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最終バスに乗れなかった日のこと
最終バスに、乗り遅れた。
いや、正確には、目の前で扉が閉まるのを見ていたのに、足が動かなかった。
バス停のベンチに座りながら、テールランプが遠ざかるのをぼんやりと眺めていた。こんな時間に、街はやけに静かで、風の音ばかりが耳に残る。近くのコンビニから出てきたカップルが、楽しそうに笑いながら歩いていった。
「まあ、歩くか」
そう思って、立ち上がる。
終電や最終バスに間に合わなかったとき、人は少しだけ人生について考える。
たとえば、何かを選びそこねたこととか。 たとえば、取り返せない時間のこととか。 たとえば、誰にも言えなかった本音のこととか。
そういうものが、夜の道を歩いていると、不意に浮かんでくる。
コンビニの前を通り過ぎる。入り口の横に座り込んでいる人が、タバコの煙をゆっくりと吐き出していた。店内から流れる「ありがとうございました」という声が、妙に明るく聞こえる。
交差点の信号が青に変わる。
誰もいない横断歩道を渡りながら、「あのバスに乗っていたら、今ごろ家のベッドの上だったんだろうな」と思う。
だけど、今はここにいる。
冷えた缶コーヒーのぬるい味を確かめながら、ふと考える。
もし、あのバスに間に合っていたら、何か変わっていただろうか。
たぶん、何も変わらなかった。
それでも、この遠回りには、少しだけ意味があるような気がした。
道端に落ちていたコンビニのレシート。 止まることなく点滅し続ける信号機。 深夜のラジオから流れてきた、聴いたことのない曲。
そんなものに、今夜の記憶は刻まれていく。
誰かが言っていた。
「人生は、最終バスに間に合わなかった日のことを、あとで思い出すようにできている」
その意味が、少しだけわかった気がした。
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