空寝ひつじ

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そう言って彼女は歩いて行った

いつだって言葉を発する時、私たちは少しずつ嘘をついた。 感情を言葉にしても、それは誰かの価値観で凝り固まってしまったもので、私のものじゃあなかった。私は私の感情は私だけのものなのに、私の物には一生ならない。人の言葉で象られて囲まれた感情は、そこからずっと抜け出せずに私の口から淡々と出ていくのだ。新しい言葉を作ったって伝わらない。伝わらなければ意味はないのだ、 とハーシーは言った。 だから全てを知りたがった。 神になりたいと言った。 全てを式にして、方程式にして、解釈

    • 夏の空気がいたい

      人の感情なんて、考えるだけ自分が苦しくなるだけなのに、他人の感情を勝手に推測して頭から離れなくなってずっと考えちゃうの、ほんとーーーによくない。 と、永遠に思っている。夏。 馬鹿になった方がラクなこともたくさんあるから、わざと馬鹿になることもあるけど、馬鹿になれないことだってめちゃくちゃある。一度頭に張り付いたものはすぐにはどうこうできなくて、しばらく頭に張り付けたまま、寝たり、食べたり、動いたり、息を吸って吐かなきゃいけない。 どしたらいいんだ。 馬鹿になるために頭を使

      • 自 他

        みんなと同じになりたかった。 夜の深さを、朝は夜とひと続きなこと、ふらふらな君は昼と顔が違うこと、迎えた朝は、誰よりも自由なこと。他人の視界が自分には持ち合わせていないことに嫌気が差して、夕日を呪っていた。 ずっと。 でも最近、ふと、今はそうじゃないなと思った。 他人と同化したい感情を理解したら、受け入れられるようになった気がする。 反対に、今度は、ちゃんと世界と自分を分けたくなった。「私」として、君に、世界に、認識されたいと願うようになった。 100匹の群れの中で、識別

        • 別れ道のその先で

           むわりと身体が火照るような暑さに包まれ、脳味噌の内側から、思考を剥ぎ取られるような、感覚。私はそれを知っていた。体は暑くてたまらなかったり、時には寒さに震えていたりするはずなのに、意識と体は切り離されて、どこか俯瞰したように頭はいたって冷静に、透き通るような混濁に包まれていた。両手に携える弓と矢は体の一部となり、私を何倍も大きくさせ、地中深く根を張る大木のような安定と安心を感じさせる。人一倍小柄だった私を、弓道は変えてくれた。不安定な心身を支えてくれる。支えだった。人生の、

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        • 99匹のうちの1匹
          31本
        • novel
          5本

        記事

          詩は傷口を抉ること

           6年くらい詩を書き続けてるのに一向に上手くならなくて、「今年詩を書き始めました!」みたいな人にボコボコにされている。  インターネット、上手くならなくても許される場所で、僕はきっともっと早くこの場所から脱出しなきゃいけなかったんだって思う。でも、惰性で書き続けるしかない生活をしている。  やめることは、今はできない。  詩集絶賛発売中の人間がする話ではないことは重々承知なんだけど、それでも空寝ひつじの作品を触れてくれている人にはなんか知ってほしいなって思っています。僕は、

          詩は傷口を抉ること

          蒼に響く声

           無機質な機械音がなって、僕は目を覚ました。  ぼんやりとする頭がだんだんとはっきりしていくのを感じながら、「おはよう」とベッドの横にあるこじんまりとした机の上のモニターに声をかける。 「おはようございます」  モニターからはすぐに滑らかな挨拶が返ってきて、続けざまに今日の日付・曜日・気温・酸素濃度を教えてくれた。外の気温は相変わらず十度を下回り、夏も間近であるというのに僕は分厚いセーターを着込む。  三年前、この国で一番大きな火山が噴火した。父さんが言うには、その火山灰が今

          蒼に響く声

          30. 憂鬱な回転木馬

           99匹のうちの1匹 きみの明日が素晴らしいものになれば、それは僕の自由とイコールで、回り続ける東西の輪が、明日を連れてくる。 文字を知らない回転木馬。 夢だけを見て、僕の正気を疑った。ここには何もないことを、何も考えていない無機質な無意識が蔓延っているだけなことを、ハイヒールの裏側に隠している。 踏み潰している。 頭蓋骨を、 何もないと踏み潰している。 きみは素晴らしいと言う代わりに、踏み潰している。 僕は回り続ける。 きみの明日が素晴らしいものになるまで。 --

          30. 憂鬱な回転木馬

          目を打撲したかも。痛い。

          もう2ヶ月も書いてなかったらしいです。連載詩。noteが言うには。 詩はちょこちょこ書いてましたが、なにぶんTwitterにも載せていないので(というかTwitterすら低浮上が続いている)もう全員、空寝なんて忘れてしまったんじゃないかとすら思えます。 でも、書いてました。 そして僕の詩を読む人読む人、最果タヒに影響されてるね^ ^ 最果タヒっぽいね^ ^ みたいに言ってきます。そうだと思います。 でも僕の詩にゃ、一貫性がなくてぶつ切りのサーモンみたいだって、それは嘘だけど

