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マーケティングと広報の違い #2~インターネットに掲載されるマーケティング記事とリリース記事の違い~

「広報」と「マーケティング」― この2つの機能の違いが何なのか?前回の記事では広報とマーケティングの定義や歴史的経緯、現代における役割分担など様々なことを見てきました。今回は、その内容を踏まえて、現代においてインターネット上に掲載されているマーケティング記事と広報記事 (リリース記事)の違いについて見ていきます。そこには情報を第三者である「メディア」を通して伝えることによる事情が存在します。この記事の内容はIT業界を特に意識しています。

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広報、マーケティングと「メディア」の関係

人々が様々な情報を入手する際に使うのが「メディア」ですが、インターネットを一般人が普通に見るようになった約25年よりも前は、多くの人にリーチできるメディアは一部のメディア企業によって長らく独占された状態でした。活字が発明されて以来メディアとして利用されてきた新聞、書籍、雑誌、さらにはより近代的なマスメディアとしてのラジオ、テレビ、交通広告など、いずれもその内容の作成権限は独占されており、Media Relationsを持つ組織・団体でなければうまく活用できませんでした。

情報発信の民主化によるメディアとの関係性の変化

しかし、インターネットが普及した現代では、ウェブサイトやメルマガの発行などのテキスト情報や、さらにはYouTube、TikTok、Instagramなどの画像・動画に到るまで、個人のレベルであっても無料で情報発信することができるようになりました。

この、「デジタル情報発信の民主化」の時代に、特にデジタルマーケティングの手法として、顧客向けに伝えたい内容をコンテンツとして作成して配信するコンテンツマーケティングの方法が多く取られるようになりました。そのため、インターネット上には顧客向けの記事が多く溢れている状態です。

一方、広報活動においては、インターネット以前は記者会見を開いたり、発表事項を記載した「プレスリリース」を書面、FAX、メールなどの方法で記事を書く記者に送りつける手法が取られていました。インターネットが普及した今では、自社のウェブサイトに発表事項を掲載する「ニュースリリース」や、インターネット上の誰でも見られるサイトにプレスリリースを掲載する「PR専門メディア」も現れたことで、発表内容を誰でも直接見ることができるようになりました。

このような事情のため、インターネット上では「ニュースリリース」「プレスリリース」「コンテンツ記事」が混在して掲載されています。しかし、これらの内容には書かれ方に大きな違いがあることをご存知でしょうか?

分かりやすさとストーリーを重視するマーケティング記事

マーケティング記事 (コンテンツ記事) は、対象となる読者に直接読んでもらうことを想定して書かれます。オールドメディアとしては新聞、雑誌を始めとする紙媒体への広告出稿、書籍の出版、テレビやラジオへのCM出稿などがあります。これらは基本的には有料です。その代わり、分かりやすくするための推敲や校正作業はあるものの、マーケッターが最終確認した内容そのものがメディアに掲載されるというメリットがあります。(ただし、広告であることが読者や視聴者からも分かるようになっています。)

デジタルメディアの場合は、自組織のウェブサイト等の「オウンドメディア (Owned media)」と、ニュースサイト等の有料の第三者のメディア「ペイドメディア (Paid media)」を使い分けます。ペイドメディアは紙媒体の広告と同じ扱いで、広告出稿であることが分かる状態でそのままの記事が掲載できます。オウンドメディアは自分で無料でいくらでも好きな記事を掲載できますが、ページビューや対象読者の有無においてオウンドメディアよりもペイドメディアの方が有利である場合が多く、オウンドメディアのみで読者に訴えかけるには、オウンドメディアのページビューや読者層をうまく育てる必要があります。

マーケティング記事の場合は、読者層が読みやすく分かりやすいものが求められます。技術系の対象読者の場合は難しい技術の詳細を解説することもありますが、一般の読者層の場合は、極端で分かりやすい事例やストーリーで脚色して書かれる場合も多いです。また、内容は最新である必要は必ずしもなく、すでにほかで発表されていてニュース性はないものでも構いません。一方、逆に信憑性、ファクトチェックはデジタルメディアの場合、お座なりになってしまうケースも散見されます。

