Nostalgiaの点描

昭和への回顧が週刊誌やTV番組で
取り上げられている。
高齢化とデジタル化が進むほどに
昭和が浮き彫りになる。
半藤一利さんが逝去され、
その惜別の意味でも昭和に光が当たる。

先週DVDディスク整理していたら、
ビートたけしさん主演の
刑事ドラマの録画が出てきた。

2007年にテレビ朝日がドラマ化した、
松本清張氏の「点と線」である。
原作は社会派推理小説の金字塔、
言わずと知れた、昭和を代表する傑作。

舞台は高度成長期前の、昭和30年代の
福岡・香椎と東京。
香椎の海岸で男女の死体が発見され、
事件を追う刑事たちの推理と執念を描く。

所轄の鳥飼刑事(ビートたけし)と、
警視庁の三原刑事(高橋克典)たちが組む。

鳥飼は、出征経験があり、
朴訥で頑固だが鋭い推理力をもつ。
東京駅の13番線のフォームから
15番線のフォームが見渡せるのは、
1日の中で17時57分から18時01分の
わずか4分間しかないことを突き止める。
そこから犯人のアリバイを崩していく。
ビートたけしさんの好演は、
鳥飼刑事が実在人物に感じられる程だ。

このドラマの演出は、実に上手い。
刑事たちの躍動感のみならず
当時の警察署や
喫茶店、旅館などの造形、
当時のファッションや世相を醸し、
昭和の息吹を感じる。
その演出アイテムのひとつに
警察手帳がある。

同時の警察手帳として使われているのは
現代の刑事ドラマのように
縦見開きの証明写真付きではなく、
ノート部分の多い小型版。

ドラマの中で刑事たちは聞き込み調査等で
手帳に書き込んだ内容を
薄暗い刑事部屋で、
狭く揺れる電車の中で、
出張先の北海道の旅館で食事をしながら、
何度もページをめくっては読み返し、
仮説や推理を練り上げる。

いわば執念の手帳。
そのページには大きく野太い文字が
不均一に並んでいる。

実際、現代の刑事さんなら、
電子媒体へのデジタル入力だろうか。

人の話を聴き、
書き込んでは考える。
考えてはまた書く。

手書きで練り上げ、絞り出す。
絞り出しては待つ。
何かが降りてくるのを。

アナログならではの手帳の魅力。
さりとて、手書きで脳を刺激するのは
昭和に限ったことではない。

画像1

実際の警察手帳を僕は知らないが
警察官だという証明の目的、
県民にとっての安全という意味では、
現代の警察手帳ほうが
機能的で実用的、安心と言えるだろう。

懐古主義ということではなく、
現代の利便性や安全、時短化等を
享受したいと願っているが
でも、どこか惹かれる。
あの躍動する刑事たちの手帳に…。

ところで話は変わるが
僕はこのドラマで大好きなシーンがある。

その事件から何十年かの歳月を経て、
既に鳥飼は亡くなっている。
老いた元刑事の三原(宇津井健さん)と、
鳥飼のひとり娘(池内淳子さん)が、
東京は丸の内の喫茶店でお茶を飲む場面。
鳥飼を懐かしみ、遠い日に帰るのだった。

宇津井さんと池内さん。
昭和を代表する大スター。
お二人ともに逝去されて久しい。
歳月はあっという間。
Nostalgia、懐古主義だろうか。

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