読書レビュー③『ぼくらに嘘がひとつだけ』(綾崎隼)
久しぶりですが、今回は自分の好きな作家である綾崎隼の新刊『ぼくらに嘘がひとつだけ』。
デビュー作から全作読んできているが、間違いなく今作も「最新作が今までの最高を超える作品」であった。
前作の『死にたがりの君に贈る物語』も非常に面白かったのだけど、某タイミングでnoteに書くと思うので、そのときにでも。
あらすじ
感想
今作は、2020年に出した『盤上に君はもういない』以来の棋界を舞台にした作品だ。そのため、綾崎隼お得意の作品をクロスオーバーさせての登場人物いるので、これを読んだら『盤上に君はもういない』も読みたくなるのは必至。
他にも、お得意の複数の人物の視点から語るパートをつなげていくかたちでの構成や、ミステリーにありがちかつ綾崎作品でも度々使われる(いたはず)の人物の取り違いと、恋愛要素とスポーツ要素以外の「The 綾崎隼 World」を展開した作品になってた。(余談ですが、自分は恋愛要素とスポーツ要素強めの綾崎隼作品が好物です)
綾崎作品は、そのストーリーの中にうまく隠された伏線を見つけるかが一つ醍醐味なのだが、今回はタイトルにある「嘘」を見つけることだった。
結論でいえば、嘘はそこなのか!?と思った結末だった。その嘘を理解するために何度も読み直したが理解するのにそれなりに時間がかかった。そのぐらいプロローグから丁寧に一つ、一つその布石を積み重ねており、その真実に気づけるのは、丁寧に読みすすめた読者のみである。
タイトルは確かにその作品を表すのだが、今回も読み終わったあとにタイトルにこめられた真の意味が理解ができる作りとなっていた。
「第一部 カッコウの悲鳴が聞こえるか」の朝比奈睦美と向井梨穂子の少し影のある関係。
「第二部 モズは誰を愛したか」というかこの物語全体の主軸をなし、「入れ替え」の当事者となった可能性がある長瀬京介と朝比奈千明のお互いがお互いに認めあって成長するライバル関係。
そして、幕間のように描かれる、向井梨穂子の夫であり、長瀬京介の父である長瀬厚仁と国仲遼平の年は離れているけど、まるで兄弟のような友情関係。
どの物語をとってもこの作品には必要だし、それぞれ考えされられることも多い。そんな物語が重なりあい、つながりあった結果として、残酷にも思える話が限りなく優しく、さらに広がりのある結末へ至らせている作品であるように思う。
才能は、遺伝子で決まるのか、環境で決まるのかという命題を描くのに、将棋界の奨励会を舞台はもってこいの場だったといえる。
ここ数年の綾崎作品は、圧倒的な天才を前にしたらどう向き合うのか?というのが一つテーマとして書かれることが多かった気がする。圧倒的な天才と努力でそれを超えてくるライバルという関係が多い中で、今作品のテーマに対して「どちらか」ではなく、「どちらでもない」という回答を描くことによって、また一つ答えを出したように思える。
その意味において、今作品「最新作が今までの最高を超える作品」であったといえる。
そして、その境地に達した今だからこそ、デビュー作から続いている「花鳥風月」シリーズを読みたいと願ってしまう。
ちなみに『ぼくらに嘘がひとつだけ』第1部がこちらから全文読めます!
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