に教えられたことよみがえる

我々の記憶は何処から来て、何処へ行くのか。
ここに一つの錠剤が有る。
「遺伝子レベルで染み付いた記憶」を甦らせる薬。
これを飲むと、自分の遺伝子の記憶をまるで
「誰かに教えられたこと」のように思い出すことができる。
体験、と言っても良いだろう。
それ程鮮明に記憶が甦る。
今日も一人、この薬を手に入れ飲む者が現れた。

「自分のルーツが知りたくて」

甦る記憶を選ぶことができない。だが、その記憶は自分のルーツではある。
自分が何者か、それを知る為に飲む者は多い。
一錠飲めば、まるで自分が経験したかのように記憶が甦る。
しかし、「誰かに教えられた」ような感覚が残り続ける。
に教えられたこと。感覚に靄がかかる。
一体誰に。何に。
自分の記憶なのに誰かに作られたような気持ち悪さが心を蝕む。
そして、遥か過去の記憶がいいものばかりでは無い。
まるで自分が悪事を犯したような感覚も甦る。
一夜にして全てを知る事ができるが、
一夜にして心を失う者も後を絶たなかった。