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学習に必要な身体性について ~子どもの成長を支える“体を使った学び”~

現在の教育における課題と身体活動の重要性

現代の教育においては、座学に偏重する傾向が強まり、身体を使った学びが軽視されるケースが増えています。子どもたちが日常的に長時間座って学ぶ環境にいる中で、身体を動かす機会が減少し、心身の発達に不可欠な経験が不足していることが大きな課題です。研究によれば、身体活動は神経回路の形成を促し、特に幼児期から思春期にかけての運動が脳の発達を助けることが明らかにされています(Hannaford, 1995; Jensen, 2005)。

さらに、運動不足は思考力や判断力に悪影響を与える可能性が指摘されており、学びの場において身体活動を取り入れることの必要性が高まっています。本稿では、身体活動が子どもの成長や学びに及ぼす影響について検討し、学びの場で身体を動かす機会を増やす重要性を議論します。

成長期における身体活動と学び

子どもたちの成長過程において、身体の発達は心や認知の発達と密接に結びついています。例えば、歩き始めたばかりの乳幼児は、触れる、掴むといった身体的な経験を通じて周囲の世界を学びます。このように、身体活動は知識やスキルの定着を支える重要な基盤となります。

特に、遊びや運動を通じた経験は、子どもたちの注意力や問題解決能力を高める効果があるとされています。例えば、鬼ごっこや縄跳びなどの活動では瞬時の判断や協調性が求められるため、脳の前頭前野を活性化し、認知機能の向上につながります(Diamond, 2013)。また、運動はストレスを軽減し、気分をリフレッシュさせることで、その後の学習効率を高める効果もあります(Ratey, 2008)。


学習効率を高めるための具体的な取り組み

運動が脳の働きに与える影響は科学的にも裏付けられています。運動を行うことで、脳内に「BDNF(脳由来神経栄養因子)」が分泌され、記憶力や集中力が向上することが知られています(Cotman & Berchtold, 2002)。こうした科学的知見は、日常生活においても取り入れやすい工夫につながります。

たとえば、学習前に軽い体操や散歩を取り入れることは、子どもたちの集中力を高める有効な手段です。また、「勉強しなさい」と言う代わりに、親子で一緒に身体を動かす習慣をつくることも、結果的に学習への意欲向上に寄与します。


食事と運動の相乗効果

子どもの心身の発達を支えるには、バランスの取れた食事も欠かせません。特に成長期には、タンパク質やビタミン、ミネラルなどの栄養素を適切に摂取することが重要です。朝食をしっかり取ることで午前中の集中力が高まり、学習効率が向上するという研究結果も報告されています(Hoyland, Dye, & Lawton, 2009)。

また、家族で食卓を囲む時間は子どもに安心感を与え、情緒の安定につながることが示されています(Fiese & Schwartz, 2008)。こうした日常生活での食事と運動の習慣が、健やかな体と心を育む基盤となります。


学びの質を高めるために身体活動を見直そう

身体活動は、単なる息抜きや遊びの時間ではなく、心身の発達や学びの効率向上に不可欠な要素です。「体力が無ければ、考える力も弱くなる」という言葉が示す通り、子どもの成長期における運動や遊びの時間を確保することは、将来にわたる思考力や忍耐力の育成にもつながります。

学びの質を高めるためには、学校や家庭で身体活動を積極的に取り入れ、子どもたちが体と心のバランスを整えられる環境を提供することが必要です。運動と学びを効果的に結びつける取り組みを進めることで、子どもたちの可能性を最大限に引き出すことができるでしょう。

参考文献
• 文部科学省.「幼児期運動指針」(mext.go.jp)
• 筑波大学・神戸大学研究資料 (tsukuba.ac.jp)
• Cotman, C. W., & Berchtold, N. C. (2002). “Exercise: A behavioral intervention to enhance brain health and plasticity.” Trends in Neurosciences
• Diamond, A. (2013). “Executive functions.” Annual Review of Psychology
• Fiese, B. H., & Schwartz, M. (2008). “Reclaiming the family table: Mealtimes and child health and well-being.” Social Policy Report
• Hannaford, C. (1995). Smart Moves: Why Learning Is Not All in Your Head
• Hoyland, A., Dye, L., & Lawton, C. L. (2009). “A systematic review of the effect of breakfast on the cognitive performance of children and adolescents.” Nutrition Research Reviews
• Jensen, E. (2005). Teaching with the Brain in Mind
• Ratey, J. J. (2008). Spark: The Revolutionary New Science of Exercise and the Brain
• Tomporowski, P. D., Davis, C. L., Miller, P. H., & Naglieri, J. A. (2008). “Exercise and children’s intelligence, cognition, and academic achievement.” Educational Psychology Review

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