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#34 なぜ「褒めること」が大事なのか? - ポジティブ心理学 × 解決志向アプローチ -

ここでは、「褒めることの重要さ」について、一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、人を褒めるコツとして「強みを褒めること」と「プロセスを伺って、感心すること」が役に立つということについてみてきました。

「自分には力があるんだ」と思えるような褒め方をすることが大事だというお話でしたね。ここでは、そもそも「なぜ褒めることが重要なのか?」ということについて、一緒に学んでいきたいと思います。


ポジティブ心理学や解決志向アプローチを基にした子育てや学生相談、部下の育成では、「褒めること」を大事にします。なぜなら、褒められたときに感じる「嬉しい」「やったー!」というポジティブな感情を利用したいからです。「ポジティブな感情を利用する」というのはどういう意味なのか?このことを説明するために、少し「感情」のことについて触れたいと思います。

感情には役割がある

僕らはよく「怖い、辛い、悲しい」などのネガティブな感情に対して、できることなら感じたくないと思います。でも、実は感情に良いも悪いもなく、それぞれの感情には役割があるといわれているんです。例えば、「恐怖」という感情は、「自分を守るため」に湧き起こる感情です。この感情がなかったら、危険な状況にあっても気づかず、結果的に恐ろしい目に遭うかもしれません。「怖いなあ」って、あまり感じたくない感情ですが、自分の身を守るためには大切な感情なんです。その他の例として、「怒り」はいかがでしょうか?この感情もできれば感じたくない感情ですが、例えば、政治腐敗など、不正が蔓延る状況において、「怒り」がそれらを正す原動力になったりします。「怒り」も不快な感情ですが、大切な役割を持っているんです。このように「感情」というのは、目的や役割をもっており、ネガティブな感情は「自分を守るため」に必要な感情なんです。

「怒り」が社会正義を促進するように「感情」には役割がある

ポジティブな感情の役割とは?

一方、ポジティブな感情にはどんな役割があるのでしょうか? もちろん、ポジティブな感情を感じること自体、快い体験なのですが、実は「嬉しい、楽しい」というポジティブな感情は、自分の視野や思考、行動を拡げてくれるという役割をもっているんです。

例えば、皆さんもご経験あるんじゃないかなと思うんですが、問題を抱えて悩んでいるときって、視野も狭く、なかなか良い発想って出てこないですよね。一方、例えば、お風呂にゆっくり浸かってリラックスしているときとか、少し運動して気分が晴れているときの方が、視野が拡がり、良いアイデアって浮かんできやすいと思うんです。

ポジティブな感情のときの方が視野が広く、良い発想が出てきやすい

また、気持ちがネガティブなときって、どちらかというと内向きになり、勉強会や社交的な場に参加してみようという気持ちが薄れていくと思うんですが、気持ちがポジティブなときは、逆に「ちょっと参加してみようかな」と行動しちゃうと思うんです。このようにポジティブな感情には、人の視野や思考、行動を拡げてくれる役割をもっています。そして、その結果、新しい知識やスキルを身につけたり、社会的なサポートの輪が広がったり、自分にとってのリソースがどんどん構築されていき、プラスのスパイラルを生み出していく役割をもっているんです。(これをポジティブな感情の拡張ー形成理論と呼びます)

ポジティブな感情は思考や行動、人間関係を拡げ、自分のリソースを構築してくれるのに役立つ

ネガティブな感情の影響を緩衝する

また、ポジティブな感情の役割として、ネガティブな感情がもたらす心身への影響を緩衝してくれる働きもあることがポジティブ心理学の研究で明らかになっています。例えば、不安になったとき、血圧が上がったり、心拍数が上がったりと身体への影響があるわけなんですが、その後、ポジティブな感情を感じると、血圧や心拍数がいち早く元に戻ったというようなデータがあります。また、このような身体への影響に関する研究報告を知らなくても、例えば、身近な例として、自分が緊張しているときに、一緒にいた友人がポロッとユーモア溢れる冗談を言ってくれたことで、気持ちが和らいだみたいなことってありますよね。このような日常生活の例からもわかるように、ポジティブな感情はネガティブな感情を打ち消す効果があるんです。

緊張しているとき、友人の冗談によって気持ちが和らぐようにポジティブな感情はネガティブな感情の影響を打ち消す効果がある

「褒めること」でポジティブな感情を誘発する

このように、ポジティブな感情はネガティブな感情の効果を緩衝しながら、僕たちの視野や思考を拡げ、「行動に移してみよう」という気持ちを高めてくれる役割があります。そのため、ポジティブ心理学や解決志向アプローチでは、「褒めること」でポジティブな感情を誘発し、視野や思考、行動を拡げて、解決の糸口を見つけていこうとするわけです。このポジティブな感情の役割を知ると、使わない手はないですよね? 特に問題を抱えて悩んでいるときなど、僕たちはどうしても視野が狭くなり、行動に移すことも億劫になりがちです。だからこそ、褒めることで、このポジティブな感情を最大限に活用していきたいんです。

しかし、問題を抱えて悩んでいるときに、いきなりポジティブな感情をもつって正直、難しいですよね。強制的にやっちゃうと逆効果になってしまう恐れもありますし、少し非現実的な感じもします。そのため、次回の記事から数回に分けて、問題を抱えて悩んでいる人に対して、どうやってネガティブな状態からプラスの状態にもっていくかについて、一緒にみていきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Fredrickson, B. L., & Levenson, R. W. (1998). Positive Emotions Speed Recovery from the Cardiovascular Sequelae of Negative Emotions. Cognition and Emotion, 12(2), 191–220.

Fredrickson B. L. (2001). The role of positive emotions in positive psychology. The broaden-and-build theory of positive emotions. The American psychologist, 56(3), 218–226.

Fredrickson, B. L., & Branigan, C. (2005). Positive emotions broaden the scope of attention and thought-action repertoires. Cognition & emotion, 19(3), 313–332.

Warner, R. E. (2013). Solution-focused interviewing: Applying positive psychology: A manual for practitioners. University of Toronto Press.

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Shin Matsuguma | 松隈信一郎
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