見出し画像

同人文化を取り巻くもの

『「同人文化」の社会学』を読みました。

近年というか、8年前くらい?から、世間一般でも同人文化としてコミックマーケット(コミケ)が知れ渡ったように感じます。

私もアニメが好きで子どもの頃から見ていましたが、同人にはそれほど興味はありませんでした。ここ数年でコミケが爆発的な人気を呼んで、どんなものか知っておきたいという、いたってミーハーな理由で読みました。

本書では、「運営団体」「スタッフ」「参加サークル」「歴史」「コロナ前後」の5つに分けた分析がされています。

気になったところを書いておきます。


スタッフのスケジュール

スタッフの参加スケジュール。1時間交代で持ち場を離れる。あくまでもスタッフも参加者の1人。会場のためや、自分のサークルの出展をするだけではなく、他のサークルを見て回ったり、休憩したりしている。

この章を担当した筆者も、あくまでも「仕事」として割りきって作業するのではない点には驚いていた。あくまでも緩い「しごと」としてのスタッフだった。

作品製作をする理由

お金目線ではない。コミケの同人規範には非営利的、あくまでも趣味ということが求められている。

同人を作る本人たちにとっても、お金を考えたら完全にマイナスなことは分かっている。その時間を使ってアルバイトや残業をした方が儲かるのは十分承知の事実として認識している。

むしろ、お金稼ぎのために同人活動をすることははばかられている。実態として、アダルトゲーム製作会社が同人サークルを語って出展することもあるようだが、見分けるのは難しいらしい。

では、なぜやるのか?と言われれば、それは作ることが楽しいから。他にも誰かと活動すること、誰かに評価されることに重点が置かれている。

『ひぐらひのなく頃に』の竜騎士07と『月姫』の奈須きのこも商業と同人の違いを明白にしている。

〔竜騎士07 : 〕自分たちが面白いから作る。だから同人というのはつまり、面白くて作る。その結果、大勢の人にやってもらえたらいいねという感じで。要するに、同人と商業では作る根底の、まず最初の大前提が逆になるわけです。「好きだから作る」「売れなければな らない」という、優先順位が逆なんですね。〔・・・・・・〕 商業というのは売れるために市場をリサーチして、より売れるものを作るた めに企画立案が進んでいくと思うんですけれども。同人という のは、多くの場合、自分がやりたいからやる。自分が作りたいから作る。世間では受けてないけど、俺は面白いから作るという、非常に自己主張が強いものが同人なわけです。

P153

〔奈須 : 〕好きなものをやるのが同人の本来なんだから、みんな熱意で動いてほしいですね。金にならないから断る、というのは同 人世界ではあまり見たくないです。極力、理想を通して欲しいのが、同人なんです。〔・・・・・・〕どうして僕が商業に行くのを嫌がったかというと、僕たちは同人であることに誇りを持っていたし、 同人である以上、商業は敵だったんですよ。あんな手法には負 けない、金はなくても持てる力をすべて使って良いものをつくってやる、っていう気概で成功してきたので、反対側に行くのは裏切りだと思っていたんです。

P154

この流れは90年代半ばから一変する。

1990年代~2010年までは、同人誌委託販売店(とらのあな、メロンブックス)、ダウンロード販売店(DLsite、DMM)など、即売会以外で同人誌を扱える(同人流通)ようになり、自作のゲームで生計を立てられるサークルもできた。

また、2010年以降は各種ソーシャルメディア、XやYouTubeの影響で、同人の制作・流通・プラットホームが大きく変化した。

この時代には制作目的が「自分が楽しいから作る!」というよりも、「誰かの反応を得たい」に変化した。

特に印象に残ったのは、会場内のサークルの出展位置が人気に比例していることだ。

人気サークルほど、会場の外側に位置する。これは、人気サークルが会場の真ん中に位置してしまうと、人の列で渋滞ができ、即売会の運営に支障をきたすからだ。そのため人気サークルは「シャッター横」、「シャッター前」、「壁」と呼ばれるスペースに出展する。

同人誌即売会の歴史

調査されたのは1985~1994年まで。85年にはガンダムやキャプテン翼の影響、同人誌を印刷する企業が増えた。94年に終了したのは、オーブン化が進んだことにある。同人誌販売所の開設、インターネットの進行。

同人誌作成者は印刷所が刷ってくれないと販売することが難しい。そうなると、印刷所との結びつきが強くなる。印刷所としても多く刷ってくれた方が利益になる。しかし、同人誌側は利益を求めていない。また、即売会を行うためのスペースを貸し出す企業との確執。こちらも継続的な利益追及のため、同人誌側との軋轢が生まれた。

また、印刷所としても、利益を独占したいので、自分のところで印刷したサークルのみの即売会を行う。この時代は個人の印刷を請け負う企業がそもそも少なく、3~6社の独占状態となっていた。この中の企業どうしが手を組んで即売会を行ったこともある。けれど、これもイベント会社からすると面白くない。幅広い同人誌作成者に参加してもらうことで出展料を取れる。

この対立が1989年に起きた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件によって一転する。この時の犯人がオタク趣味をもっていたため、社会的にオタクが冷たい目で見られるようになる。
(この影響か、ここ数年までもそうだったかもしれない。)

この2年後、1991年にわいせつ物にあたる同人誌の作成者が逮捕されることになり、印刷所が捜索された。これにより、コミケが警察の事情聴取を受け、幕張メッセで予定されていたコミケが中止されることになる。即売会場で物を売れなくなると、同人誌作成者・印刷所・イベント会社、誰もが不利益を被ることになるので、ワイセツ表現の基準を定めることになった。こうして、互いに手を取り合ってイベントが運営されるようになった。

感想

本書を一読しただけなので、間違っていることもあります。そこはご容赦ください。勝手なイメージですが、コミケ周りの方々は、自分が熱をいれているものへと誤解は、敏感に反応する節があります。精通されている人は適当に流してくれればありがたいです。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?