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マージナルマン・ブルーズ #12

 おまわりさんは怒っているようで、最初から乱暴な口調で
「えぃ、何してる?」
と若い方が聞いてきた。ヒートーもよくなかった。
「ヤッターに関係あらん」
と口ごたえしたのだった。
 直後、おもいきり怒鳴りつけられた。
「ヤッター、来い」
と言われて、そのまま警察署に連れて行かれた。ザビエルは大丈夫だったようだ。その場ですぐに放免されていた。別れ際に僕らの方を見たような気がしたが、暗くてわからなかった。
 警察署ではたくさんのことを聞かれ、親が引き取りに来るまで説教されながら待っていた。2人ともザビエルからもらったライターを取り上げられた。プレゼントだから、もらった物だから、と言って抵抗しても返してもらえなかった。おまけにヒートーはタバコを持っていたものだから、お前も一緒に吸っていたんだろうと散々言われた。
 
 不意におまわりさんが
「どこから来た」
と聞いた。どうやら僕のイントネーションが違うのに気がついたようだった。
「鹿児島から転校してきました」
と答えたら、そのおまわりさんはふんっと笑った。そしてこう言ったのだ。

「あめりかーとアシバー(不良)とナイチャー(本土の人)が迷惑かけんけ(迷惑かけるな)。ここはワッター(私たち)の島だからよ」

 そのとき、僕は自分がよそものなのだということを知った。ザビエルもヒートーも僕も、要するにはずれ者なのだった。はずれ者が、日本のはずれの島の、町のはずれで、はずれたことをした。「アッター(彼ら)の島」で迷惑をかけた。じゃあ僕は何者なのだ?

 翌日、昼過ぎにヒートーの家に行って、いつものようにナンミンに行こうと言うと、
「オサダーとはもう遊ばん。ナオキーたちとまた遊べばいいさー」
と冷たく答えてすぐに家の中に引っ込んだ。
 僕がそのまましばらくそこに突っ立っていると、また玄関が開いてヒートーが顔をのぞかせた。
「これ、持っとけ」
 そう言ってガチャガチャいわせながらヒートーが僕に渡したものは、昨夜没収された2個のライターだった。ひとつはスヌーピー柄の、もうひとつはドナルドダック柄の、まぎれもなくザビエルからもらったものだった。え? と言いかけると
「無くさんけー、な(無くすなよ、な)」と言って、またバタンと音を立てて玄関を閉めてしまった。
「ヒートー、ヒートーって!」
 何度か大声で呼んだけれど、ヒートーが出てくることはなかった。
 仕方ないので、とぼとぼ歩いてナンミンのいつもの場所に行った。

 浜辺にはザビエルもいなかった。けれど、いないだろうと思っていたし、この先ももう会えないだろうという気がしていた。握りしめた手をひろげた。汚れたボロボロの2つのライターを見つめた。ヒートーのライターの裏には、僕のよりももっと小さい字でびっしり何か英文で彫られてあった。自分のすらどんなことが書かれているのかわからないのに、これはなおさらだった。意味なく何回かフタを開け閉めした。そのたびに、ちょっと擦れたようなシャッという音がした後、ピン!カチッ!っと歯切れの良い音が鳴った。
 ヒートーはどうやってこのライターを取り戻したんだろうか。開け閉めしながらぼんやり考えた。きっとおまわりさんが親に返したんだろう。代表でヒートーの親が受け取ったのだろう。たぶんそれをヒートーが返してもらったのだろう。
 そう考えながらも頭の中では、ヒートーがおまわりさんの隙をついて机の上に置いてあったライターを取り返す姿がリピートしていた。

 もしそうなら‥‥‥。

 いや、そうならいいのに。

 それから僕はライターをまた握りしめて、海を見た。

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