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「他人との違いも気にならない国に~『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』~」【YA⑥】

『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』 こまつ あやこ 著 (講談社)
                           2018.8.3読了
沙弥(さや)は中学二年生。小学生の途中から父親の仕事の都合でマレーシアに住んでいました。
日本へと戻ってきた沙弥は、帰国子女の色をあまり出さないようにしつつ、必死にクラスに溶け込もうとしていました。
なるべく目立たないようにしていたのに、ある日突然三年生の、その名も“督促女王”と呼ばれる佐藤先輩から、みんなの前で呼び出しをくらってしまったのです。
 
学校の図書室から借りた本が延滞していると、学校司書の七海先生からたのまれて各クラスを回って督促の紙を置いていくという督促女王の仕事の的になってしまったのでした。
しかし沙弥は放課後に図書室まで呼び出されてしまいました。
目立ちたくないと思っていたのに…。なぜ…。
 
すると佐藤先輩から、いきなりいっしょに“ギンコウ”に行くことを命令されてしまったのです。
 
“ギンコウ”ってなに?
 
それは街をブラブラしながら、目についたものをお題にして短歌を読むことを言います。
 
佐藤先輩は短歌に魅せられて、常に気になったことがあるとすぐにメモできるよう、“タンカード”という、いわば単語帳を短歌のメモ用に使っていました。
 
佐藤先輩と意外にも波長が合うようになった時、思わぬことに共通の人物を知っていることがわかりました。
そして恋敵であることも、沙弥は密かに知ることとなるのです。
 
それはマレーシアに行く前の小学生だった時からなんとなく好きだったのですが、本人を前にすると素直な態度が取れなくなって何も言えないまま後悔していた相手でした…。
 
 
 
タイトルの「リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ」とは、マレーシア語で5・7・5・7・7という意味になります。
 
沙弥はマレーシアが大好きでした。
その国はいろんな人種・いろんな文化・いろんな宗教が混じり合っているのに、それぞれが尊重されていて、人と違うことに怯えたり気を使うなんてことをしなくていい国なのです。
日本とはまったく違うけど、のびのび生きることができる国なのです。
 
そんなマレーシアで食べていた、ココナッツミルクで炊いたお米の味がすでに体に染み付いているのか、日本で炊いたご飯をついつい嗅いでしまう沙弥。
ココナッツミルクの匂いがしないかと…。マレーシアのことが恋しくなってしまうのでした。
 
 
 
物語は思わぬ方向にすすんでいきます。
でも今日本の若者が抱えている不必要な心配が、マレーシアでは馬鹿らしく思えてきて、YAという思春期の若者向けですが、視点や物語の奥にあるものが深くてすごく考えさせられます。

私は同じアジアの中にいるのに、マレーシアという国のことはほとんど知りません。
多民族国家でイスラム教、ヒンドゥー教、仏教などの様々な宗教が混在しているし、そのためにまた各文化も様々です。
でも国民はお互いを尊重して上手くその国の中で生活しているのです。
少しでも違う人種や民族、宗教、文化について許容範囲の狭い人が比較的多い日本とは大違いです。
(だから本来ならする必要のない、沙弥のような帰国子女だという事実を心配をする羽目になってしまうことに、残念な気持ちになります。)
 
この物語は、2017年第58回講談社児童文学新人賞を受賞しています。それにどうやら2019年度の私立中学入試問題の題材として多くの学校に使用されているようです。
 


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