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「悲しみを癒す美しく静かな本~『詩ふたつ』~」

『詩ふたつ』 長田 弘 著  グスタフ・クリムト イラスト (クレヨンハウス)
                           2010.7.5読了

YouTubeより 『G線上のアリア』 ヨハン・セバスチャン・バッハ 作曲
(※この記事の内容をイメージした曲を選びましたので、良かったらお聴きになりながらでもお読みください)


今回ご紹介する本は詩が書かれており、私が現役で図書館司書をしていた当時、同僚のすすめで読んでみました。
お恥ずかしい事なのですが実を言いますと、私って詩があんがい得意ではない方で残念な人間です。
普段は読み込みが足りないのかな?とか、作者の真に伝えたいことが理解できないのかな?と、自分の読解力に疑問が生じるほどです。きっとそうなのかもしれないですね。
もっと勉強しなくては…。
 
しかし今回のこの本の詩は、どうにかこんな私でも読み込むことができるほど文章がすぅ~っと入ってきて、抵抗なく読めました。
タイトルどおり、詩が2篇入っている本です。
美しい装丁が目を引きます。1ページおきにクリムトの絵が挿入されています。

クリムトといえば、我が家にも私たち二人の結婚のお祝いに夫の会社の方々からいただいた複製画の“接吻”という有名な額絵があるのですが、その絵がというか、クリムトが愛した女性の絵が有名ですね。

 

でも、この本に掲載された絵はすべて、風景画です。
それも、花や木々や森といったものを点描画で表現しています。
 
 
キャンバス一面にびっしりと打たれた色とりどりの点が、むせ返るような花々となり、木々の葉っぱとなり、生命の息吹を感じます。
 
 
でも詩の方は、“死”“人生の終わり”を意味する内容。
それでいて、決して否定的・悲観的なものとして捉えていないのです。
愛する人たちが自分より先に死んでしまったとしても、手の届かないところに行ってしまったのではなくて、すぐそこ、いえ、自分の心とともにいるということを謳いあげています。
また沈黙は、さみしさの中の沈黙ではなくて、そこにあるべきもの、意味のあるもの、存在感のある沈黙なのだと…。
 
 
だからこそ、クリムトの生命にあふれた絵が活きてくるのですね。
初めて見るクリムトの珍しい風景画。
女性の絵はどこか儚げで、死のにおいさえ感じるけれど、風景画のほうは静かな中に賑やかさを感じる絵のように思いました。
 


かつて親族に不幸があった、遠方に住む知人にこの本を贈ったことがあります。
亡くなられた方の配偶者にあたるご親族が、なかなか愛する方の“死”を受け入れようにも辛すぎて立ち直れずにいる旨のお手紙をいただきました。
あまりに切なすぎて、知人もまたその悲しみにくれる方の姿を見るにつけ辛い思いをされている現実に、何か手を差し伸べられることがないか、私にできることはないかと思ったとき、この本の存在を思い出し、お手紙と本をお送りしたのです。
 
すると知人も親族の方も大変喜んでくださったようで、当時毎日のようにこの本を仏前で読まれていたとお返事をいただきました。
その知らせを受けて、贈って自己満足ではなかったかなと心配していましたが、癒されておられるようでひと安心しました。
それから徐々に立ち直られたそうで、贈ってよかったと思いました。

そのような癒しの力も秘めている詩の本です。


 



皆様のおかげで前回の記事、『ヴァイオレットがぼくに残してくれたもの』の読書感想文に対してご褒美をいただきました。
いつも本当にありがとうございます。
今後もいろいろな本をご紹介できたらと思います。

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