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#89「つまりはこの重さなんだな」【読書感想】
「つまりはこの重さなんだな」
どこかで見たことがあるようなこのフレーズ。
これは、近代文学の名作の1つである梶井基次郎さんの『檸檬』の中にあるフレーズです。今回は、その『檸檬』をはじめ梶井基次郎さんの作品を14篇読みました。
瑞々しさのある美しい文章に心が引きつけられました。
読んだきっかけ
高校の現代文で「檸檬」を習った記憶がふとわいていて手に取った1冊です。
当時は熱心に読んだわけではなかったのですが、今回読んでみてその頃の記憶がよみがえるようでした。
このような方にオススメの本です
近代文学の名作を読みたい
純文学系の作品が好き
あらすじ
私は体調の悪いときに美しいものを見るという贅沢をしたくなる。香りや色に刺激され、丸善の書棚に檸檬一つを置き--。現実に傷つき病魔と闘いながら、繊細な感受性を表した表題作など14編を収録。
感想
想像力をかき立てられる話が詰まっている印象
瑞々しさのある美しい文章に心が引きつけられた
初読で完全に理解できたわけではありませんが、想像力をかき立てられる話が詰まっている印象がありました。
そして、何よりも瑞々しさのある美しい文章に心が引きつけられました。
主人公が病気を患っている話が多く、その鬱屈した心情が繊細に描かれている感じがしました。
また、人には言いづらい欲望はどこか共感できる部分があったりもします。現代の言葉でいえば「魔が差す」ようなものでしょうか。
「檸檬」は高校の現代文以来に読みましたが、こうして改めて読むと面白いですね。
角川文庫版には14編が収録されていますが、表題作の「檸檬」以外にも、ミステリアスでファンタジーさがある「Kの昇天」、切なさ儚さを感じさせる「冬の日」、無常さを感じさせる「ある崖上の感情」が印象的でした。
日常では「魔が差す」ようなことはないようにしたい(笑)
印象的なフレーズ
つまりはこの重さなんだな。
「こんなに美しいときが、なぜこんなに短いのだろう」
「彼らは知らない。病院の窓の人びとは、崖下の窓を。崖下の窓のびとは、病院の窓を。そして崖の上にこんな感情のあることを――」
私はその時ほどはっきり自分がひとりだという感じに捕えられたことはない。――それは友達に愛想尽かしをされているためのさびしさでもなかったし、深夜私一人が道をたどっているというその一人の感じでもなかった。情ないとか、さびしいとか、そのような人情的なものではなく、――なんといったらいいか、つまり条件的ではない、絶対的な寂寥、孤独感――まあそのようなものだった。私はいつになったらもう一度あのような気持になるのかと思ってみる。