稿してきた時の感想を、
" 笹井くんは最初から、完成度の高さ、世界観で
他の投稿者とは一線を画していた。彼の歌は、詠む対象すべてに愛があり、ひとびとを優しく包み込む。"
と、評価され、ご自身のその短歌投稿ブログを受け継いでもらおうと、心の中で決めておられたそうです。
笹井宏之さんは、笹公人さんの所属する未来短歌会に入会することとなります。
◇◇
天井と私のあいだを一本の各駅停車が往復する夜
笹井宏之
笹井宏之さんの第一歌集「ひとさらい」(書肆侃侃房)の批評会で、笹さんがお祝いの電報を笹井宏之さんに送られたときのこと。
◇ ◇
私は、ここを読んで、喉をぎゅっと締め付けられ、泣けてきました。
表題は" 花一輪 "です。
◇ ◇
しかし、一週間たっても連絡がない。短歌の世界では、こういう時には礼状を出すのが常識だと、結社の先輩としてメールした。返信には、感謝の言葉とともに、御礼が送れたことへのおわびの言葉が書かれていた。
翌日、笹井君から御礼のはがきが届いていた。そのはがきには、丁寧な御礼の言葉とともに、ピンク色の花が一輪描かれていた。花びらも茎も葉も色えんぴつで丁寧に色が塗られた、心のこもったはがきだった。重度の身体表現性障害を持っていた彼が、色つきの絵を描くのは容易ではなかったはずだ。
描くのに数時間かかったのかもしれない。御礼の催促をするようなメールを出したことを後悔した。礼状が行き違いになったことを、言い訳ひとつせず、ただ謝った彼に高潔な魂を感じた。
◇
この本は、ポップなイラストの表紙で、イラスト入りの短歌の作り方Q&A、で構成されており、笹さんと笹井さんのこんなエピソードが終わりの方に書かれているなんて思いも寄りませんでした。
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◇ ◇ ◇
私が、ときどき戻って来ては読む、笹井宏之さんの短歌のうちの幾つかです。
立つことを目的として
立つことを叶えた後に歩みゆきたい
枕辺に一頭の犀あらはれて
悲しき夢を突き上げにけり
あすひらく花の名前を簡潔に
未来と呼べばふくらむ蕾
うたふなら月を ささぐるなら花を
きみのつめたきまぶたのうへに
踏み切りの真中で月を失いし
夜とわれとが擦れ違いたり
台風の目をはばたける鳥達に
涙とふ名を与へてやりぬ
ややひだりに 傾きながら
虹入りの水たまり崩せる車たち
左手でルームミラーをあはせつつ
背後の世界ばかり増えをり
ゆつくりと傘をたたみぬ
にんげんは雨を忘れてしまふ生き物
※ 明日から8月になります。
「八月のフルート奏者」なので8首、と思いましたが、9首になってしまいました。
でも、どれも外せません。
◇
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