          目を打撲したかも。痛い。

          29. 昨日も明日も変わらない

           99匹のうちの1匹 ずっと、 ゆめの延長のような、気がしている。 冬。 人生のBGMはamazarashiの「この街で生きている」みたいで、 夜の裂け目に出会ったら、 君を受け入れる愛を設けたい。 さみしさを感じることなんて、本当はなくて、隣の芝生の青さだけを感じる生活は、もう捨てて仕舞えば、明日、僕はもっといきやすいはずだ、と思っている。  底のわからない気持ち悪さが、いつだって這い寄っている。 あなたはそれを受け入れていて、 僕はそれを超えたいのだ。 たった

          29. 昨日も明日も変わらない

          28. 酸素より重いところで

           99匹のうちの1匹 「いつだって君のことを考えてるよ」 その言葉だけじゃ、まるで私たち、愛し合ってるみたいだね。勝手に苦しむ君の的外れな努力は、きっといつか誰かを救う。 君が救いたいはずの僕は、君に救われない。 井戸の中でうずくまっているのを、井戸の淵から見下ろしている。 「大丈夫、君は僕が好きだよ。」って、何も大丈夫なことなんてなかった。私たちの一方通行の恋しさは、お互いに首を絞め合っている。君の喉仏に、私の切りたての爪が突き刺さっている。 このままで良いはずはない

          28. 酸素より重いところで

          白紙の手紙

           仕事帰りにポストを見ると、真っ白な封筒が一つ、置いてあった。その封筒には本当に、ただ一つも文字が書いていない。  だけど、送り主はすぐにわかった。  知る限りこんな手紙をよこすのは一人しかいない。  足早に家に入ると、コートを脱いで封筒を開ける。ほんのりとオレンジの香りがして、手紙を持ったまま肌寒いベランダに出た。  十二月中旬、この時期の外は寒い。  ポケットから煙草を取り出し、火をつける。早く電子煙草にしたいと思いつつ、この不便な寒さは嫌ではなかった。吐いた煙は夜の空

          白紙の手紙

          27. 抉るほどの傷はない

           99匹のうちの1匹 抉った傷の、鮮血な血飛沫を知っているから、 僕は自分のカラダを見て 一抹の安心と、奈落の不安を覚える。 手を掴まれて振り解けないから ずっと このまま、この世界から離れられない。 見つからない傷口を ぐちぐちといじっているだけ 実際、 僕は少しもその痛みを感じられないまま 大人になって 明日生きる責任を取っている。 屍の横で

          27. 抉るほどの傷はない

          街角

           僕の背中に降り注ぐ朝日はほの暖かく、少し湿り気のあるひんやりとした空気はなんだか僕の心を湿っぽくさせる。手に持った赤褐色の黒バラは、寝起きみたいな部屋着姿の僕には全く似合わなかった。  だけど、あの人はバラが好きだった。 「華やかで、愛って感じするでしょ? だから好き」  部屋の窓から街を見下ろすと、ちょうど黒バラを置いた街角が見える。  陽が傾くに連れて、バラは路地の暗闇に吸い込まれていくように日陰になる。その場所はまるで狙ったかのように朝日だけが差し込み、それ以外の

          26. 夜明けの愛憎

           99匹のうちの1匹 冷たさを訴えたのち、私はまだ他人の手のひらを握ったことがないと気がついた。 あぜ道の湖畔で。 この冬は、とても冷え込みますから。 焼けるように暑い夏を恋しく思いながら、 いつまでも冬将軍に襲われている。 肉体の老化と共に衰退した感情は、 もはやずっと前に独り立ちし、 海を渡り、 私だけのものではなくなってしまった。 認識できない自己が本当に自己なのか、 それだけが、冬の銀世界に取り残されていることを私は知っている。 無意識下の感情。 夜明け前の愛憎

          26. 夜明けの愛憎

          25. 無限の明日の一部

           99匹のうちの1匹 無限に明日が来る。 そう考えると 頭の毛細血管の末端から  足の指先の爪まで 熱が溜まって   溜まったまま からだが冷たくなってくのを ベッドの淵で首を掴まれながら思う ふっとうする珈琲を飲んで 臆病を噛み砕く 今年という区切りを つけられてしまったこの日 無限に明日が来る。 ただ、ここで息を吐くだけ。

          25. 無限の明日の一部

          したためて愛

           クリスマス 2022 朝ぼらけの鼓動は、寒さをしのぶ。 鮮やかな贈り物は仄かにミルクの香りがして、 僕はまだ、あたたかな血液の流れに包まれていた。 湯船に浸かる。 死んでいた時を思い出そうとして、頭まで、深く潜る。 結局思い出は振り返れないまま年を重ねて 拝金主義を貫いていた。 惨めさを僕のものにして、ままごとの世界。 それでも、確かさを振り返れば 目の前の愛を飲み込むことはできるはずだった。 幸せも不幸せも僕のもの。 メリークリスマス。愛を拒むことも、愛の一つ。 --

          したためて愛