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「犯人は……あなただ!」 孤島の洋館。そこで起こった密室殺人事件の解決の瞬間。 「……どうして、俺が犯人だと分かったんだ」 「これです」 探偵が一枚の葉を投げる。 「なんだこれは?」 「名探偵草です」 「名探偵……草?」 「この植物には何故かは分かりませんが、事件の犯人に反応するという特性がありましてね。事件当初、私が皆さんにこの草を握っていただいたのは覚えていますか?」 「まさか、あの時に!?」 「えぇ、分かっていました。あなたはこの草を握った後くしゃみを3回し、しゃっくり
スイカ。夏の風物詩である、この瓜科の作物に人生をかける男がいた。 「瓜田天光」40歳。 スイカ農家の風雲児の三年間の記録。 ———午前4時、都内某所にあるビニールハウス。そこに瓜田の姿はあった。 「この時間がしまうまスイカの一番大事な時間なんで。すみません」 そう言うと瓜田は、我が子のように育てたしまうまスイカを一つ収穫した。 「いいでしょ、これ。最高のしまうまスイカですよ」 ———しまうまスイカ 瓜田がスイカ界の風雲児と呼ばれる所以となった新たな品種だ。 今までのスイカ
最近発見された新種のシマウマ「ウォーターメロンゼブラ」 通称スイカしまうまをご存知でしょうか? まるでスイカのような彼らを追い続けた一年にも及ぶ取材の成果を お届けします! ここはサバンナ。 見慣れたシマウマの向こうに群れを形成しているのが今日の主役、そう「ウォーターメロンゼブラ」です。 体長約1m80cm。体重は210kgとヤマシマウマよりやや小柄です。 好物は、紫蘇。 毛並みは地毛が緑でそこに黒のストライプがスイカのようにはいっているのが特徴です。「ウォーターメロンゼブ
「ここかぁ、雑誌で紹介されていた2人用大仏があるのは」 日本中の2人用スポットや2人用アイテムを紹介する雑誌 「週刊1人より2人」 そこで特集されていたのがこの2人用大仏だ。 「すごいねぇ、2人用大仏」 「見た目、どんな感じ?」 「えっとねぇ、優しい顔?」 「うっわ!見たい!ねぇ、交代してよ!」 2人用大仏を拝観するには、1人が所定の位置に立ち もう1人がスイッチを踏む必要があるのだ。 「いいよ!スイッチ、踏んで!」 「はーい。踏むよー?」 しかし、大仏は姿を表さない。 「あ
「鏡よ鏡。この世で最も美しいのは誰?」 「それは貴方です」 「おーほっほっほっ!当たり前のことだったわね!」 「けれど、ただ『美しい』だけに留まる器なのですか、貴方は」 「おーほっ……え?」 「容姿だけ優れている。そんなものは時と共に移ろいます。 数年もすれば『美しい』だけなら貴方の娘、白雪姫にその座は 取って代わられるでしょう」 「なんですって!」 「そして、貴方は怒り狂い、私を割り、白雪姫を 亡き者にしようとするでしょう」 「そんなこと……」 「美しさなどと言う、移
ある日、道端に立方体が落ちていた。 一見して「立方体」と認識できるほどに、美しい立方体。 これは一体何なのか。 興味が湧き、手に取ってみる。 見た目に反して質量はそれほど無く、ふわりと持ちあがる。 そのまま家に持ち帰り、じっくりと眺める。 すると、先ほどは気づかなかったが、うっすらと線が入っている。 均等に引かれた線に触れると、ほろりと小さな立方体となって崩れ落ちる。 どこまでも小さくなり、最後には消えてしまった。 あれは何だったのか、と疑問に思っていた次の日。 またしても
少子高齢化が極まった過疎地域の商店街。 高齢化した店主たちを助けるために「宣伝ロボット」が 地方創生推進交付金でそれぞれの店頭に設置されていった。 「いらっしゃいませ!ここは、T橋精肉です!美味しいお肉はいかがですか?」 「安いよ安いよ、U村野菜は安くて美味しいよ〜」 「安心安全、I川電気の家電。家庭のお困り事も承ります」 それぞれのお店に合わせた宣伝方法を行うロボットたち。 お年を召した店主達の手間を省くため、太陽光、風力などで発電し 自己診断AIとメンテロボットも完備
