岩宮恵子「生きにくい子どもたち カウンセリング日誌から」

岩宮恵子さんは河合隼雄の弟子筋で、長年スクールカウンセラーとして、子どもたちの心の問題に向き合ってきた方です。

岩宮さんはその経験から、子どもは大人たちの日常とは異なる“異界”に生きていて、その世界とうまくつきあうことができないと、生活に支障をきたしてしまう、との考えに至ったのですが、そのことを2つの事例によって分かりやすく説明しています。

1つ目の事例は、「スーパー長男」だったアキラ。模範的な良い子だった彼が突然おねしょや同じ動作を繰り返すようになってしまいます。これまで充分「異界」と繋がっていなかったアキラ君はカウンセリングにより改めて「異界」と繋がったことで症状が改善されました。

2つ目は、それまで大人しく育ってきたアリサ。彼女は自分の唾さえ飲み込まなくなる重い拒食症になってしまいます。アキラとは反対に「異界」に浸りすぎて日常の世界を拒絶するようになってしまったのです。
真摯に彼女と向き合ってカウンセリングを行う岩宮さんの姿が虚飾なく描かれているところが本書の一番の読みどころです。アリサだけではなく、岩宮さん自身の心の揺れやおそれ、改善に向かい始めたとき、内心でよろこびすぎて、アリサの苦しみを把握できず、心を閉ざされかけたことなどもきちんと書かれていて、共感を持って読み進めることができるのです。やがて症状が改善に向かい、岩宮さんが治療の終わりを予感したとき、よろこびと悲しみが入り混じる気持ちになるところは胸うたれました。

最初に述べたように、岩宮さんは河合隼雄の弟子なのでユング派になりますが、ユング派の概念を安直に当てはめるようなことはしていません。あくまで目の前のクライエントに真剣に向き合う中で。心理療法の指針として活用しているので、特にユングに関心がない人でも興味深く読めることでしょう。
また、ユングや河合隼雄の本を読んで、シンクロニシティや昔話の分析は面白いけど、実際の治療にどう役立つかピンとこなかった人は、この本を読むことでなるほどとうならせられるのではないでしょうか。

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