ポイント:
マーケティング記事はターゲットとなる読者に直接届けることを想定して書かれる。読者に取って分かりやすいこととストーリー性も重視される。

ファクトとニュース性を優先する広報記事

一方、「ニュースリリース」「プレスリリース」の相手は基本的にはメディア関係者 (記者)です。ニュース記事を書く記者が知りたい情報はいつ、どこで、誰が、何を、何のために、どうした、といった5W1Hのファクト情報と、それが新しくニュースになる情報であるかどうか、になります。そのため、「ニュースリリース」「プレスリリース」ではこれらの内容がきちんと網羅されるように、かつそれを証明する裏付けや数字も添えて記事が書かれます。記事に一番求められるのは内容の正確さになります。そのため、発表内容を後から黙って書き換えるなどは厳禁です。

記者はこのリリース記事を見て自分なりに解釈を行い、場合によっては自分が知っているその他の情報と組み合わせて記事を作成してニュースサイトに投稿します。顧客を含む公衆の大多数は、ニュースサイトに投稿された記者の色眼鏡を通した記事を読むことになります。特にIT業界では発表内容が難解であることが多いため、一般人がリリース記事を直接読んでも内容や意義がよくわからないというケースも多くあります。

しかし、発表元の意図通りに記事が書かれるとは限りません。その時の市場状況や他のニュース、さらには記者の持つ偏見や追加情報によっては、同じ内容でもかなりネガティブな書かれ方をすることもあります。そのため、広報関係者はそうならないように記事の文言の正確性や情報の粒度と過不足、市場情勢を見極めた発表のタイミングに気を遣います。

ちなみに、IT業界においては昔から業界にある謎の風習として「エンドースメント」をリリース記事の中に入れるといったものがあります。関係者の所属、役職(事業責任者など)、名前とコメントをいくつか掲載することで、客観的信憑性を上げることが目的だと思われますが、私はいまだかつてこれの有無によってリリース記事の取り上げられ方に違いが出たり価値が変わったりしたことを見たことがありません。ただしその割に、リリース記事を作る際にエンドースメントの収集には多くの工数と時間が割かれます (担当者泣かせ)。

ポイント:
広報記事は記者を通して拡散することを意識した書き方になっており、ファクト、ニュース性、正確性が重視される。記事を書く記者側に立って物事を考える。

デジタル時代に距離が縮まる広報とマーケティング・コミュニケーションの手法 

いかがでしたでしょうか。広報記事とマーケティング記事の書き方はなんとなく同じかな?と思っていた読者もいると思いますが、相手が何を知りたいか、何を通して情報を得るのかを考えると、優先される内容が全く異なっていることが分かります。従って、基本的には両者の記事はお互いに流用せずに相手によって書き直すことが望ましいです。

情報を直接伝えるか間接的に伝えるかで記事の内容が異なってくる

最近では、リリース記事でもマーケティングの要素を取り入れ、雰囲気の形成、価値観の提供、第三者による拡散を狙った「戦略PR」の手法が取り入れられ始めてきています。手法としては、内容をわかりやすく図解するインフォグラフィックス、グラフィックレコーディング (グラレコ)、動画を使ったPRなどが取り入れられてきており、記者だけではなく公衆に直接アピールすることも意識した作りになっています。

また、広報活動の一環としてTwitter、Facebook、YouTube、Instagram、LinkedInといったソーシャルメディアへの投稿を行う場合もあります。これらはマーケティングが管轄する場合もあり、組織の考え方や役割分担によって異なってきます。これも、「メディア」を通してしか公衆にアピールできなかった広報活動が自分で無料で情報を色眼鏡無く直接届ける傾向が強くなってきた現れであるといえます。

最後までお読み頂きありがとうございました。では、また!

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