【短歌】令和5年春の自撰
主に先月と今月詠んだ歌をまとめました。
単純にこの期間に作った歌を集めたもので、形式的にも内容的にも、何らかの統一性を持たせようとはしていません。現代語で詠んだものもあれば、古語で詠んだものもあります。内容も本当に、本当に様々です。
実際は昨年詠んだ秋の歌も入っています。その歌を詠んだ当時と同じ気持ちを再び痛切に経験することが今春にもあったため、あえて再びここに取り上げました。性愛を題材とした短歌も含まれています。
すでに個別に発表したことがある歌には、末尾に星印(☆)が添えてあります。星印はそれぞれの記事へのリンクになっており、作歌の背景などをご覧頂けます。
雑駁さも含め、これが今現在の私の精一杯なのだと思います。
初めから人生なんてなかったよわかってくれる人などなくて ☆
明日から制服を脱ぐその前に下の名前で呼んで先生 ☆
灰色のまちを天使がはねまわる君とならんで歩くそのとき ☆
ぎこちなく摘まむ鯖ずし左手であなたの気持ちも味わえるかな
バッハよりベートーヴェンよりふる里の唄を知ってるあなたがすてき
洗い物なんていいからそばに来てスマホ越しでない君に触れたい
ギブアンドテイクだなんて言わないで give and give 愛の涯まで
君だけに姿の見える春風となってあなたを抱き締めにゆく
違うよとあえて言わずに今少し愛おしみたい妬いてる君を
断崖に一輪で咲く花のようなあなたを母と呼ぶ二人の娘
ふみ出せばもう友だちには戻れない to be or not to be
あの人は何を思って読むだろう太宰治の『人間失格』 ☆
このままじゃイヤだ何かを変えたくて左手でペットボトルを開ける
うす膜の汗を浮かべて「愛してる」僕を知ろうともせずにあなたは
妖気みつ春の心をなぐさむる花の雨こそあはれなりけれ ☆
(不穏な気配に充ちた春の落ち着かない心を和らげてくれる、そんな桜の季節に降る雨こそは本当に趣深いものだ)
碧眼の青年はしもてカレー食ふ木もれ日やさし神宮のもり ☆
(境内の食堂で青い目の青年が、懸命に誇らしげに、箸でカレーを食べている。そんな神宮の杜には優美な木漏れ日があふれている)
鈍色の秋の海には何もなし轟く波の砕け散るのみ ☆
(すべてが灰色に覆われた秋の海辺にたった独り。そこには何もない。激しく打ち寄せる波がただ砕け散ってゆくだけだ)