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「つなぐ」ということ

12時4分。
僕らが乗車している「ワイドビューしなの号」が、スルスルと松本駅の構内に入線して行く。「まつもとぉ〜、まつもとぉ〜」ホームに降り立つと、到着を知らせる心地良いアナウンスが心に沁みる。


ボストンバックを引きずった帰省客に混じり、僕らと同じ旅行客がチラホラと目に付く。心配していた天気も奇跡的に良い。いや、むしろ良すぎて避暑地としてはふさわしくないほどに暑い。10日ほど前から、日毎ひごとに変わる天気予報を眺めては溜息をついてきたのは何だったのだろうか。


久しぶりに戻ってくる息子を交えての家族旅行。お盆時期の渋滞を恐れ、今回は鉄道を使うことにしました。余程楽しみだったのか、少しだけ背伸びをしてグリーン車を予約していた。僕ができる最大の小さなサプライズ。


旅の目的は「蕎麦比べ」だ。
妻の両親は山形県出身。故に彼女は蕎麦と聞いたら「山形蕎麦」しか思い当たらないらしい。いやいや、信州にも美味い蕎麦がある。過去に何度か仕事で訪れた信州松本。きっと次回は家族で訪れよう、そう決めていたのです。それが意外にも早く叶いました。「信州蕎麦」の美味さを解らせる。


僕は四国出身ですので、基本的には蕎麦よりうどんの方が馴染み深い。特に讃岐うどんに関しては、結構こだわりが強くお気に入りの店も多い。でも、蕎麦に関して全くの素人。逆に素人だから故に公平に判断できるのかも知れない。そう思ったりもしています。


予約していたカーシェアリングで車をゲットすると、真っ先に車を走らせた先は市内の四柱神社。その社の片隅にひっそりとお目当ての蕎麦屋は佇んでいます。


流石に人気の蕎麦屋だけあって既にしっかり行列になっている。
ジリジリとした境内で待つことになり、もう限界かもと感じた頃、漸く僕らの名前が呼ばれました。店内に通されるとほんのりと蕎麦の香りが漂っている。


噴き出している汗を拭いながらメニュー表とじっくり睨めっこ。僕と息子は「辛味蕎麦」妻は「山菜きのこ蕎麦」を注文した。蕎麦が出てくるまでの間、名物の蕎麦茶を楽しみながら夢中でカメラのシャッターを切った。


『辛味そば』 Canon RF 24-105mm F4 L IS USM


辛味蕎麦の上には、しっかりと辛味大根おろしが乗っかっている。朝から何も食べていないこともあってか無性に食欲が湧いてきた。つゆに少しばかりの山葵わさびを溶かし、蕎麦を浸し辛味大根と一緒に口の中に放り込んだ。


「辛っらっ!!」
鼻を突く山葵わさびの香りに増して、辛味大根の極上の辛さが舌の上を転がり回る。蕎麦の美味さをこれでもかというくらいに引き立たせている。そんな辛さと美味さが第一印象。


目の前の息子に視線を移すと、想像以上の辛さと美味さなのか、無意識のうちに鼻水が垂れていた。いつも冷静な息子ではあるが、そんな表情が眼に入った瞬間吹き出してしまった。


辛いけど美味い蕎麦。
辛美味からうまい」そんな表現が一番伝わるだろうか。息子の放った一言。
唐辛子などの人工的な辛さとは違い、自然を相手にした辛さ。辛味大根と山葵わさび、そして特別に試行錯誤したであろう特別なつゆ。美味いに決まっている。


高価な蕎麦粉100%で打たれた「十割蕎麦」が最高級だというイメージがあったが、必ずしもそうではない。「つなぎ」を加えることで蕎麦自体が切れにくくなったり打ちやすくなったりする。また、喉越しが良くなるなどのメリットもあると伺いました。


そばの「つなぎ」に使用されるのは、一般的には小麦粉が多い。しかし、山牛蒡や山芋、時には卵や布海苔だって使われる事があるという。実に興味深い。


蕎麦は何となく家族に近い。
必ずしも純度100%が良いわけではない。絆を強くするためには「つなぎ」が必要だし、甘さや辛さを伴って成長する。「辛味蕎麦」を完食して改めて幸福というものを感じました。僕が我が家の「つなぎ」であらねばと。


自宅に戻った今、改めて財布の中を覗き込むと、あまりにも閑散としていることに気づいた。辛美味い旅行だった。
さて、今月はどうやってつないで行こうかな。


『山葵園の水車』 Canon RF 24-105mm F4L IS USM


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。🌿


🍵 僕の居場所




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