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20241210 一時、山口瞳にとてもはまった時期がある

山口瞳といえば、江分利満である。

山口瞳が気になり出したのは、ほぼ亡くなられる直前といったところか。
1995年にお亡くなりになっている。
最初に意識したのは、成人式のサントリーの広告だったと思う。
1995年。
まだ、お酒を憶えたての若造に、「酒を飲むとはどういうことか」ということを人生の先輩として伝える文章となっていた。
毎年、成人式の日と4月1日。
サントリーが必ず新聞に広告を出す。
今は、誰が書いているのか?
ただ、その頃すっと文章が自分の心に届いたのを憶えている。

1995年8月30日にお亡くなりになっている。
その時のニュースは、これまた印象に残っている。
NHKのニュースでは、森田美由紀アナウンサーが読んだはず。
それくらい、自分にとって、まだそんなに読んでもいないし詳しくもないのに、インパクトがあったのだ。
お亡くなりになってすぐさま、それまで週刊新潮で連載されていた「男性自身」の最後の分が、新潮文庫から「江分利満氏の優雅なさよなら」にまとめられて出版される。
その表紙は、サントリーのトリスウイスキー・アンクルトリスのイラストでも有名な、柳原良平のイラストで作られていた。
実のところ、著作として初めて買って読んだのはこの本だった。
そして、このイラストのイメージがものすごく染みついているのだ。

社会人になってすぐの頃、山口瞳の本が結構な勢いで出版された。
ムックとして特集されたものもあった。
社会人になって、お酒を愉しむ様になる。
その中でもウイスキーにハマって、毎晩の晩酌で飲む様になる。
職場の先輩諸氏が揃って、「家で飲む時は、角瓶なんだ」と言っておられたり、酒好きの父も角瓶が必ずストックされていたので、自分も角瓶を飲む様になった。
そうすると、サントリーのウイスキー作りに興味を持つこととなる。
幸い、サントリーの山崎蒸溜所が日帰りで出かけられる距離にあったので出かけたら、そこには広告なども含めて展示されている。
そこでさらに、山口瞳と出会うわけだ。

そんな積み重ねから、山口瞳の本を読む様になった。
2000年すぐくらいだった。

江分利満はその頃に出会う。

今、読み返せば、時代が進んだことにより世の中の考え方が大きく変わったことに気付かされる。
出版された頃には世の中の当たり前だった考え方が、今や「〇〇ハラスメント」と言われる様なものも沢山見受けられる。
世の中は高度経済成長期、男は仕事、女は家庭。
そんなのも当たり前。
小説の中には、まだ戦争の残り香が漂っている。
男女雇用機会均等法なんて、影も形もない時代。
初めて読んだ2000年ごろにはあまり気にならなかった物言いや考え方など、今はものすごく気になったりする。
しかし、今の物差しでなんでも測るのはおかしな話じゃないかと思ったりする。
それで世間は回っていたし、そんな世の中に問題意識を持って行動していった人達の積み重ねがあるから、今の世の中に変化して来たのだ。
正しさが変わったのだ。

「江分利満氏の優雅な生活」の中で、戦争について書かれているものがいくつもある。
召集された後の兵舎での生活や出来事。
また、通りがかった学校前で、運動会にであったことから、学徒出陣や多くの若者が戦地に出向いたことにまで思いを馳せる瞬間。
日の丸に対する、忸怩たる感情。
自分が。祖母から聞いていた戦争の頃の話などがダブってくる。

今時、山口瞳の様な物言いをしたら、ネットで無茶苦茶に叩かれるんじゃないか。
でもね、戦争の真っ只中にいた人たちに対しては、もし最近のネット民が言うような内容、その物言いは無知すぎるとさえ感じるんだよ。

なんて、山口瞳の書き方にちょっと寄せてみるお遊びはほどほどにして、山口瞳に対する様々な思いが浮かび上がる本に出会った。
それが、息子さんの正介さんが書かれた本。
500ページ以上あるのに700円しない。
家族、息子から見た山口瞳。
大全を出版するにあたって原稿を全部読み返しての、そして一つ一つのエピソードと照らし合わせながら書かれたこの本は、死後30年近く経った今でも、山口瞳の存在感の強さを感じさせるものになっている。

山口瞳の本は、もしかしたら100年、200年残る様なものじゃないかもしれない。
しかしながら、昭和の風俗をサラリーマンの目線から著したものは、そうそうないのではないか。
今や、ブラック企業、ブラック労働といった働き方や考え方、仕事に対する捉え方は、山口瞳が働いていた頃とは全然違うものになっている。
しかし、今の考え方が突然現れたのではなく、人の日常の営みの中から紡ぎ出されたものだと思う。
ならば、「今の考え方とは違う」と、放してしまうのではなく、教養として糧にすれば良い。

そんな事をこの本を読みながら考えた次第。

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