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99匹のうちの1匹

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2022年7月の記事一覧

16、まるでそれは、ウェルテル効果のように

16、まるでそれは、ウェルテル効果のように

 99匹のうちの1匹

僕らの導き出した50:50の結果は、ただの時間稼ぎだったみたいで、哀れにも、沈黙する他ない。

なくなってしまうこと
消えてしまうこと
忘れていくことしかできないこと

投げ飛ばされた体を必死に都合よく組み替えて、一刻も早く、羽を生み出さなければならない。そうしないと、僕らは死んでしまうこと。本能は知っていた。

ぬるいバスタブの上。

吐いた息が水蒸気に混じりあって、君も

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17、信憑性のない信憑性

17、信憑性のない信憑性

 99匹のうちの1匹

魚の座を奪われた。

僕、月の座標の上でひとりぼっちの王様。
クレーターの端っこで、宇宙(そら)を見下ろしています。見下ろした先の彼方が、まだあたたかいこと、僕はそれを無視してクレーターに埋まっている。冷たいその地表をあたたかいと錯覚することはわざとで、きみはそれを知っているけれど、僕はそれを知っているけれど、みんな、黙っていた。

失われた不安が体の表面ごと削れていって、

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18、夏終わらんが、そっちはどう?

18、夏終わらんが、そっちはどう?

 99匹のうちの1匹

夏草を抱えたまま夜空を見上げて、星を掴んだ。

きらきらと熱を持った金星が、火星が、ぼくの首を引き裂いて、余熱をはらむ。
この道中の湿気が、君にはもう届かないこと。吐き出した煙は辺りをぼんやりとさせ、暑さでダメになった頭を、そっと、肯定する。肯定なんかいらないのに、不健康なまま、熱でうなされる夜に今日も身を落とす。

夜を待って、銃声で年を越したい。
ずっと燻ったままの思春

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19.B級はそれも愛の内

 99匹のうちの1匹

陰気くさいメロドラマに魅せられた彼らの結末は、お分かりの通りで。それを眺めるだけのぼくは静かに死んでいるようなものだった。

迫害の先。
死んだふりは いけ好かなくて、棚の奥深くに潜んでいる自分は安全地帯だと思い込む。
不安定な世界で、安全なんてない。
老人の追い剥ぎをして、悪者になることでしかこの世界は救えないのだと説く。折衷案。なるほど、笑顔で頷いて理解した気になれば、

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