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ザッと書く2冊: 『若い読者のための音楽史』『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』
返却期限が迫った2冊について書いておきます。
『若い読者のための音楽史』
「若い読者」と書いているから、とっつきやすいのかな?と思いつつ、そうでもなかった。
さらには、本書のページのURLを手に入れるためにGoogle検索をすると、リトルヒストリーという一連のシリーズの中の1冊だと知った。ちなみに本書は8冊目で、9冊目?として美術史(さっき調べたのにもう忘れた)がある。これまで刊行されたものの中には、文学史、経済学史、哲学史、アメリカ史などがあるようだ。
本書を読んで、私は正直もういいかな...という気持ちではある。
私が想像していた本書の流れは「ベートーヴェンが〜」「バッハが〜」というものだったが、もっと前から始まっていた。
もちろんこれらのことについても書かれているが、始まりは人類史における音楽の役割からだ。
壁画に踊っている姿が描かれていることや、9000-8000年前の演奏できるフルートが中国で見つかったなど。
驚きというか、知ってしまったら当たり前だよなと思えるのが、音楽が広まったのは西洋からだということ。
というのも、音楽を書き留めるための記譜法が生まれたのが11世紀のイタリアであること。また、活版印刷を発明したグーテンベルクは15世紀に活躍したドイツ人だ。
紙が生まれたがヨーロッパということを考えれば、まあ当たり前なんだろうけど気づけない。
15世紀と言えば、ヨーロッパがアフリカやアメリカを植民地にした時代でもある。
ヨーロッパ人から見れば、アメリカ人の狩猟採集生活は野蛮で、自分たちの文化よりも劣っていると判断した。
(この話は『万物の黎明』にも書かれている話で辻褄があうというか、話がつながって嬉しかった。)
そのため、アメリカにも音楽はあったが、それらはヨーロッパ人によって消し去られた。
アメリカ人も奴隷の苦しみから解放されるために歌いながらダンスをしていたそうだ。
そもそも楽譜が登場する前は口伝で伝えられていたので、書き残す術を持たないヨーロッパ以外の国は記録に残せない。
例えば、ホメロスによって書かれたとされる叙事詩『オデュッセイア』や『イーリアス』も口伝で伝えられたものでホメロスが全てを作ったわけではないとされている。
あと記憶に残ったことを箇条書きで残しておくと、
・モーツァルト、ベートーヴェン、ハイドンは同じ世代。ちょうどナポレオンも同じ時期に活躍した。
・ジャズはアメリカの黒人の音楽。
くらい。正直、後半になるにつれ固有名詞が増えてきて、全然記憶に残らなかった。
『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』
何冊か読んだことのあるアート関係の本。本書は科学的な知見からアートについて研究している。主に行動心理学や脳科学を使って書かれている。
脳科学の方は、脳の領域(前頭前野とか、海馬とか)の名前が長すぎて流し読みしました。どこがどこだか理解するのに体力を使うので断念した、と言った方が正しい。
かなり面白かったのは、体の魅力をどうやって判断しているか。
体の中でも顔については多くの研究が行われている。魅力を感じるのは3点。平均的か、対称的か、性的ニ型があるか。体については、対称性、性的二型が重視される。
平均的な顔が魅力的だということは既に知っていたが、他の2つについてや、体も魅力的な特徴があることを知らなかった。
平均的な顔とは、多くの顔を合成して作られる顔に似ているか。対称性は、左右のバランスが整っているか。性的二型は性別による特徴の違いがくっきり現れているか、を指している。
性的二型は性ホルモンのテストステロンとエストロゲンによって形作られる。
エストロゲンは女性的な要素を現す。具体的には、眼が大きい、眉が薄い、額が広い、頬が丸い、唇がふっくらしている、鼻が小さい、顎が小さいことが挙げられる。
男性の異性愛者はこれらの特徴を持った人を好む。
逆に女性の異性愛者はここまで簡単ではない。
もちろん、男性的なホルモンであるテストステロンの影響を受けた顔つきを好むのは間違いない。
角張った顎、こけた頬、濃い眉を持つ男性に好意を持つ。しかし、それはある程度までであって、顔つきか男性的すぎると、傲慢さが目立ち、威圧的で、安心感を求める女性には好まれない。
さらには、身体的な特徴だけでなく、地位や権力、富、守ってくれるかどうかなど社会的な特徴も重視する。
コンテクストによっても、男女が好む相手が異なる。
・異性の顔と体の片方だけを見れる実験を行った。
すると男性は、長期的なパートナーを選ぶなら、顔を重視し、短期的なパートナーなら体を重視することが分かった。また、女性はどちらも大差なかった。
男性が体を重視するのは生殖能力の高さ、つまりウエスト対ヒップ比が小さい(ウエストがヒップより小さい)女性を好む。男性は砂時計型のバストとヒップが大きく、ウエストが細い女性に惹かれやすい。
・「排卵シフト仮説」
これは、女性が月経周期によって好む男性が変化するということだ。排卵直前になると、妊娠する可能性が高まることから、男性的な特徴を持つ男性を好む。これは長期的なパートナー選びには直結しない。
個人的にも排卵シフト仮説は、女性の好みがコロコロ変わる話の裏づけにもなっていると思う。月経は毎月来るもので、コロコロ変わっていてもおかしくはない。
・「環境安全性仮説」
男性は国の社会的・経済的な状況で好む女性が変わる。食料が安全に確保できる国では、細身の女性を好む。それに対して、食料の獲得が困難な国は、逆に肉づきのよい女性に魅力を感じる。
SNS、特にXのおすすめを見ていると、露出度の高い女性の投稿が目立つことがある。これらのインプレッション数は非常に高く、1000万を越えるものも多い。Xのユーザー層を考えると、男性が多い印象を受ける。男性が短期的なパートナーシップを想定して体を重視するという本書の説明から考えると、こうした投稿に目がいくのも納得できる。特に、SNSでは多くの人が長期的なパートナー探しを目的としていないため、短期的な性的な視点でコンテンツが消費されることが多いのだろう。
SNSの中でも、マッチングアプリは長期的なパートナーを求めている人がいる。よく聞く話は「顔が写真とは全く違う」ことだ。顔を重視していることを言っている。男女関わらず聞く話だ。遠目からマッチング相手を探して、全く別人だったら会わずにボイコットする人もいる。一目見て「この人はない」と判断している。長期的なパートナーとして顔を重視するのが分かる。
興味深いことに赤ちゃんは文化的な影響を受けずとも、魅力的な顔を判断できる。「選好注視法」と呼ばれる、2つの顔を並べて見せたときに、それぞれの顔を見た時間を測定する。この実験によって、魅力的な顔を眺める時間は、そうではない顔を見る時間の2倍だったことが分かった。
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本書では行動心理学について書かれていることもあり、楯岡絵麻シリーズで知った、大脳辺縁系が体の中でいち早く反応を示すことについても書かれていた。
P.S.
本書の表紙のおじさんは最後まで誰か分からなかった。