「ただいま」 宝くじは実家に帰っていた。 「お帰り。なんだいしけたツラして」 「またハズレくじだったから……」 「バカだねぇ、ハズレるくじの方が多いんだよ、あたし達は」 「でも……一回くらいは当たりくじでチヤホヤされたいよ」 「何言ってんだい。あたしと父さんはハズれたから出会えたんだよ? あんたもハズれたからってウジウジしてるんじゃないよ」 「そうだけど、当たって換金されてみたいって思ってもいいじゃないか」 「滅多なこと言うんじゃないよ!ほら、お隣さんのお孫さん……」 「あ
「ここは!?」 男が目を覚ますと、そこにはたくさんの人々が苦悶の表情でゲームをしていた。 「ようやく目を覚ましたか」 鬼。そうとしか形容の仕様がない人物が話しかける。 「さぁ、お前もあいつらと同じようにゲームを遊べ!」 鬼に引き摺られ、数世代前のゲーム機のコントローラーを握らされる。 「今からこのゲームをノーミスでクリアするまで遊び続けるのだ!」 それは自分の身長より低い段差でも落ちたら死んでしまう主人公が冒険する アクションゲームだった。 「これは……」 「文句は言わせんぞ
「履歴書は持ってきてくださいましたか」 「はい!こちらに!」 青年が勢いよく履歴書を手渡す。 「ありがとうございます。では、拝見いたしますね」 「はい!よろしくお願いします!」 採用担当が目を通す。 「この『コウジ』さんはどのような性格の方ですか?」 「はい!『コウジ』は僕が子供の時の人格ですね! 正義感の強い性格で、今は自分の一部になっています!」 「ありがとうございます。では『マイケル』さんはどのような?」 「分かりません……履歴書で初めて見た人格で……」 二重人格履歴
「想像してください。頭の中にATMがあります」 「ATMですか?」 「はい。どうですか、浮かんできましたか?」 「ちょっと待ってください……はい、何とか」 「コンビニですか?」 「そこ、大事ですか?」 「次、ATMを使うときにスムーズになるので」 「大事なんですね。いえ、銀行のATMです」 「では、そこを覚えておいてください」 心療内科。新しい思い出療法として「ATM療法」が発案された。 ATMにトラウマや嫌な思い出を出し入れするイメージで 心の安定を図る
「張り付いて生きていく」「話を聞いてくれ!」 「放っておいてくれ!もう、この世に未練なんてない!」 ビルの屋上。フェンスの向こうにいる男が叫ぶ。 「昔からいいことなんて一つもなかった! この世界に俺の居場所なんて一つもないんだ!」 「そんなことはない!」 「うるさい!こんな世界、こっちから願い下げだ!」 「早まるな!!!」 飛び出す。その男に、止めに入っていた警官が叫ぶ。 「思い出せ!どうしても戻りたい場所を!」 男の世界がスローモーションになる。 自由落下。 加速する体
我々の記憶は何処から来て、何処へ行くのか。 ここに一つの錠剤が有る。 「遺伝子レベルで染み付いた記憶」を甦らせる薬。 これを飲むと、自分の遺伝子の記憶をまるで 「誰かに教えられたこと」のように思い出すことができる。 体験、と言っても良いだろう。 それ程鮮明に記憶が甦る。 今日も一人、この薬を手に入れ飲む者が現れた。 「自分のルーツが知りたくて」 甦る記憶を選ぶことができない。だが、その記憶は自分のルーツではある。 自分が何者か、それを知る為に飲む者は多い。 一錠飲めば、ま
「僕、こう言うところ初めてで……」 「実は、私も……同じですね」 「あなたもあの人の紹介ですか?」 「あなたもってことは、あなたもあの人の?」 「あの人に紹介されたもの同士は熱く燃え上がると評判で」 「私たちの間では、優しく擦るだけで反応してくれる人を紹介してくれるって」 「お、早速頭薬と側薬同士、仲良くしてくれてるね。結構結構」 マッチとマッチ箱のマッチングが専門のマッチが話しかける。 「プロさん、ありがとうございます。こんな素敵な側薬さんを紹介してくれて」 「私も……優し