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#42『ランチ酒』(著:原田ひ香)を読んだ感想

原田ひ香さんの『ランチ酒』

先日『三人屋』を読んでから、原田さんの食べ物系の小説が読みたい気持ちが強くなったのがきっかけで手に取った1冊です。


あらすじ

犬森祥子、バツイチ、アラサー、職業は「見守り屋」。営業時間は夜から朝まで。様々な事情を抱える客からの依頼で人やペットなど、とにかく頼まれたものを寝ずの番で見守る。そんな祥子の唯一の贅沢は、夜勤明けの晩酌ならぬ「ランチ酒」。別れた夫のもとで暮らす愛娘の幸せを願いながら、束の間、最高のランチと酒に癒される。腹の底から生きる力が湧いてくる、絶品五つ星小説!

「BOOK」データベースより

感想

  • 食欲と酒欲がそそられる1冊

  • メニューが目の前にあるのがイメージできる

  • 「そばにいる」だけでも人は互いに変わっていくのだと思った


次々に登場するメニューに食欲と酒欲がそそられる1冊でした。
丼ぶり、お寿司、ハンバーガーなどに、祥子が必ず注文するのがお酒。ランチで食べるメニューはほとんどがなじみ深いものでも、お酒が加わることでどこか新鮮さがありました。そのままでも美味しいけど、お酒を加えたらさらに美味しい。僕は普段昼に飲むことはないですが、本作を読んでランチとお酒による化学反応はどんな感じなのかが気になりました。

そして、『三人屋』を読んでいた時も思っていましたが、原田ひ香さんの表現力によって、メニューの良さをより引き立たせていると思いました。実際に目の前にあるのがイメージできて、食欲と酒欲がそそられます。

(本作で登場するお店は実際にあるようですね。どのお店も美味しそうですが、その中でも阿倍野の自由な雰囲気に惹かれました)


人は互いに見守り、見守られる。祥子の様々な人との関わりに、「そばにいる」だけでも人は互いに変わっていくのだと思いました。
「見守り屋」のお客様も祥子も、どこか「寂しさ」を抱えて生きています。何か特別な一言がなくても、そこにいる、存在するだけで寂しさは和らぎ、明日への活力になる。物珍しさを感じた「見守り屋」という仕事ですが、人間だからこそできる仕事なのだと思いました。

元子さんが言った「どんなことでも、何も変わらないってことはない」というフレーズが印象的です。そのフレーズのように、祥子のランチとの向き合い方も変化が出てきます。現実逃避のためにお酒を飲んでいたのが、次第に前向きに捉えていくようになる。食とお酒だけでなく、人と人との化学反応も印象に残りました。


本作との出会いは、まるで美味しいお店を見つけたような感じです。読了後、すぐに続編を購入しました。

『ランチ酒 おかわり日和』

印象的なフレーズ

花開いている。薄切りの牛肉が丼の上に隙間なく敷き詰められて、薔薇のように花開いている。その上に、がりりと黒コショウがたっぷり。
美しい。こんな美しい丼は初めて見た。

『ランチ酒』

手間がかかる方がおいしく感じる、かも。自分も作るのに参加したような。

『ランチ酒』

「誰かが歩けば、道の小さな石ころが動く。空気も揺れる。どんなことでも、何も変わらないってことはないのよ」

『ランチ酒』

私たちはだめな人間だし、これまでも、これからもきっと間違いを犯す。だけど、今日はまあまあうまくいった。それで良いのではないだろうか。これからも問題は出てくるはずだ。けれど、その時考えればいい。

『ランチ酒』

祥子は日頃、テレビの料理番組でタレントが「わあ、お母さんが作ったみたい、おいしー」などと言うのが気になっていた。
───あれ、褒め言葉になっているのだろうか。懐かしい味、ということか?それはプロの仕事を褒めるのに正しい言葉なのか。懐かしいというバイアスがかかっているからおいしいけど、そうじゃなければおいしくない、ということにならないだろうか。

『ランチ酒』

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