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「一度バラバラになった家族が、再び寄り添いあって暮らすには~『地図を広げて』~」【YA56】

『地図を広げて』 岩瀬 成子 著 (偕成社)
                           2018.9.7読了

中学生の鈴の両親は、鈴がまだ小学生の時に離婚しました。
母親は幼い弟を連れて出ていってしまいました。

鈴は父親と二人で暮らすことになりましたが、その四年後、母親の突然の死で久しぶりに弟が二人のマンションにやってきました。
 
はじめはどこかぎこちない三人。
三人でまたうまくやっていこうな…と誓う父親でしたが、弟はこれまで母親と暮らしていた祖母のいる福山に“帰ってもいい?”と聞いてくるのです。
そういうことがたびたびあり、どこか父親は面白くなさそうにしています。
 
鈴もまた、弟がいったいどういうふうに今の暮らしや自分たちのことを思っているのか、本当のことを知りたいと思っています。
 
学校から帰ったあと、自転車で出かける弟のあとをつけてみたりするのですが、なんとなく途中で引き返してしまうのでした。
 
鈴自身も母親のことを考える日もあるにはありましたが、できるだけ考えないようにしようとしていたのかもしれません。
 
そんなある日、鈴は弟といっしょに母親の実家がある福山へ行こうと決めました。
何かがわかるかもしれない、何かが変わるかもしれない…。
そんな気持ちを抱いて。
 
そして自分の母親の少ない記憶がよみがえり、また知らない母親の姿などを祖母や母の友人に話を聞くうちに、長い間のどこかよそよそしい母や弟への気持ちが柔らかくほどけていきます。
 
その後家へ帰って父親と弟と、改めて三人の生活が本格的にスタートするのでした。
 
 
 
母親が弟だけを連れて出ていったことが、心の何処かにわだかまりとして残っていたのかもしれません。
母親が本当に自分の母親として、しっかりと記憶に刻まれていないような感覚。
 
弟もなんとなく自分たちに遠慮しているような感じがするのです。
やはりたかが四年とはいっても、そういう別れ方をしてしまうと他人みたいになってしまうのでしょうか…。
まあ、無理をして仲良し家族を演じる必要はないと思います。
 
家族って、ともに生きていく中でたくさんの思い出と、それに伴う想いとが積み重なり築き上げていくものかなと思います。
彼らにはそのブランクを埋める必要がありますが、あわてて体裁を取り繕っても気持ちが追いつかないのかなと思います。
ゆっくりお互いの距離を縮めていくには、お互いの理解と信頼とを少しずつ深めることが大事なのかと…。
 
 
でも残った三人がまた、家族として歩み出せそうな終わり方でよかったです。
父親だってかなり気を使っています。
三人が三人とも、気を使ってしまう。
 
 
でも親しくて仲がいい家族と言っても、全く気を使わなくなったらよけいに仲違いしちゃいますよね。
 
いい距離感っていうのも大事なんじゃないかな、家族って。

 


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