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#38『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』(著:標野凪)を読んだ感想
標野凪さんの『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』
今月は食べ物・料理系の小説を読みたいと考えている中で、SNSでよく見かけたのがきっかけで手に取った1冊です。
あらすじ
住宅地の奥にひっそりと佇む、おひとりさま専用カフェ「喫茶ドードー」。この喫茶店には、がんばっている毎日からちょっとばかり逃げ込みたくなったお客さんが、ふらりと訪れる。SNSで発信される〈ていねいな暮らし〉に振り回されたり、仕事をひとりで抱え込んだりして、疲れたからだと強ばった心を、店主そろりの料理が優しくほぐします。
感想
何かに縛られたり焦ったりする時こそ、自分をいたわろうと思った
何気ない一瞬でも幸せは感じられることを改めて感じた
心が落ち着くメニューやフレーズ、 各話のつながりも素敵
本作の舞台は、店主のそろりさんが営業している「喫茶ドードー」
そこにやってくるのは、目まぐるしく変化する今の時代に対して疲れた人たち。そろりさんが出す素敵なメニューによって癒してくれます。
何かに縛られたり誰かと比べて焦る時こそ、一度立ち止まって自分をいたわろうと思いました。
コロナ禍をきっかけに仕事や日常生活の様式は大きく変化しています。便利になり楽になったように見えて、逆に負担になって疲れてしまうことも。
僕は何かの考えに縛られたり誰かと比べてしまうことがよくあります。SNSで色んな人の様子が見えやすくなったことでそれが顕著になり、今でもSNSを見てしまうだけで疲れる時があります。
そんな時、本作のようにまずは自分いたわろうと思いました。「いたわる」という言葉は普段あまり目にしませんが、精神的に疲れた時にピッタリな言葉ですね。
(気になって調べたら、「いたわる」には以下のような意味がありました)
「労る(いたわる)」は、優しく大事に扱う、苦労や頑張りを慰める、療養することを表します。たとえば、「患者を労る」という場合、「病気や怪我に悩んでいる人に声をかけたり、優しく接するなどして励ます」というニュアンスになりますね。
Oggi.jpより
美味しいものを食べた時、美しい景色を見た時、部屋がキレイになった時など……
そんな何気ない一瞬でも幸せは感じられる。それを本作を読んで改めて感じました。
振り返ると、僕は幸せの大きさばかりを求めて、自分を見失っていました。でも、幸せは人によって形は異なる。だから、大きさは関係ないし比べるものでもない。
何気ない一瞬の幸せ、小さな幸せを大切にしたいです。
心が落ち着くメニューやフレーズ、 各話のつながりも素敵でした。そろりさんの少し抜けている部分にも親しみがわきます。
食べるもの、場所、言葉って心の安定のためにすごく大切なものだなって感じます。
各話でのつながりでは、ドードーの絵の真相が特に素敵でした。また、第1話で登場するsayoさんのSNSの投稿の変化には、その人なりの心情の変化があることを考えさせられました。
印象的なフレーズ
「自分を取り繕ったり自慢をするのってパワーがいるんですよ。だからSNSなんかでそのパワーを真っ正面から受け止め続けるのってけっこう疲れるんじゃないかな、って。よそ見しているぐらいがちょうどいいんですよ。ほら、リスみたいにね」
「ある出来事があったとして、沈み込んで頭を抱えるか、えへへと笑って頭を搔くか。どのみち同じなら後者のほうがいいに決まっているじゃない」
「急激に育った木はヤワなんです。でも時間をかけて変化していった木は強くなるんですよ。自分をいたわるってそういうことじゃないですか?」
「駆け足だと見えないものも、歩くスピードを緩めれば見えてくるんじゃないかな」
「キノコには栄養もあるけれど毒もあるんです。あなたもいい顔ばっかりしていないで、たまには毒を吐いてみるってのはどうですか?」
「なくなることを心配していても仕方ない。それよりもいまあるものを生かして、やりたいことを思い描いたほうが、ずっといい。時間の無駄にだってならないんじゃないですか」