【書評・あらすじ】光点(山岡ミヤ)
第41回すばる文学賞受賞作。
工場のある街で生まれ育ち、工場で働く。
そんな人生を送っている「実似子」が主人公。
実似子は人とのコミュニケーションが苦手で、いつしか職場で話しかけてくれる人はいなくなっていた。
帰宅すると、母親からのいわれもない叱責をうける。
特に大きな感情を抱くこともなく、淡々と過ごす実似子の生活にはある習慣があった。
それは、毎日の神社への参拝。
信仰心や祈りがあるわけでもなく、ただ参拝を習慣としている。
その際、たまたま一人の青年カムトと出会う。
ことあるごとに実似子に話しかけてきて、
いつからか二人で行動することが増えてきた。
そんな折に、カムトの妹への気持ちを知ることになる。
狭い世界での息苦しさ
家と工場の行き来のみで、特に代わり映えのない毎日。
工場では食品を扱っており、手に染みついた油の匂いが気になる日々。
家に帰ったら、母親による罵りが始まる。
読んでいるだけで、息苦しくなる。
しかし、実似子は息苦しさを感じていないように見える。
もはや、慣れてしまっているのか無反応で淡々としている。
そんな息苦しそうな日々に、カムトという新しい風が吹く。
変わり映えのない毎日に増えた、ちょっとした刺激。
二人はこの息苦しい世界で、互いを頼るようになる。
実似子の家族事情
母親の罵りようが毎回、すごい。
何でもかんでも実似子のせいにし、いわれもない嫌悪感を投げつけてくる。
一方で、父親は家庭には興味がなく、外で別の女性と会っている。
自宅で母親のヒステリーが起こると、急な外出と称して逃げる。
しかし、母親は夫大好きで、どこにいくの?とすり寄っていく。
逃げる父、追いかける母、傍観する娘。
あぁ、カオス。
そもそも、家が一番息苦しい。
カムトの事情
カムトは妹大好きお兄ちゃんだ。
実似子に会うたびに、妹の話をし、妹との違いや共通点を探そうとする。
…ちょっとしたシスコンよりも、上な感じ。
実は、カムトにも事情があり、妹の存在に執着する原因があった。
何が正しいのか、何が間違っているのか。
価値観は人それぞれであり、その人の価値観を押し付けることはよくないこと。
でも、周りの意見が正しいのか間違いなのか、を決めてしまうのが現状。
カムトの苦しい心のうちを知った時、つらかった。